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相場より2万円安い部屋の知られざる秘密…壊れているはずのエレベーターが“動いた”夜

  • 2026.5.2
写真はイメージです。提供:アフロ

多くのプロホラー作家達もファンを公言している、生配信サービス「TwitCasting」の怪談語りチャンネル「禍話(まがばなし)」。2016年から実に10年もの間紡がれてきたその実話怪談の数は3,000話を優に超えており、語り手のかぁなっきさんのトーク力と相まってファンを魅了し続けています。

今回はそんな禍話から、とある女性が引っ越し先の“家賃の安いマンション”で体験したお話をご紹介します――。


相場より2万円安い賃貸物件

写真はイメージです。写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

「え、ここのマンション……かなり安くないですか?」

Fさんの目に留まったその賃貸物件は、相場と比べて2万円ほど安かったそうです。

大学進学を機に、過度な干渉や慣習だらけの田舎から東京に着の身着のまま飛び出したFさんは、バイトと並行しながら必死に大学を卒業。派遣社員として化粧品メーカーで事務の仕事をしていました。

大学時代に交際していた恋人とは同棲までしていましたが、1週間前に大喧嘩が勃発。あれよ、あれよと別れ話に発展し、ついには家を追い出されてしまったのです。家族と疎遠なこともあって引越し資金も潤沢でないFさんにとって、この格安物件はかなり魅力的でした。

物件情報を端から端まで眺めたものの、物件写真で見る部屋の日当たりは良好で、周辺地図には騒音の原因となりそうな施設もない。近くには品揃え良好と評判のスーパーさえありました。

「あの……ここ、事故物件とかですか?」

その場で決めた“エレベーターが壊れた”物件

恐る恐る資料から顔を上げたFさんに、不動産屋はバツが悪そうに言いました。

「それがですねぇ……ここ、エレベーターが壊れているんですよ」

「……それだけ?」

エレベーターの故障程度、少々期間を設けて修理すればいいだけの話では? 家賃を下げるほどのことなのだろうか? いや、もしかすると、そうした修理では直しきれないような大規模な改修が必要ということなのかもしれない。

写真はイメージです。提供:アフロ

「でも、階段で普通に移動はできるわけですよね?」

「ええ、それはもちろんです! ただ、こちらのお部屋は3階になってしまうので、お客様の場合ですと、その……」

不動産屋はFさんの荷物に目線を向けました。

「それは大丈夫です。それくらいなら全然問題なく上がれるので」

「失礼いたしました。そのほかご懸念点としては、ここにもありますように1階がオートロックではなく共有の鍵を使う仕様になっていまして――」

正直言って100点満点の立地ではなく、本当であればじっくり内見もしたかったそうですが、いつまでも元彼の家に物を置いておくこともできない事情もあって、結局Fさんはその場で契約を決めました。

滲んで読めない“点検のお知らせ”

写真はイメージです。提供:アフロ

引っ越し当日。

業者が大きな家具・家電を数人がかりで階段を使って運び込むのを申し訳なさそうに見守っていたFさん。トラックが道路の向こうに消えていくまで見送ったあと、彼女はふと3階の外廊下の突き当たりに目をやりました。

ほんのりと日差しが遠のき、廊下の明かりが灯る前のかすかな時間帯。

慌てて越してきたので例のエレベーターをちゃんと見ていなかったな……――そう思ったのです。


【エレベーター点検のお知らせ】
下記の期間、点検作業のためエレベーターは停止いたします。
■ 点検期間:__________
■ 作業時間:__________
■ 作業内容:点検
管理会社:「有限会社 東□陽□ハウジング□ービス」


埃で薄汚れたエレベーターの窓に貼られていた貼り紙を見ると、確かに“点検中”であることがわかりました。

ですが、肝心の点検期間などが全くの空欄で、管理会社の名前も水で滲んだあとに乾いて読みづらく、貼り紙が経年劣化している点も気になりました。

「変なの……」

しかし、エレベーター以外の点で見ればこのマンションは大当たりでした。

備え付けのエアコンはマイナスイオンが出る最新モデルであり、給湯器や水周りも比較的新しいもので見栄えも悪くありません。

寝転んだベッドから見慣れぬ天井を見つめながら、Fさんは呟きました。

「エレベーターも直せばいいのに」

隣人の部屋の奥に見えたのは…

翌日。

Fさんは菓子折りを持って、角部屋だった左隣の隣人を訪ねていました。

幸いにも右隣が空き室だったこともあり、このお隣さんと良好な関係を築ければ勝ったのも同然、そんな気持ちでインターホンのボタンを押したのです。

「はーい」

ひょっこりと顔を出したのはFさんより幾分年下のHさんという女子大生で、柔和で愛想の良い笑顔を返してくれました。

ドタバタして挨拶が遅れたことを謝りつつ菓子折りを渡したとき、ふと廊下の奥に目がいきました。

リビングへ続くすりガラスの扉は閉められていましたが、テーブルを囲んで数人が静かにこちらを見ているような影が見えたのです。

写真はイメージです。写真:tonkoAFLO/イメージマート

休日に大学の同級生たちと宅飲みをしている最中だったのかな……邪魔をしてしまったと焦ったFさんは、手早く話を切り上げると隣人の部屋をあとにしました。

飲み会中だったのに笑顔で挨拶してくれたHさん。

「はぁ~……」

こういう目端の効かなさが男と長続きしない原因なのかもなぁ、自傷気味にため息を漏らしたFさんはあることに気がつきました。

飲み会中のお隣から全く物音がしないのです。

てっきり自分が戻ったあとに「お隣さんの話が長くてさぁ~」などと話題に出されるのを覚悟していましたが、この予期せぬ静けさには驚かされました。

「このマンション、防音性能まで高かったとは……」

しかし、そんな喜びとは裏腹にFさんはその日の夜、奇妙な物音で目を覚ますことになったのです。

夜中に目を覚まし、耳に響いた「音」

写真はイメージです。提供:アフロ

ウゥゥーーーン……ガコン。

どこからともなく耳に響いてきた無骨な機械音のような物音。

外はまだ暗く、いつも点けて寝ていたスタンドライトのぼんやりとした明かりを頼りに壁掛け時計を見ると、時間は夜中の3時ごろでした。

「もぉ……なにこの音……」

掠れた声で呻きながら、眠気に後ろ髪を引かれたまま布団の中でぼんやり考えていると、脳裏にとあるイメージが浮かびました。

「エレベーター……」

規則的で重厚感のあるその物音は、エレベーターを稼働させるモーター音のようなものだと考えれば合点がいきました。

「なんだよ。音響くし、普通にエレベーター動くじゃん……」

舞い上がっていた防音性能が大したことないという落胆と、使えないと思っていたエレベーターが結局動いたという違和感。色々思うところがあったそうですが、眠りを邪魔された苛立ちが勝ったFさんはまた眠ろうと思考をシャットアウトし、布団を頭まで被りました。

ウゥゥーーーン……ガコン。

ポーーーン……。ガーーッ……。

彼女の意識が再び深い夢の中に溶けていく間際、エレベーターがFさんのいる3階の1つ下の階で止まり、扉が開くような音が聞こえた気がしました。

文=むくろ幽介

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