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庭は北向きが正解!? シドニーから届いた、植物のある暮らし。オージープランツの故郷で驚いた7つのこと

  • 2026.5.3

今、日本で絶大な人気を誇る「オージープランツ」。その故郷であるオーストラリアでの暮らしは、日本の園芸常識を覆す驚きの連続でした。北から降り注ぐ太陽、2億年前から姿を変えない神秘の樹木、そして火災さえも再生の糧にする不屈の生命力。シドニー在住の新井直美さんが現地で肌で感じた、力強くも美しい植物たちとの刺激的な日常を7つの視点で綴ります。

北から注ぐ太陽は日本の1.5倍! 逆転の光が引き出す驚異の生命力

シドニーで暮らし始めて、ガーデニングの常識が根底から覆されたこと。それは、太陽が「北」から降り注ぐということです。

日本では「南向きの日当たり」が理想ですが、南半球のオーストラリアでは正反対。庭づくりの際、ついつい癖で南側を確認してしまいますが、主役の光は常に北側にあります。北から降り注ぐ力強い光を受けて、一日中明るい庭の景色には、移住当初とても不思議な感覚を覚えました。

ユーカリの木
ユーカリの木に北から太陽が降り注ぐ。

この「光」の豊かさは、単なる感覚だけではないようです。近年の研究で用いられる、気象データや日光量から植物の育ちやすさを数値化した「Plant Growth Index(植物成長指数)」という指標を見ても、シドニーのポテンシャルは圧倒的。年間の日照時間は約2,847時間と、日本の約1,935時間に比べて約1.5倍もの差があるのです。

特に驚くのは、冬の晴天率の高さです。シドニーの冬は光合成が活発に行われる条件が揃っているため、植物たちは「冬眠」して足を止めるのではなく、一年中休みなく、じわじわと生命活動を続けています。

日本では考えられないほどの成長スピードで、数カ月目を離しただけで見上げる高さに育ってしまう木々。日本とは逆の空を見上げながら、四季を通じてパワフルに活動し続ける植物たちのエネルギーに、日々驚きと元気をもらっています。

バンクシアやグレヴィレアも! 2万6,000種が織りなす「固有種」の圧倒的楽園

ネイティブフラワーのブーケ
ワラタ(赤い大きな花)を主役に、オーストラリア原産の花々を組み合わせたネイティブフラワーのブーケ。Photography By Rozahn/Shutterstock.com

今、日本の園芸店で絶大な人気を誇る「オージープランツ」。その個性的で力強い姿に魅了されている方も多いのではないでしょうか。じつは私が初めてその洗練された美しさに衝撃を受けたのは、2000年のシドニーオリンピックでした。

メダリストに贈られたのは、伝統的なバラではなく、ニューサウスウェールズ州の花「ワラタ」を主役にしたネイティブフラワーの花束。その野性的で彫刻的な造形美は、世界中に新鮮な驚きを与えました。

パース植物園
西オーストラリア州の植物を集めたパース植物園で咲き広がる、色鮮やかな花々。MXW Stock/Shutterstock.com

近年、日本でもガーデンセンターなどで「オージープランツ」を目にする機会が増え、そのユニークな姿に魅了される方も多いでしょう。しかし、現地で暮らしてさらに驚かされたのは、その圧倒的な多様性の正体です。オーストラリアには約2万4,000〜2万6,000種もの植物が存在し、花を咲かせるものだけでも約2万種にのぼります。 さらに驚くべきは、その約85〜90%が、この大陸以外では決して見ることができない「固有種」であるということ。日本で出会えるのは、その広大な世界のごく一部にすぎないという事実に、改めて圧倒されました。

アカシア・ペンデュラ
アカシア・ペンデュラは、オーストラリア東部の内陸部に自生するアカシアの一種。KarenHBlack/Shutterstock.com

日本でお馴染みのミモザ(アカシア)だけでも1,200種以上、ユーカリにいたっては800種以上ものバリエーションがあるのです。気の遠くなるような年月をかけ、厳しい環境の中で独自に進化を遂げてきた植物たち。

可愛らしいだけではない、個性的でタフな美しさ。その背景にある膨大な多様性とダイナミックな風土を知るたびに、オーストラリアの庭が持つ奥深さに、ますます心が惹きつけられてやみません。

ティーツリーはアロマより「家庭の常備薬」! スーパーで買える万能薬の距離感

ティーツリーオイル
私が愛用しているティーツリーオイル。スーパーで手軽に買える。

シドニーに住み始めて間もない頃、指を怪我した私に友人がそっと手渡してくれたのは、小さなティーツリーオイルの瓶でした。「傷口に塗っておくといいよ、殺菌作用があるから」と教えられ、最初は少し戸惑ったのを覚えています。

日本でティーツリーといえば、アロマショップで見かけるおしゃれな精油のイメージ。ところが、ここオーストラリアではスーパーや薬局の棚にごく当たり前のように並んでいます。その「距離の近さ」には本当に驚かされました。

ティーツリー
「ペーパーバーク」の名の通り、幾重にも重なる白い樹皮が美しいティーツリー。

じつはティーツリー(Melaleuca alternifolia)は、オーストラリアだけに自生する固有の植物です。白く薄い紙を重ねたような樹皮が特徴で、古くから先住民のアボリジニの人々が「森の医学」として、その葉を怪我の治療などに大切に用いてきました。

使い方も驚くほど多用途です。ニキビができたらちょんと塗り、虫刺されやちょっとした擦り傷にも。まるで「困った時は、まずティーツリー」という万能薬のような存在。化学的な薬品に頼る前に、まずは身近にある植物の力を借りる――。

そんな、自然由来の知恵を気負わず当たり前に生活に取り入れる軽やかな感覚は、オーストラリアでの暮らしが教えてくれた新鮮で素敵な発見でした。

ウォレマイ・パインは「生きた化石」! 2億年前から姿を変えない、20世紀最大の発見

レジーナさん
ロイヤル・ボタニック・ガーデンでボランティアをしているレジーナさん。

「約2億年前から姿を変えず、絶滅したと思われていた植物がここにあるのよ」。そう教えてくれたのは、ロイヤル・ボタニック・ガーデンでボランティアをされているレジーナさんでした。

ウォレマイ・パイン

その植物の名は「ウォレマイ・パイン(Wollemi Pine/ウォレミマツ)」。かつては化石の中でしかその存在を知られておらず、約200万年前に絶滅したと考えられていました。ところが1994年、シドニー近郊のウォレマイ国立公園にて、深い峡谷を歩いていた公園局職員のデビッド・ノーブルさんが、偶然にもこの樹木を「再発見」したのです。

ウォレマイ・パインの記念プレート
1998年、世界で初めて一般公開として植樹された「第1号」のウォレマイ・パインの記念プレート。

「20世紀最大の植物学的発見」として世界中に大きな衝撃を与えたこのニュースは、まさに恐竜時代の生き残りと出会ったような奇跡でした。ジュラ紀から白亜紀にかけて繁栄したナンヨウスギ科の植物で、2億年以上もの間、その姿をほとんど変えていないといわれています。

ウォレミマツ
2億年前から変わらない葉の造形。

現在も、病気の持ち込みや乱獲から守るため、自生地の正確な場所は「最高機密」。限られた研究者以外、誰も立ち入ることができません。そんな神秘のヴェールに包まれた「ジュラシック・ツリー」が、今ではここロイヤル・ボタニック・ガーデンで大切に育てられ、私たちの目の前で瑞々しい葉を広げている――。レジーナさんの熱心な解説を聞きながら、オーストラリアの自然が持つミステリアスな奥深さに、改めて圧倒される思いでした。

ブッシュファイヤーを越えて。黒焦げの幹から新芽が吹き出す「不屈の生命力」

山火事の後
ブラックサマーの火災直後の生々しい爪痕。

オーストラリアで暮らす中で、最も身近で、かつ深刻な自然災害といえば「ブッシュファイヤー(森林火災)」です。特に2019年から2020年にかけて発生した大規模火災「ブラックサマー」は、想像を絶する爪痕を残しました。

その総焼失面積は2,400万ヘクタール以上。これは日本の国土面積の約6割に相当する規模です。当時、森林を焼き尽くした煙はシドニー市内までも覆い尽くし、我が家のベランダにも灰が降り注ぎました。あまりにも多くの命が失われた、悲しく、そして恐ろしい記憶として深く刻まれています。

山火事から復活したユーカリ
火災から数カ月後、黒く焦げた幹から潜伏芽が萌え出たユーカリ。

炭のように真っ黒に焼き尽くされたユーカリの幹。その無惨な姿から、まるで魔法のように鮮やかな緑の新芽が直接吹き出していました。これは厚い樹皮の下で守られていた「潜伏芽」という予備の芽が、火災の熱を合図に目を覚ました証です。

山火事から復活したシダ
黒く焼けた幹から鮮やかな緑の葉が再生し始めたシダ。

さらに足元に目を向けると、同じように黒焦げになった地面から、ゼンマイのようなシダの新芽が力強く頭をのぞかせていました。地中深くにある根茎が火災を生き延び、どの植物よりも早く、新しい命の絨毯を広げようとしていたのです。

この「黒と緑」の鮮烈なコントラストは、自然の驚異であると同時に、どんな困難からも立ち上がる不屈の生命力を象徴しているかのようでした。厳しい環境を逆手に取り、火さえも再生のエネルギーに変えてしまうオーストラリアの植物たち。その圧倒的な強さに、今でも背筋が伸びるような思いがします。

シドニー王立植物園。オペラハウスを望む、世界で最も美しい植物の拠点

シドニー王立植物園

シドニーの象徴といえば、真っ先に思い浮かぶのはあのオペラハウスですよね。そのすぐ隣に、驚くほど美しい「シドニー王立植物園」が広がっています。

都会の喧騒を忘れるような静寂に包まれながら、ふと目を向ければ、オペラハウスの白い曲線とハーバーブリッジが青い海に映える絶景——。この特別な場所には、なんと8,000種を超える植物たちが、約2万7,000株も瑞々しく息づいています。

オーストラリア最初の農場跡
オーストラリア最初の農場跡で、今も育てられている食用植物。

ビジネス街のすぐ隣に、約30ヘクタールもの広大な緑が守られてきたのには理由があります。1788年、初代総督アーサー・フィリップがこの地を政府農地として開拓し、「ファーム・コーブ(Farm Cove)」と名付けたのがその始まり。1816年には植物研究の拠点として整備されました。かつて港を通じて世界中の植物が運び込まれたこの場所は、じつは「研究」と「帝国のネットワーク」を支える重要な拠点でもあったのです。

ジャガランタの花
園内で咲くジャガランタの花。Photosounds/Shutterstock.com

近代的な発展を遂げた今でも、この歴史あるガーデンは入園無料で開放され、年間400万人以上の人々に愛されています。大都会の真ん中でオーストラリアの豊かな自然を慈しみ、共存する。その懐の深さに、移住したばかりの私がどれほど驚き、感動したかは言うまでもありません。

街全体がひとつの大きな「庭」。ポッサムと共生する、シドニーの軽やかな日常

シドニーの街

シドニーで暮らして最後に行き着いた最大の驚き。それは、この街全体がまるで巨大な植物園のように、どこへ行っても生命力あふれる緑と色彩に満ちていることでした。

シドニーの街

日常のすぐそばに、驚くような絶景が転がっています。ビジネス街のビルの足元には色鮮やかな花壇が広がり、街角のカフェには日本では見たこともないユニークな花々が並びます。人々はそれを当たり前の風景として慈しみ、街全体がひとつの大きな「庭」のように機能しているのです。

しかし、この「街全体が庭」であることは、野生動物にとっても同じ。それを象徴する出来事がわが家のベランダで起きました。ある日、ポッサムが住み着いてしまったのです。ポッサムとは、カンガルーと同じ「有袋類」の仲間で、つぶらな瞳とふわふわの毛並みが特徴の夜行性動物。やがて赤ちゃんまで産まれ、最初は喜んで見守っていたのですが……驚いたのはその食欲でした。夜な夜な活動しては、丹精込めて育てていた植物を、一晩で見事に食べ尽くされてしまったのです。

ポッサム

「せっかくの花が!」と嘆く私に、現地の友人は「彼らもこの庭の住人だからね」と笑って言いました。シドニーの人々は、花を愛でるだけでなく、それを狙う動物たちとも地続きの日常を送り、自然を丸ごと受け入れています。

花を単なる「観賞の対象」ではなく、野生動物も含めた「大きな生命の循環の一部」として楽しむ。ポッサムとの騒がしい共生生活を通じて、私の花との向き合い方も、より自由で軽やかなものへと変わっていきました。

オーストラリアのワイルドフラワー群落
オーストラリアの乾いた大地に春を告げる、エバーラスティングのワイルドフラワー群落。Tania Stout/Shutterstock.com

日本では“珍しい植物”として出合うことの多いオージープランツも、シドニーで暮らしてみると、街路樹として、庭木として、切り花として、そして野生動物と分け合う緑として、日々の暮らしのすぐそばに息づいています。北から降り注ぐ太陽、乾いた大地に進化してきた固有種、火災から再生する森、ポッサムも訪れる庭。日本で見るオージープランツの向こう側に、こんなにも豊かな風土と暮らしが広がっていることを、シドニーの日常は教えてくれました。

Credit
文&写真(クレジット記載以外) / 新井直美

オーストラリア・シドニー在住29年。エクステリアメーカー勤務。現地の住まいや庭づくりに関わる仕事のかたわら、自宅でガーデニングや観葉植物の栽培を楽しむ。長年のシドニー暮らしを通じて、オージープランツをはじめとする現地の植物、植物園、街の緑、野生動物と共生する庭のあり方に親しんできた。暮らしの中で見つけた、オーストラリアならではの植物文化を紹介する。

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