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女性の卵巣の病気PCOS、男性では「糖尿病や若ハゲ」の原因になっていた―病態の見直しで名称変更へ

  • 2026.5.17
Credit:canva

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、女性の約8人に1人というかなり高い割合で見られる、非常に身近な病気で、主に月経不順や排卵の乱れ、不妊との関連で知られてきました。

そのためこの症状は長く女性特有の病気だと認識されていて、家族内で似た体質が見られることから、主に母親の遺伝的な影響が関わると考えられてきました。

ところが近年、この病気を持つ女性の男性親族に、糖尿病や肥満、若ハゲ(男性型脱毛症)などが多いことが指摘されるようになったのです。

ここから、PCOSは現在「女性の卵巣だけの病気」ではなく、男女共に症状を持つもっと広範な病気である可能性が指摘されています。

こうした背景を受けて、オーストラリアのモナシュ大学(Monash University)のヘレナ・J・ティード(Helena J. Teede)教授らを中心とする国際研究チームは、PCOSという病気の実態を、現在の医学的知見と当事者・医療者の意見に基づいて整理し直しました。

その結果、PCOSは女性の卵巣の病気ではなく、インスリンの働きにくさ、アンドロゲン(男性ホルモン)の増加、卵巣機能の乱れなどが絡み合う、男女共に起きるホルモンと代謝に関わる全身性の病態として捉えるべきだとわかったのです。

この見方に立つと、現在の名称は実態を十分に伝えられていないことになります。

このことから「多嚢胞性卵巣症候群」という名称自体を、新たな名称「Polyendocrine Metabolic Ovarian Syndrome(PMOS)」へ変更することが決定されました。

これは日本語では「多内分泌代謝性卵巣症候群」に近い意味になります。(正式な日本語訳はまだ定まっていません)

これは病態の整理から、その実態に合わせて病名そのものまで変更するという、非常に大きな見直しです。

この研究の詳細は、2026年5月12日付で医学誌『The Lancet』に掲載されています。

目次

  • 「女性の卵巣の病気」だけでは説明できなかった
  • ホルモンと代謝の乱れが、全身の症状につながっていた

「女性の卵巣の病気」だけでは説明できなかった

PCOSは、長い間、月経や妊娠に関わる婦人科の病気として語られてきました。

実際、PCOSでは排卵の乱れや卵胞の発育異常など、卵巣機能の異常が重要な特徴として見られます。

しかし、患者に見られる問題はそれだけではありません。

PCOSの女性では、血糖値の異常、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、脂肪肝に関連する病気、睡眠時無呼吸など、体全体の代謝に関わる問題も起こりやすいことが報告されていました。

また、ニキビ、多毛、脱毛といった皮膚や毛髪の症状、うつや不安などの心理的な問題も、PCOSの女性に見られることが報告されています。

こうした特徴を並べて見ると、PCOSは単に卵巣だけに起きる病気ではなく、ホルモンや代謝の乱れを含む全身性の病態として捉える必要があります。

さらに近年、PCOSの女性を持つ家系では、男性親族に肥満、2型糖尿病、脂質異常、男性型脱毛症などが共通して見られることが報告されるようになったのです。

これはつまり、PCOSを「女性だけの卵巣疾患」として見る従来の理解では、病気の実態を十分に捉えていない可能性が高いのです。

そこで研究チームは、これまでの医学的知見と世界中の当事者・医療者の意見をもとに、PCOSの実態を改めて整理しました。

調査には、PCOS当事者と医療専門家から1万4000件以上の回答が寄せられ、産婦人科、内分泌科、小児科、皮膚科、心理学、栄養学など、複数の分野の専門家も議論に参加しました。

ホルモンと代謝の乱れが、全身の症状につながっていた

研究チームが整理した結果、PCOSは卵巣に起こる女性特有の病気ではなく、複数のホルモン系、代謝、卵巣機能が絡み合う病態として捉えるべきだと判断されました。

この病態を理解するうえで重要なのが、インスリン抵抗性です。

インスリンは血糖値を下げる働きを持つホルモンですが、インスリン抵抗性があると、体はインスリンをうまく使えなくなります。

すると血糖の調整が乱れやすくなり、2型糖尿病や脂質異常、高血圧など、代謝に関わる問題につながりやすくなります。

さらに、インスリンの働きにくさは、アンドロゲンと呼ばれる男性ホルモンの増加にも関係します。

アンドロゲンが高くなると、卵胞の発育や排卵のリズムが乱れやすくなり、月経不順や不妊につながることがあります。

同時に、アンドロゲンの影響は皮膚や毛髪にも表れます。

この見方に立つと、月経不順、糖尿病リスク、皮膚や毛髪の変化は、ばらばらの症状ではありません。

それぞれが、ホルモンと代謝のつながりの中で現れる、同じ病態の異なる表れとして理解できます。

そして、この病態の背景にある遺伝的・代謝的な特徴が家族内で共有されるなら、女性では月経や卵巣の問題として見えやすかった症状が、男性では肥満、2型糖尿病、脂質異常、男性型脱毛症などとして表れる可能性があります。

もちろん、男性の肥満、糖尿病、男性型脱毛症の原因をこの病気だけで説明できるわけではありません。

これらにはその他の遺伝、年齢、生活習慣、体重、ホルモン感受性など、多くの要因が関わります。

それでも、PCOSを「女性だけの卵巣疾患」として扱い、男性の健康問題と切り離して考えてきた従来の見方は大きく変わりました。

こうした病態の見直しを踏まえ、研究チームはこの病態の名称を従来の「多嚢胞性卵巣症候群」ではなく、「Polyendocrine Metabolic Ovarian Syndrome(PMOS)」と呼ぶことに国際的な合意を得ました。

「多内分泌」は複数のホルモン系が関わることを示し、「代謝性」は血糖や脂質、体重管理など、体がエネルギーを扱う仕組みとの関係を示します。

また、「卵巣」という言葉が残されているのは、排卵や卵胞の発育など、卵巣機能の異常も病態の一部であるためです。

新しい名前は、この病気が主に婦人科だけの問題ではなく、内分泌、代謝、生殖、皮膚、心理的健康にまたがって男女共に現れる複雑な全身性の病態であることを示しています。(ただし、現時点で男性にPMOSという診断が下されるわけではなく、男性版の病態については研究途上です)

さらに、この再分類は病名だけにとどまらず、今後の診療ガイドライン、医学教育、国際的な疾患分類にも反映され、世界的に一貫した理解へつなげられる予定です。

今回の国際的な取り組みに参加した米国コロラド大学アンシュッツ校の小児内分泌学者メラニー・クリー(Melanie Cree)氏は、「この病気の名前を変えることは、単なる言葉の問題ではありません。患者が実際に経験している全体像を、正しく認識するためのものです」と述べています。

これまでPCOSという狭い定義は、代謝やホルモンの複雑さを見えにくくし、多くの患者が診断されなかったり、十分に理解されなかったりする一因になってきました。

PCOSからPMOSへの変更は、女性の月経や卵巣の問題として見えていた病気を、男女の家族内で共有され得るホルモンと代謝の全身性の病態として捉え直した結果、病名の変更にまで至った大きな転換なのです。

参考文献

Global Experts, Including CU Anschutz Researcher, Rename Polycystic Ovary Syndrome (PCOS)
https://news.cuanschutz.edu/news-stories/pcos-new-name

元論文

Polyendocrine metabolic ovarian syndrome, the new name for polycystic ovary syndrome: a multistep global consensus process
https://doi.org/10.1016/S0140-6736(26)00717-8

ライター

相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。

編集者

ナゾロジー 編集部

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