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失業を「起業のチャンス」と考えた人たちはどうなった?

  • 2026.5.26
失業をきっかけに企業した人たち / Credit:Canva

ある日突然、これまで積み上げてきた仕事が消えてしまうことがあります。

失業です。

そんなとき、人は立ち止まるのでしょうか。

実はコロナ禍では、一部の人々が「起業」という形で、別の未来の自分を試し始めていました。

カナダのオタワ大学(University of Ottawa)などの研究チームは、コロナ禍で仕事やキャリアの道筋を失った人々を調査し、彼らが「収入のため」だけではなく、「人生の方向感覚を取り戻すため」に起業へ向かうケースがあることを発見しました。

研究は2026年2月18日付で学術誌『Journal of Business Venturing』に掲載されています。

目次

  • 失業後、「試しに起業」した人たち
  • 「起業」は人生の方向感覚をつかむ”足場”になっていた

失業後、「試しに起業」した人たち

これまで起業研究では、「ビジネスチャンスを見つけた」「収入を得る必要があった」といった理由が重視されてきました。

しかし研究チームは、コロナ禍で仕事やキャリアの道筋を失った人々の中に、少し異なる動きがあることに注目しました。

それは、「人生の方向感覚を失った人々」が、起業を“新しい自分を試す場”として使っていたことです。

「人生の方向感覚を失う」とは、“職業的な迷子状態”のことです。

失業すると、「自分は今後どんな仕事をするのか分からない」「これまで積み上げてきたキャリアが突然意味を失った」「将来の人生設計が白紙になった」といった気持ちになってしまうかもしれません。

この研究では、そうした人々と起業を結び付けて考えたのです。

研究チームは2020年から2021年にかけて、コロナ禍で仕事やキャリアを失った47人へ詳細なインタビューを行いました。

ここで重要なのは、研究対象が「今すぐ生活費を稼がないといけない人」ばかりではなかった点です。

多くの参加者には、貯金や政府給付、家族の支援など、ある程度の安全網がありました。

そのため彼らは、「生き延びるための起業」というより、「今後どう生きるかを考えるための起業」を行う余地があったのです。

研究者たちはインタビューを分析する中で、多くの参加者が最初から本格的な起業家を目指していたわけではないことを発見しました。

むしろ参加者たちは、要するに「少し試してみよう」「今だけやってみよう」と自分を納得させるような形で、起業家としての自分や事業アイデアを試していたのです。

研究チームはこの行動を、「entrepreneurial play(起業家的な試行・遊び)」と表現しています。

つまり人々は、“起業家になる”というより、“起業家という役割を試着していた”のです。

そして分析の結果、研究者たちは、こうした「試しの起業」が、単なる暇つぶしではなく、危機によって崩れた人生を立て直すための心理的な役割を持っていたことを見出しました。

いったいどういうことでしょうか。次項からより詳しくみていきましょう。

「起業」は人生の方向感覚をつかむ”足場”になっていた

研究で特に重要だったのは、人々が起業を始める前に、「自分に許可を与える過程」を経ていたことです。

参加者たちは、「今しかない」「昔からやってみたかった」「コロナ禍だからこそ挑戦しても不自然ではない」「少しだけ試すだけならいいかもしれない」といった理由を作ることで、自分自身を納得させていました。

研究者たちは、この自己許可には3つの側面があると説明しています。

1つ目は感情的な正当化です。

「後悔したくない」「今やらないと一生できないかもしれない」といった感情が、人々の背中を押していました。

2つ目は社会的な正当化です。

コロナ禍という特殊な状況が、「キャリアを変えても不自然ではない」という空気を生み、挑戦への心理的抵抗を弱めていたのです。

そして3つ目は時間的な正当化です。

多くの人は、「一生その仕事を続ける」と決めたわけではありませんでした。

「数カ月だけ試す」「今だけやってみる」という形で、“仮の挑戦”として始めていたのです。

この点は非常に興味深い部分です。

普通、起業というと、大きな決断や強い覚悟を想像しがちです。

しかし実際には、人々は起業を「人生を一気に変える決断」ではなく、「今の自分に合う働き方を確かめる機会」として使っていたのです。

では、その後、彼らはどうなったのでしょうか。

研究によれば、一部の人は、起業家としての自己像を強め、そのまま事業を続けました。

起業を“試してみる”うちに、自分の価値観や働き方に合っていると感じ、本格的に事業へ取り組むようになったのです。

一方で、従来型の仕事に戻った人たちもいました。

しかし研究者たちは、これを単純な「失敗」とは捉えていません。

従来型の仕事に戻った参加者たちも、「自分が本当に望む働き方を理解できた」「将来への感覚を取り戻せた」「自信や自己価値感を回復できた」と語っていたからです。

つまりこの研究によると、起業は危機によって崩れた人生の方向感覚を立て直すための「足場」として機能していました。

建物を修復するとき、一時的に足場を組むように、人々は起業を通じて“新しい人生の形”を少しずつ組み立て直していたのです。

研究者たちは、今後もパンデミックや経済危機、技術変化などによって、多くの人がキャリアの不安定化を経験すると考えています。

そんな時代では、起業は単なる「会社を作る行為」ではなく、「自分を試し、方向をつかむ方法」として、予想以上に重要な役割を持つのかもしれません。

参考文献

Playing the entrepreneurial game can turn job loss into opportunity
https://phys.org/news/2026-05-playing-entrepreneurial-game-job-loss.html

元論文

Permission to play: Trying on entrepreneurship in times of crisis
https://doi.org/10.1016/j.jbusvent.2026.106583

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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