1. トップ
  2. おでかけ
  3. ルーカス・ミュージアムが2026年9月開館へ。ジョージ・ルーカスの膨大な「物語」コレクションと見どころを解説

ルーカス・ミュージアムが2026年9月開館へ。ジョージ・ルーカスの膨大な「物語」コレクションと見どころを解説

  • 2026.4.28

映画界の巨匠ジョージ・ルーカスの長年の夢「ルーカス・ミュージアム・オブ・ナラティヴ・アート」が、度重なる延期を経てついに2026年9月22日、ロサンゼルスで開館。映画資料と美術史を等しく「物語」として接続するかつてない美術館だ。宇宙船を彷彿とさせる未来的な建築の中に収められるのは、4万点におよぶ至宝の数々。大衆文化からハイ・アートまでを網羅するこの巨大プロジェクトの核心的な見どころとは?

PHOTO: SAND HILL MEDIA/ERIC FURIE. ALL RIGHTS RESERVED, © 2025 JAKS PRODUCTIONS

プロジェクトの発表から、実に10年以上の時が流れた。

この美術館「ルーカス・ミュージアム・オブ・ナラティヴ・アート」を構想したのは、映画『スター・ウォーズ』シリーズの生みの親であり、20世紀後半の映像文化を根底から書き換えた人物、ジョージ・ルーカス。映画監督やプロデューサーとして活躍する一方で、長年にわたり絵画やイラストレーション、コミック、写真といった「物語を描くイメージ」をコレクションし続けてきたルーカスにとって、物語とは娯楽である以前に、人間が世界を理解し、生き抜くための羅針盤ともいえるのだろう。

ジョージ・ルーカス Hearst Owned

そのヴィジョンをともに支えてきたのが、投資家であり教育・文化分野での慈善活動でも知られるメロディ・ホブソンだ。アメリカの公共教育に深く関わってきた彼女の視点は、この施設が「誰のための場所なのか」を定義づける重要な軸となった。

この二人の情熱が結実した「ルーカス・ミュージアム」は度重なる延期や計画の修正、パンデミックによる工期の見直しを経て、ついに2026年9月22日、ロサンゼルスのエクスポジション・パークに開館する。その曲折に満ちた歩み自体が、ひとつの壮大な物語のようでもある。

ミュージアムが掲げる核心的なテーマは、その名のとおり、「ナラティヴ(物語)」。ルーカスは「物語とは神話であり、視覚化されることで人生の神秘を理解する助けとなる」と語る。ここで焦点が当てられるのは美術史の正統な系譜ではなく、イメージを通じて恐れや希望を共有し、世界に意味を見いだそうとする人間の普遍的な営みそのものだ。

ラルフ・マクォーリー《砂漠でポッドを降りるR2と3PO》(1975)、『スター・ウォーズ エピソード4 / 新たなる希望』コンセプト画より。本記事掲載のすべての作品はルーカス・ミュージアム・オブ・ナラティヴ・アート収蔵。 © & ™ LUCASFILM LTD. ALL RIGHTS RESERVED. USED UNDER AUTHORIZATION
ロバート・コールスコット《ジョージ・ワシントン・カーヴァーのデラウェア川渡り:アメリカ歴史教科書の1ページ》(1975) © 2025 THE ROBERT H. COLESCOTT SEPARATE PROPERTY TRUST / ARTISTS RIGHTS SOCIETY (ARS), NEW YORK

4万点を超える常設コレクションの幅は驚くほど広い。トーマス・ハート・ベントン、ノーマン・ロックウェル、フリーダ・カーロといった近代絵画の重要作家をはじめ、フランク・フラゼッタやラルフ・マクォーリーらが手がけたイラストレーション、ウィンザー・マッケイやジャック・カービーらコミック・アートの巨匠たち、さらにゴードン・パークス、アンリ・カルティエ=ブレッソン、ドロシア・ラングなどの写真作品までを網羅している。

フリーダ・カーロ《エロエッサー博士に捧げる自画像》(1940) © 2025 BANCO DE MÉXICO DIEGO RIVERA FRIDA KAHLO MUSEUMS TRUST, MEXICO, CDMX / ARTISTS RIGHTS SOCIETY (ARS), NEW YORK
トーマス・ハート・ベントン《アメリカの歴史的叙事詩、第2章:斧(土地の開墾)》(1924–27) Hearst Owned
フランク・フラゼッタ『火星の王女』表紙画(1970) Hearst Owned

全35の展示室はジャンルや時代で区切られるのではなく、「愛」「家族」「コミュニティ」「遊び」「仕事」「スポーツ」「子ども時代」「冒険」といった、人間の経験に根ざしたテーマによって構成される。壁画や児童書の挿絵、SFイラストレーション、コミック、映画ポスターや映像資料も等しく並置され、ここでは“高尚”と“ポピュラー”の境界は意味を失うだろう。

また、館内の「ルーカス・アーカイブズ」には、映画製作の舞台裏を支えたコンセプト画や模型、衣装、劇中に登場するプロップなどが収蔵される。それらは映画史の裏側を伝える貴重な資料であると同時に、物語がいかに視覚化され、ひとつの世界として構築されていくのかを示す記録でもある。

2025年2月、ルーカス・ミュージアム建設中の風景。 © 2025 JAKS Productions. Photo courtesy of USC School of Cinematic Arts. Photo by Roberto Gomez. All rights reserved.

宇宙船を彷彿とさせる建物の設計を手がけたのは、MADアーキテクツを率いるマ・ヤンソン。一方、広大な緑地が広がるランドスケープは、ミア・レーラー(Studio-MLA)の手によるものだ。約4万4500平方メートルの広大な敷地にはギャラリーのほか、シアター、図書館、レストラン、カフェ、ショップ、コミュニティスペースが備わり、美術鑑賞という体験の場を超え、人々が対話し、感性を刺激し合うための文化的ハブとして機能する。

メロディ・ホブソンはこの場所を「人々のための美術館」と位置づけ、「ここにあるイメージは、私たちが日々生きるなかで抱いてきた思いや信念を映し出すもの。展示をめぐるうちに、自分自身と重なる瞬間を見つけてほしい」と話す。そのように「ルーカス・ミュージアム」は、専門家やコレクターのためだけの殿堂ではなく、訪れる一人ひとりが自身の記憶や経験を重ねられる場を目指している。幾度もの延期や計画の修正を余儀なくされてもこのプロジェクトが決して立ち消えなかったのは、「物語を語ること」が人間にとって不可欠であるという揺るぎない確信があったからだろう。その思いが現実の空間として現出する瞬間を、もう少しだけ、楽しみに待ちたい。

From Harper's BAZAAR art no.5

元記事で読む
の記事をもっとみる