1. トップ
  2. カルチャー・教養
  3. 笠原一人が推す、建築初心者が見るべき「東京建築祭2026」の名作5

笠原一人が推す、建築初心者が見るべき「東京建築祭2026」の名作5

  • 2026.5.20
東京建築祭

建築好きの祭典として年々注目を集める「東京建築祭」。なかでも人気なのが、普段は入れない名建築を体験できる特別公開だ。今回は建築史家・笠原一人が、“リノベーション”を切り口に、建築初心者にもおすすめしたい「東京建築祭2026」で見るべき5つの名建築をセレクト。モダニズム建築から古ビルまで、時代を超えて再生・継承される建築空間の面白さを案内してもらった。


Hearst Owned

全日本海員組合本部会館/六本木・赤坂・青山

近代建築の巨匠ル・コルビュジエの孫弟子に当たる大高正人が設計したオフィスビルを、大高の弟子であった野沢正光らが改修設計したものである。

一見、普通の鉄筋コンクリート造に見えるが、階段やエレベーターを収める2つの「コア」によって、極力柱をなくして広々としたオフィス空間を確保した大胆な構造を持つ。こうした建物は、改修時に耐震補強が必要になることが多いのだが、ここでは元々上階への増築を見込んで頑丈に設計されていたことなどから、最小限の耐震改修で保存が可能となった。

しかし建物の機能性や環境性能については現代的な要求に合わせるため、室内側に木製の建具を付加して二重窓とし、地下の大会議室にアクセスしやすいように外部階段が増設されるなどした。

オリジナルの姿をよくとどめながら、機能性や建物性能を高め、明るく開かれたオフィスとして見事に再生したもので、全国にあまた存在する戦後モダニズム建築に希望を与える改修の秀作だと言える。

住所/東京都港区六本木7-15-26

Hearst Owned

港区立郷土歴史館/品川・三田・白金

1938年に公衆衛生院として建設された建物が、郷土歴史館や子育て支援施設などを含んだ地域のための公共施設として生まれ変わったもの。

元の建物は、関東大震災後に東京大学の安田講堂を初めとする校舎群の設計を担った内田祥三の設計である。内田は、アカデミックの象徴として、中世のゴシック様式を取り入れた鉄筋コンクリート造のモダンな建築をデザインすることで知られる建築家だ。ここでも、モダンなゴシック様式にスクラッチタイルを貼った鉄筋コンクリート造の「内田ゴシック」と呼ばれるデザインが素晴らしい。

建物を活用するために耐震改修が必要になったことから、部分的に補強壁が挿入されているが、外観や内観に影響しないよう工夫されている。また、安全のために手摺が増設され、バリアフリー化も行われている。改修前の古ぼけた印象はなくなり、かといって新しすぎるのでもない。歴史的建築物としての特徴をそのまま残し、それをより際立たせた歴史的建築物の良き改修事例だと言えるだろう。

住所/東京都港区白金台4-6-2 ゆかしの杜内

Hearst Owned

マーチエキュート神田万世橋(旧万世橋駅)/神田・九段

日本は世界有数の鉄道大国であり、質的に最も発達していると言えるだろう。それほど発達した理由の一つに、JRの場合、ヨーロッパの大都市に見られる頭端(ターミナル)型の駅がほとんど存在しないことが挙げられる。それは、19世紀末にいくつかの頭端駅が高架橋で結ばれて、合理的な通過駅型に改造されたベルリンの市街線をお手本としたことに始まる。「東京建築祭」で特別展示を行う1910年竣工の「日比谷OKUROJI」付近が、日本でのその最初のものとされる。

万世橋高架橋及び万世橋駅は1912年に完成したもので、辰野金吾設計の駅舎は関東大震災で失われ、ベルリンの市街線に似たデザインの高架橋だけが残る。「日比谷OKUROJI」にはない、かつての駅の改札口からプラットホームまでの空間が丸ごと残っているのが魅力だ。かつてのプラットホームにつくられたカフェに入れば、中央線の電車が行き交うのをまぢかで見ることができる。東京ならではの、歴史的土木的建築的鉄道空間を楽しんでほしい。

住所/東京都千代田区神田須田町1-25-4

Hearst Owned

岡田ビル/神田・九段

これまでに紹介した事例とは違って、元の建物を著名な建築家が設計したわけではない。よくある「古ビル」と呼ばれるオフィスビルで、現在の法規に適法しない状態、いわゆる既存不適格の建物だった。普通なら解体し新築する道を選択するが、ここでは建物を残しながら、大胆な減築や耐震補強などを施すことで、適法状態に改善したものである。

その結果、単純な箱状の建物の中に複数の吹き抜けが生み出され、オリジナルの柱梁がむき出しにされた。その中に新しい階段や通路が加えられて通路は迷路状になり、外部空間と内部空間が絡み合い、内部まで光が入り風が通るという、エキサイティングな空間が生まれた。

著名な建築家が手掛けた歴史的建築物であれば、オリジナルの特徴や価値を尊重することが重要になり、なかなかここまではできないだろう。名もなき古ビルだからこそ生まれる大胆さと迷路性が際立っている。全国の街中に数多く残る同様の古ビルの手本となることだろう。

住所/東京都千代田区神田錦町2-9-15

Hearst Owned

番外編:国立国会図書館 国際子ども図書館/上野・本郷・湯島

明治から昭和初期にかけて建設された旧帝国図書館の建物が、安藤忠雄らの改修設計により2000年に「国際子ども図書館」として生まれ変わった。

その際、玄関となるガラスボックスが建物正面を貫くように斜めに挿入された。しかし、それはオリジナルのルネサンス様式による三層構成の基壇レベルに抑えられており、既存建築の均整を壊してはいない。建物の背面には廊下として機能するガラスの箱が増築されたが、それによって、来館者はオリジナルの凝った外壁を間近で見ることができるようになった。

また3階の「本のミュージアム」では、ルネサンス様式で満たされた大空間に明快な円筒形の展示室が2つ増設されたが、オリジナルのデザインと対比を成しながらも大空間が分断されずにうまく残されている。

安藤忠雄らしい大胆なデザインで手が加えられているが、同時に、歴史的建築物の特徴を尊重するデザインとなっている。両方のバランスを上手く取るのは、なかなか難しいのだが、歴史的建築物の改修のよき事例だと言えるだろう。

住所/東京都台東区上野公園12-49

※「東京建築祭」での特別展示は終了。随時見学やガイドツアーを行っているので詳細は公式HPをチェックして。

笠原一人(Kazuto Kasahara)
建築史家。京都工芸繊維大学准教授。神戸女学院大学特任講師。専門は近現代建築史、建築保存再生論。近代建築やリノベーション、建築公開イベントに関する研究・発信を行うほか、「京都モダン建築祭」実行委員長、「神戸建築祭」実行委員として、建築文化をひらく活動にも力を注いでいる。歴史的建築の保存活用から戦後モダニズム、土木・都市空間まで幅広い視点で建築の魅力を伝えている。

元記事で読む
の記事をもっとみる