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いま見に行ける、日本で初めて建築家となった4人が遺した名作10

  • 2026.4.18
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今では当たり前のように使われている「建築家」という言葉だが、明治時代の日本には、まだその職業自体が存在していなかったという。

近代国家を目指すなかで西洋建築を学ぶ必要に迫られ、日本政府が招いたのが英国人建築家のジョサイア・コンドル。彼は東京大学で建築教育を行い、日本で初めて“建築家”と呼べる人材を育てた。その第一期生として卒業したのが、辰野金吾、片山東熊、曽禰達蔵、そして佐立七次郎。

彼らは西洋の建築技術を学びながら、日本の近代建築の礎を築いた“日本初の建築家”といえる存在だ。彼らが設計した建築の多くは、100年以上の時を経た今も各地に残っている。

本記事では、この4人の建築家のプロフィールとともに、現在も残る名作建築を10件厳選して紹介する。

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辰野金吾(たつの・きんご)


1854年生まれ。工部大学校(現・東京大学工学部)でジョサイア・コンドルに学んだ第一期生。イギリス留学を経て西洋建築の技術と様式を習得し、帰国後は教育者としても後進の育成に尽力。赤レンガと白い石材を組み合わせた重厚な意匠を得意とし、その様式は“辰野式”とも称される。「東京駅丸の内駅舎」や「日本銀行本店」などを手がけ、近代日本の都市景観を象徴する建築を数多く残した。

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東京駅/東京

辰野金吾の代表作として知られる「東京駅丸の内駅舎」。1914年に開業した本建築は、日本の近代化を象徴するターミナルとして誕生し、現在は国の重要文化財にも指定されている。赤れんがと白い石材を組み合わせた外観やドーム状の屋根など、西洋建築の様式を取り入れた意匠が特徴だ。

Getty Images

1923年の関東大震災では大きな被害を免れた一方、1945年の空襲により一部を焼失。戦後は安全性を優先した簡略な姿へと改修された。その後、創建当初の姿を取り戻す保存・復原工事が進められ、2012年に現在の3階建てへと再生された。

丸の内北口・南口に広がるドーム内部が見どころのひとつで、天井には鷲のレリーフや干支の装飾が配されている。細部にまで意匠が施された空間は、駅舎が単なる交通施設にとどまらず、日本の高度な建築技術や芸術性を世界に示す場でもあったことを物語っている。

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奈良ホテル/奈良

1909年に奈良公園の高台に開業した「奈良ホテル」は、「関西の迎賓館」として国内外の賓客を迎えてきた日本を代表するクラシックホテル。敷地は名勝・旧大乗院庭園に隣接し、周囲の豊かな自然や歴史的景観と調和するように建てられている。

本館は辰野による設計で、桃山御殿風の意匠を取り入れた檜造りの木造建築が特徴。和の伝統を基調としながら、マントルピースや洋家具など西洋の要素を巧みに融合させた和洋折衷の空間が広がる。高い天井や大きな梁を見せるダイナミックな構成も印象的だ。

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現在は大規模なリニューアル工事のため全館休館中で、2026年6月4日より本館(客室、メインダイニングルーム「三笠」、ティーラウンジ、バー、ホテルショップ)の営業を再開予定。全館でのリニューアルオープンは2026年秋を予定している。

宿泊はもちろん、ティーラウンジやバー、レストランの利用、奈良ホテルオリジナル商品や奈良の名品が揃うショップなど、多彩な楽しみ方ができるのも魅力だ。リニューアル後にはぜひ訪れたい一軒である。

奈良ホテル
奈良市高畑町1096

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旧北國銀行京都支店(現・DEAN & DELUCA 京都店)/京都

京都・烏丸通沿い、四条烏丸北エリアに位置する「DEAN & DELUCA 京都店」は、1916年に竣工した旧北國銀行京都支店をリノベーションしたもの。

設計を手がけたのは、辰野金吾と片岡安による辰野片岡建築事務所。赤レンガに白い石材を組み合わせた外観や帯状の装飾など、「辰野式」と呼ばれる意匠を今に伝える貴重な事例のひとつだ。

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約270㎡の店内は、銀行建築特有の高い天井を活かした開放的な空間が広がり、竣工当時の床タイルや金庫など、歴史を感じさせる要素も大切に残されている。

「DEAN & DELUCA 京都店」では「Japanese Artisanal Grocers」をテーマに、日本各地のつくり手にこだわった食材をセレクト。バイヤーが全国を巡って出会った食品が並び、併設の厨房で調理されるデリや、京都の人気店によるケーキやベーカリーも楽しめる。歴史的建築の趣を感じながら、イートインスペースで京都限定のメニューを味わえるのも魅力だ。

DEAN & DELUCA 京都店
京都府京都市中京区烏丸通蛸薬師下ル手洗水町645

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片山東熊(かたやま・とうくま)


1854年生まれ。工部大学校(現・東京大学工学部)でジョサイア・コンドルに学び、卒業後は宮内省内匠寮に入り、皇室関連施設の設計を中心にキャリアを築いた。ヨーロッパの古典様式を基盤とした端正で格調高い意匠を得意とし、代表作である「赤坂離宮(現・迎賓館)」では、その集大成ともいえる壮麗な空間を実現。装飾性と均整の取れた構成により、日本における西洋建築の成熟を象徴する存在となった。

出典:内閣府迎賓館HP

迎賓館赤坂離宮/東京

宮内省の建築家として皇室関連施設を多く担った片山東熊。なかでも1909年に東宮御所として建設された「迎賓館赤坂離宮」は、日本を代表する宮殿建築だ。

本館はネオ・バロック様式を基調とした意匠で、日本における西洋宮殿建築の到達点ともいえる存在。建築に加え、彫刻や工芸、内装装飾に至るまで、当時第一線で活躍した技術と美術の粋が結集している。

出典:内閣府迎賓館HP

戦後は国の迎賓施設として活用されることとなり、和風別館の新設を含む改修を経て、1974年に現在の迎賓館として開館。2006年から2008年にかけて保存修理工事が行われ、2009年には国宝に指定された。現在は本館や庭園などが一般公開されており、日本の近代建築と装飾美を体感できる空間となっている。

<写真>「花鳥の間」。天井画や七宝焼に花や鳥が描かれることから名づけられ、かつては饗宴の間として使用されていた。現在は公式晩餐会や記者会見の場として用いられ、華やかな装飾が空間を彩る。

迎賓館赤坂離宮
東京都港区元赤坂2-1-1

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東京国立博物館表慶館/東京

宮内省の建築家である片山は、「京都国立博物館」や「奈良国立博物館」といった近代の主要博物館を手がけ、日本におけるミュージアム建築の基盤を築いた存在。その系譜に連なる建築が、「東京国立博物館 表慶館」だ。

本建築は1909年に開館した、日本初の本格的な美術館建築のひとつ。皇太子(のちの大正天皇)のご成婚を記念して計画された。中央と両翼に配されたドーム屋根と、緑青色に輝く銅板の外観が印象的で、外壁上部には楽器や工具などをモチーフにしたレリーフが施されている。こうした装飾と均整のとれた構成は、明治後期の洋風建築の成熟をよく示しており、1978年には重要文化財に指定された。

表慶館は特別展やイベント開催時を除き、通常は非公開となっている。

東京国立博物館
東京都台東区上野公園13-9

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旧竹田宮邸(現・グランドプリンスホテル高輪 貴賓館)/東京

「旧竹田宮邸」は1911年に竣工した旧宮家の邸宅で、現在も創建当初の姿を色濃く伝える、貴重な近代建築の1つ。江戸時代より大名屋敷が集まった高輪の高台に位置し、明治以降は皇族や政財界の邸宅地として発展した歴史を背景に持つ。

本邸は、竹田恒久王と明治天皇第六皇女・常宮昌子内親王の婚姻に際して新居として建設されたもの。フランス古典主義を基調とした左右対称の構成に、マンサード屋根や装飾的な外観意匠を組み合わせ、迎賓空間にふさわしい格調高い佇まいをつくり出している。

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戦後を経て、1972年には建築家村野藤吾の設計により保存改修が行われ、現在は「グランドプリンスホテル高輪」の貴賓館として、歴史的価値を継承しながら迎賓や祝宴の場として活用されている。ご利用の際には、普段は立ち入ることのできない建築美や華やかな空間を間近で楽しんで。

グランドプリンスホテル高輪 貴賓館
東京都港区高輪 3-13-1

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曾禰達蔵(そね・たつぞう)


1853年生まれ。工部大学校(現・東京大学工学部)でジョサイア・コンドルに学び、卒業後は官庁営繕に携わったのち、建築家中條精一郎とともに「曾禰中條建築事務所」を設立。日本における建築設計事務所の先駆的存在となった。「慶應義塾図書館旧館」や「三井本館(原設計)」などを手がけ、公共建築から商業建築まで幅広い分野で実績を残した。

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小笠原伯爵邸/東京

「小笠原伯爵邸」は、1927年に小笠原長幹伯爵の邸宅として建てられたスパニッシュ様式の洋館。クリーム色の外壁にエメラルドグリーンのスペイン瓦を組み合わせ、鉄格子の意匠を施した窓や、中庭を囲むロの字型のプランが特徴で、日本におけるスパニッシュ建築の中でも完成度の高い一例とされている。

<写真>葡萄棚をモチーフにした軽やかなキャノピーが特徴の外観。

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戦後は一時用途を失い、取り壊しの危機に直面したが、約1年半におよぶ修復を経て、2002年にスペイン料理レストランとして再生した。広大なガーデンを活かしたウエディング会場としても人気を集めている。

館内には、ステンドグラスの天井が印象的なロビーをはじめ、開放的な回廊や喫煙室(シガールーム)、ラウンジなど、多彩な空間が展開されている。さらに、予約不要で立ち寄れるカフェも併設。往時の邸宅文化を現代に引き継ぎながら、多面的な楽しみ方を提案する場となっている。

<写真>ラウンジは、スタインウェイ&サンズのピアノが映えるクラシックスタイルの空間。インテリアは竣工当時の写真をもとに、ヨーロッパ各地から一点一点集められた。

小笠原伯爵邸

東京都新宿区河田町10-10

※レストランは完全予約制

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明治屋京橋ビル/東京

曾禰達蔵が中條精一郎とともに手がけた「明治屋京橋ビル」は、1933年に竣工したルネサンス様式の商業建築。明治屋の本社機能を備え、現在も1階にはストアーが入るなど、創建時の用途を保ちながら使い続けられている。

外観は三方をほぼ同一意匠で統一し、重厚な石造風の基壇と装飾豊かな低層部、縦長窓が整然と並ぶ中層部、アーチ窓が印象的な上層部へと積層的に構成されている。各層を区切るコーニスが全体のバランスを整え、イタリア・ルネサンス様式の端正さと都市的な華やかさを両立させている。

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また本建築は、地下鉄駅と一体的に計画された民間建築として現存最古の事例とされ、都市インフラと建築を結びつけた先駆的な試みとしても知られる。

東京大空襲による被害を受けながらも焼失を免れ、輸入食品を扱ってきた歴史から戦後には連合国関係者向けのストアーとして使用されるなど、時代ごとの役割を担いながら今日まで継承されてきた。2009年には中央区の有形文化財にも指定されている。

店舗に訪れた際には、床の大理石にアンモナイトの化石が見られるなど、思いがけないディテールに出会えるのもこの建築ならではの楽しみだ。

<写真>1階の京橋ストアーでは世界各国の食品や選び抜かれたワイン等が並ぶ

明治屋京橋ビル
東京都中央区京橋2-2-8

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旧田中光顕別邸(現・小田原文学館本館)/神奈川

曾禰の晩年の仕事として知られる「旧田中光顕別邸」は、1937年に政治家の田中光顕の別邸として建てられた洋館。

小田原城址公園の南、西海子小路周辺は、かつて武家屋敷が立ち並んだ地であり、明治以降は温暖な気候と豊かな自然に惹かれて、政財界人や文化人が多く別邸を構えた。本邸もそうした流れの中で誕生した一例だ。

建物は鉄筋コンクリート造3階建(一部木造平屋)で、鮮やかなエメラルド色のスペイン瓦を葺いた屋根が特徴。南面に張り出したサンルームや、タイルやアイアングリルを用いた装飾などに、当時流行したスパニッシュ様式の特徴がよく表れている。

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内部では、ゆるやかな勾配をもつ階段や、大理石を用いた手摺の繊細な意匠など、別邸建築らしい優雅さと細部へのこだわりが随所に見て取れる。

現在は小田原ゆかりの文学者の資料を展示する施設「小田原文学館本館」として公開され、近代の別荘文化と文学の歴史をあわせて伝える場となっている。敷地内には、尾崎一雄の旧邸「冬眠居」の一部や、本館と同じく田中光顕の別邸で北原白秋に関する資料を展示する和風建築「白秋童謡館」も点在。文学者の暮らしに触れられる空間として、あわせて訪れておきたい。

<写真>一面の芝生を望むサンルーム。

小田原文学館本館

神奈川県小田原市南町2-3-4

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佐立七次郎(さたち・しちじろう)


1857年生まれ。工部大学校(現・東京大学工学部)でジョサイア・コンドルに学び、卒業後は工部省の営繕部門に入り、官庁建築の設計・監督に従事した。レンガ造をはじめとする当時の先進的な構造技術を取り入れながら、均整のとれた堅実な設計を特徴とし、機能性と意匠性の調和を重視した作風で知られる。代表作には「旧日本郵船小樽支店」や「日本水準原点標庫」などがあり、近代日本における都市基盤整備と建築文化の形成に寄与した。

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旧日本郵船小樽支店/北海道

1906年に竣工した日本郵船の旧支店社屋。小樽では珍しい石造2階建の建物で、「近世ヨーロッパ復興様式」を基調とした端正な佇まいが印象的だ。ポーチ付きの正面玄関を中心に左右対称に構成され、両端を張り出した立体的な外観が、重厚さのなかに整ったリズムを生み出している。マンサード屋根やドーマー窓、控えめな装飾も相まって、全体に落ち着いた格式が漂う。

<写真>外壁には小樽軟石と登別中硬石といった地元産の石材が用いられている。

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内部には、営業室をはじめ、貴賓室や会議室が配されている。金唐革紙の壁紙や漆喰装飾も良好な状態で残り、明治期の美意識を今に伝えている。さらに、一般客・貴賓客・従業員それぞれの動線を分けた計画も特徴的で、見た目の美しさだけでなく、使いやすさにも配慮された建築であることがうかがえる。

1954年まで支店として使用されたのち小樽市に引き継がれ、現在は一般公開されている。1969年には国の重要文化財に指定され、近代建築の貴重な遺構として保存されているほか、フォトウエディングやイベント会場としても活用されている。

<写真>貨物や旅客の取り扱い業務などが行われた「営業室」。天井は梁による突出を活かした装飾性の高い格子状で、天井高が最大限に確保された開放的な空間。意匠を凝らした柱頭飾りにも注目したい。

旧日本郵船小樽支店

北海道小樽市色内3丁目7番8号

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