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「うちの擁壁じゃないと思ってたのに…」傾斜地の中古戸建てを買った30代夫婦が直面した、修繕費用1,000万円の境界線問題【一級建築士は見た】

  • 2026.6.8
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

「擁壁にヒビが入っているのは知っていました。でも、それが『うちの所有』だとは思っていなかったんです」

そう話すのは、都内近郊の傾斜地に建つ築30年・木造2階建ての中古戸建て(延床28坪・4LDK)を約3,800万円で購入したAさん(30代夫婦・子ども1人の3人暮らし)です。ひな壇状に造成された住宅地で、隣家との間には高さ約3mの擁壁(ようへき・土を支える壁)がありました。

入居から3年。大雨の翌日、Aさんは擁壁の一部に新たなひび割れが広がっているのを発見します。心配になって専門業者に調査を依頼したところ、擁壁の劣化が進んでおり、近い将来の修繕が必要との指摘を受けました。費用は約1,000万円。「うちの敷地じゃない側にあるから、隣家の負担だと思っていた」と話すAさんを待っていたのは、思いがけない展開でした。

擁壁は「どちらの所有か」で揉める

擁壁とは、高低差のある土地で土が崩れるのを防ぐためのコンクリートや石積みの構造物です。傾斜地の住宅地では、隣家との境界付近に擁壁が設けられているケースが多くあります。

「擁壁=下の家の所有」とイメージしがちですが、実際の所有関係は単純ではありません。一つの目安となるのが境界線の位置です。境界線が擁壁の上端にあれば下側の土地の所有者が、下端にあれば上側の土地の所有者が擁壁の所有者と考えられ、中央付近にある場合は共有関係になることもあります。

ただし、境界線の位置はあくまで目安にすぎません。擁壁の所有関係は、造成時に誰が費用を負担して設置したか、過去の所有者間でどのような取り決めがあったかなど、さまざまな事情が絡みます。境界線だけで一律に決まるわけではなく、最終的には公図や登記、過去の経緯を含めて、土地家屋調査士や弁護士などの専門家を交えて総合的に確認する必要があります。

Aさん夫婦のケースでは、購入時の重要事項説明書や過去の経緯を確認したところ、擁壁はAさんの敷地内に設けられており、所有者はAさん自身である可能性が高いことが分かりました。

工作物責任という重い法的責任

擁壁の所有者には、民法第717条「土地工作物責任」という重い責任があります。擁壁の設置や保存に瑕疵があり、それが原因で他人に損害を与えた場合、所有者は損害賠償責任を負うのです。

たとえば、擁壁が崩れて下の家の建物や人に被害が及んだ場合、所有者は損害を賠償しなければなりません。「天災だから仕方ない」と思いがちですが、台風や大雨が直接の引き金であっても、擁壁の劣化が背景にあれば責任が認められるケースがあります。

Aさん夫婦のケースでも、業者から「このまま放置して下側の住宅に被害が出れば、損害賠償責任を問われる可能性が高い」と指摘されました。

Aさん夫婦はどう対応しているのか

擁壁の所有者であることが判明したAさん夫婦は、自治体の宅地擁壁の相談窓口に問い合わせ、補助制度の有無を確認しました。

Aさん夫婦の自治体には、安全性に問題のある擁壁の修繕に対して上限200万円の補助制度がありました。これを活用しても自己負担は約800万円。住宅ローンの返済に加えて、この金額を一度に用意することは現実的ではなく、修繕に踏み切れない状態が続いています。

現在は、応急的な対応として擁壁の状態を月1回業者にチェックしてもらい、ひび割れの進行状況を記録しています。下の家の住人にも事情を説明し、状況を共有。「すぐに崩れるわけではないと業者には言われていますが、本格的な修繕の予算をどう作るかが、いま一番の悩みです」とAさんは話します。

「擁壁の所有関係を最初に確認していれば、購入時にもう少し慎重に判断できた」とAさんは振り返ります。

傾斜地の家を買う前に確認したいこと

擁壁のある中古住宅を検討する際は、建物の状態や立地だけでなく、擁壁の所有・状態・法的扱いも確認することが大切です。

・擁壁の所有関係:重要事項説明書・公図・登記に加え、造成時の経緯も含め専門家に確認
・擁壁の構造と築年数:古い擁壁は現行基準に合わず修繕費用が膨らみやすい
・擁壁のひび割れ・水抜き穴の詰まり:劣化のサイン
・自治体の補助制度の有無:擁壁修繕への補助金がある自治体も多い
・擁壁専門の調査:建物状況調査(インスペクション)は建物本体が対象で擁壁は基本的に含まれないため、別途、擁壁の専門業者による調査を依頼する

「傾斜地の住まい」が合う人もいる

ここまで擁壁のトラブルを中心に紹介してきましたが、傾斜地の住まいには大きな魅力もあります。眺望の良さ、平坦地より価格を抑えられること、独立性の高さなど、平坦な土地にはない価値があります。

擁壁の所有関係と状態は、境界線の位置だけで判断せず、購入前に専門家を交えてしっかり確認しておくこと。そのうえで、必要に応じて修繕費用も予算に組み込んで計画すれば、傾斜地の住まいは長く快適に暮らせる選択肢になります。「擁壁は土地と一体」という意識を持つこと。それが、傾斜地の家で後悔しない選び方の第一歩です。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者)
地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。


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