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中世ドイツのトイレ跡から「ノート」を発見、文字も判読可能だった

  • 2026.5.25
この画像はイメージであり、実際のものではありません/ Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

スマホをトイレに落としてしまった経験がある人なら、その瞬間の絶望感はよく分かるでしょう。

しかし中世ドイツでは、ある人物が落としたとみられる「ノート」が、結果的には最良の保存場所に入っていたようです。

ドイツ・パーダーボルンで進められている市庁舎新築に伴う考古学調査で、中世の便所跡から、13〜14世紀のものとみられる小さなノートが発見されました。

革、木、ろうで作られたそのノートは、約700〜800年ものあいだ土の中にありながら、文字が判読可能なほど良好な状態で残っていたのです。

この発見を発表したヴェストファーレン州地域連合考古学(LWL)によると、ノルトライン=ヴェストファーレン州で、この種のノートが完全な形で見つかったのは初めてだといいます。

目次

  • トイレは考古学者にとって「宝の山」だった
  • 商人のメモ帳か、上流市民の持ち物か

トイレは考古学者にとって「宝の山」だった

【発見されたノートの実際の画像がこちら

今回のノートが見つかったのは、ドイツ西部の都市パーダーボルンです。

市庁舎の新築工事に伴う発掘調査では、近世初期の建物の下から、合計5つの中世の便所跡が確認されました。

そのうちの1つから、縦10センチ、横7.5センチほどの革表紙を持つ小さなノートが出土したのです。

普通に考えれば、トイレ跡はあまり近づきたくない場所でしょう。

実際、LWLの修復士ズザンネ・ブレッツェル氏によると、発見物には何世紀も土の中にあった後でも、なお不快なにおいが残っていたといいます。

しかし考古学者にとって、便所跡はしばしば「宝の山」になります。

木や革のような有機物は、通常なら酸素や細菌の働きによって分解され、長い年月を越えて残ることは困難です。

ところが、湿っていて空気が遮断された便所跡のような環境では、分解が進みにくくなります。

今回の便所跡も、まさにそのような保存に適した環境でした。

ノートは濡れた土の塊に包まれ、最初は目立たないものだったといいます。

しかし修復工房で慎重に洗浄されると、革の表紙、木の板、そしてろうを塗ったページから成る「ろう書板」のノートであることが分かりました。

ろう書板とは、柔らかいろうの表面に尖った筆記具で文字を刻む、中世のメモ帳のような道具です。

筆記具の反対側は平ら、またはへら状になっており、ろうをならして文字を消すことで、同じ板を何度も使うことができました。

つまり今回のノートは、中世の人が持ち歩いていた再利用可能なメモ帳だったのです。

商人のメモ帳か、上流市民の持ち物か

【発見されたノートの別画像がこちら

発見されたノートは10ページから成り、そのうち8ページは両面にろうが塗られていました。

最初と最後のページだけは片面のみの構造です。

驚くべきことに、内側のページは固く密着していたため汚れが入り込まず、木も反っていませんでした。

そのおかげで、ろうは今も残り、刻まれた文字も読み取れる状態だったのです。

LWLの都市考古学者スヴェヴァ・ガイ博士によると、文章は本の持ち方によって2方向に書かれています。

ただし筆跡は1人のものとみられ、思いついたことをその場で記録するノートとして使われていた可能性があります。

初期の推測では、持ち主はパーダーボルンの商人だったかもしれません。

商取引を短く記録したり、自分の考えを書き留めたりしていた可能性があるのです。

中世の多くの人々が読み書きできなかった中で、商人は文字を扱える教育を受けた層でした。

この点は、ノートの使用者が一定以上の社会的立場にあったことを示しています。

さらに、革表紙には小さなユリ模様が規則的に型押しされていました。

ユリは中世において、純潔、王権、神の恩寵を象徴する植物とされ、こうした装飾も、このノートが単なる安物ではなく、比較的高級な品だったことを示していると考えられます。

また、文字に使われている言語はラテン語でした。

このことも、持ち主が上流階級、あるいは上層市民層に属していた可能性を示す手がかりです。

同じ便所跡からは、絹の布片も出土しています。

一部は長方形に裂かれ、細かく織られた装飾のある布も含まれていました。

研究者たちは、これらが使い古された高級布をトイレットペーパーのように再利用したものかもしれないと考えています。

もしそうであれば、この便所を使っていた人々がかなり裕福だったことを示す材料になります。

ただし、ノートの持ち主が誰だったのかは、まだ確定していません。

便所跡が特定の土地の区画と結びつけられれば、今後の文書館調査によって、その場所に住んでいた人物をたどれる可能性があります。

最良の場合、この小さなろう書板が、特定の人物の名前と結びつくかもしれないのです。

現在、LWLの研究チームは保存処理と素材分析を進めています。

ろうや樹脂の混合物、顔料の有無、融点、木材の種類などを詳しく調べ、最適な保存方法を探っている段階です。

また、文字の転写も依頼されています。

ただし文章は専門家にとっても解読が容易ではなく、誤った綴りや以前の文字を消した跡が重なっているため、全体の読解には時間がかかるとみられています。

やがて修復と解読が進めば、このノートは中世パーダーボルンで暮らした誰かの仕事、考え、日常の断片を現代に届けてくれるかもしれません。

トイレに落ちた小さなノートは、持ち主にとっては不運な紛失物だったはずです。

しかし700年以上の時を経た今、それは中世の人々の暮らしをのぞき見るための、思いがけないタイムカプセルになったのです。

参考文献

Scientists Found a Notebook in a Medieval Toilet, And It’s Still Legible
https://www.sciencealert.com/scientists-found-a-notebook-in-a-medieval-toilet-and-its-still-legible

Seltener Fund in Paderborn
https://www.lwl.org/pressemitteilungen/nr_mitteilung.php?urlID=63721

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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