1. トップ
  2. 「この一押しで数十万人が見る…」投稿ボタンを押す手が震える理由 安永課長の〝否定しない〟言葉の哲学

「この一押しで数十万人が見る…」投稿ボタンを押す手が震える理由 安永課長の〝否定しない〟言葉の哲学

  • 2026.4.24
image

【連載】市川市動植物園・安永崇課長が語る「SNSの光と影」(#4・完)

世界中から注がれる視線、鳴り止まない批判の電話、そして日々更新される「パンチくん」の成長。市川市動植物園(千葉県)の公式Xを運用する安永崇課長にとって、便利なSNSは一歩間違えれば誰かを深く傷つけ、園の信頼を失墜させかねない「諸刃の剣」だったのです。emogram編集部のライター・ゆんちが、パンチくんの〝仕掛け人〟である安永課長に話を聞きました。

毎回、手が震える。そのボタンの重み

公式Xのフォロワー数は19万人を突破。一度投稿すれば、瞬時に数十万人の目に触れる。その影響力を誰よりも理解している安永課長は、いまも公式Xを投稿するたびに極度の緊張感が走るといいます。

安永課長:「このボタンを押すと、瞬時に数十万人の方が、世界中の人が見るかもしれない。そう思うと、毎回、手が震えます。何度も何度も読み返して、ネガティブな表現はないか、傷つく人はいないか、あらゆる立場に立って文章を推敲して…最後は『よし、大丈夫!』と自分に言い聞かせて投稿しています」

「不用意な発信はしない」「言葉を徹底的に選ぶ」。その短い文章の裏側には、私たちが想像する以上の「自問自答」が繰り返されていました。

image

市川市動植物園公式Xより

「否定しない」という、究極の優しさ

SNSを投稿するときの安永課長の言葉選びには、ある一貫したルールがあります。それは「相手を否定しない」ということです。

例えば、殺到した「パンチくんのグッズを作ってほしい」という要望。それに対し、安永課長は「作りません」という言葉をあえて使いませんでした。

安永課長:「『作りません』と否定するのではなく、『いまは来園者の安全や、動物のストレスを最小限にすることを第一に考えたいんです』とお伝えするようにしました。テクニックではなく、自分が言われて嫌なことは言わない。SNSは尖った言葉で相手を傷つけ、そこから炎上が生まれます。そんな不毛な争いを起こさないために、どうすれば情報発信でこの難局を収められるか。それだけを考えていました」

否定で返すのではなく、自分たちの「守りたいもの」を誠実に伝える。そんな姿勢が、多くのファンを味方につけ、「応援」の輪を広げていったのかもしれません。

三連休中「中の人」を務めた安永です。
本日の来園者数は約5,200人でした。
運営の至らぬ点も多々あったかと思いますが、
お客様、スタッフ、そしてネットで応援してくださる皆さん…
全ての皆様に、園を代表して御礼申し上げます。
本当にありがとうございました!!#市川市動植物園#市川ファン pic.twitter.com/u7hUwkCcn6

— 市川市動植物園(公式) (@ichikawa_zoo) February 23, 2026

「世界一有名な園」から「世界一温かい園」へ

これほどまでのプレッシャーと戦いながらも、安永課長は楽しそうにこう話していました。

安永課長:「常にさまざまなことを考え続けているので、SNSでバズってしまうとメンタルをやられてしまう人もいるかもしれません。でも、私は大丈夫なんです。なぜでしょうね(笑)」

パンチくんをきっかけに「世界一有名」になった市川市動植物園。しかし、安永課長がこの2カ月間で築き上げたのは、知名度だけではありません。言葉の力で世界中のファンと繋がり、ともに動物を見守る「世界一温かい場所」なのです。

「がんばれパンチ」という声援は、今やこの園に関わるすべての人々へのエールとして、サル山に優しく響いています。(おわり)

ライターコメント

SNSは時に凶器になりますが、安永課長が持つと、それは人々を繋ぐ「光」に変わるようです。安永課長、そしてパンチくんを支える飼育員の皆さん。みなさんが守り抜いた市川市動植物園を、emogram編集部ではこれからも大切に伝えていきたいと思います。

<ライタープロフィル>ゆんち

2004年に産経新聞社へ入社。静岡、仙台での事件取材を経て、東京社会部では厚生労働省を担当、派遣労働問題などの社会課題を深く掘り下げる。また、特異なキャリアとして法廷画家を兼務し、数多くの法廷画を手掛けてきた。その後、産経新聞社が発行していたタブロイド紙「SANKEI EX」にてブランド、旅、食をテーマとした執筆活動を展開。南アフリカやオーストラリアなど世界各国を取材で巡るほか、臨時特派員として南太平洋のキリバス共和国への駐在経験も持つ。J-WAVE「TOKYO MORNING RADIO」にて、週1回おすすめニュースを3年間にわたり担当。

現在は2児の母となり、これまでの取材経験に加え、教育、健康、ライフハックへと関心の幅を広げている。「趣味を仕事に!」をモットーとする自称「脱力系ライター」。釣り、温泉、グルメ、そして海を眺めてぼーっと過ごす時間を愛する旅人でもある。長年、酒と旅と釣りを友としてきたが、現在は期間限定で禁酒中。新商品から旅、ファッション、グルメまで、自身のアンテナに触れたトピックを独自の視点で発信している。

【連載】安永崇課長が語る「SNSの光と影」

元記事で読む
の記事をもっとみる