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「完全母乳」3カ月以上で、”DNAの読み方”に差が生じる

  • 2026.4.21
完全母乳がもたらす変化とは / Credit:Canva

赤ちゃんの頃の「食事の違い」が、何年も後の体に残るとしたらどうでしょうか。

しかもそれが、見た目や体格ではなく、もっと深いレベル──遺伝子の働きを調整する仕組みにまで関わっている可能性があるとしたら。

今回、イギリスのエクセター大学(University of Exeter)などの研究チームは、3か月を超えて完全母乳育児を受けた子どもで、DNAの調整に関わる「エピジェネティックな印」が後年の血液に残る可能性を示しました。

研究は2026年2月28日、学術誌『Clinical Epigenetics』に報告されています。

目次

  • ”母乳が良い”理由は、DNAメチル化の違いにあったかも
  • 見つかったのは、遺伝子に付く”音量つまみ”の違いだった

”母乳が良い”理由は、DNAメチル化の違いにあったかも

母乳が赤ちゃんにとって良いという話は、これまでも数多く報告されてきました。

呼吸器や代謝疾患、認知発達、免疫の働きなどとの関連が指摘されてきましたが、ここで一つ疑問が残ります。

なぜ母乳は体に良いのか、という点です。

その理由としてよく挙げられるのは、栄養のバランスや、母乳に含まれる免疫物質です。

ただ近年は、もう一つの可能性としてエピジェネティクスが注目されています。

エピジェネティクスとは、DNAの配列そのものを変えるのではなく、どの遺伝子をどれくらい働かせるかを調整する仕組みです。

今回の研究で調べられたのは、その代表例であるDNAメチル化でした。

これは、DNAの特定の場所に化学的な印が付く現象で、遺伝子の働きを弱めたり調整したりする方向に関わることが多いと考えられています。

設計図そのものを書き換えるのではなく、設計図の一部に「ここは強めに読む」「ここは控えめに読む」といった目印が付くようなイメージです。

研究チームは、国際共同研究ネットワークであるPACEコンソーシアムのデータを使い、11コホート、計3421人の子どもを解析しました。

子どもたちの血液は5〜12歳の時点で採取され、そこでDNAメチル化の状態が調べられました。

さらに、出生時のさい帯血(へその緒と胎盤に含まれる血液)も比較に使われています。

これは、生まれつきの差ではなく、出生後の経験に関連した変化なのかを確かめるためです。

研究では、母乳育児をかなり細かく見分けています。

単に「母乳を飲んだことがあるかどうか」だけでなく、どれくらいの期間続いたか、さらに母乳だけで育てる完全母乳育児がどれくらい続いたかまで調べました。

その結果、単に「母乳を飲んだ経験があるかどうか」では、はっきりした差は見つかりませんでした。

一方で、完全母乳育児の長さを見ると差が現れ、とくに3か月を超えて完全母乳で育った子どもでは、DNAメチル化に違いが見つかりました。

しかも、その違いは出生時のさい帯血には見られませんでした。

つまり、生まれたときから備わっていた差というより、出生後の栄養環境と関連して現れた可能性が高いのです。

では、具体的にどこにどのような違いが見つかったのでしょうか。

見つかったのは、遺伝子に付く”音量つまみ”の違いだった

研究では、DNAの特定の位置であるCpG部位に注目し、完全母乳育児との関連を調べました。

その結果、完全母乳育児の期間と関連して、いくつかのCpG部位でDNAメチル化の差が確認されました。

特に、3か月を超えて完全母乳だった群では、母乳なしの群に比べて有意な差が見つかった部位がありました。

関連した遺伝子としては、ALAD、FNBP4、CHFR などが挙げられています。

論文では、これらが発達や免疫に関わる過程と結びつく可能性があると説明されています。

ここで大切なのは、今回見つかったのが遺伝子そのものが変化したわけではないという点です。

変わっていたのは、遺伝子に付く化学的な印です。

これは、遺伝子の働きを調整する「音量つまみ」のようなものと考えると分かりやすいでしょう。

今回見つかったのは、その“音量つまみ”の違いです。

この結果から見えてくるのは、母乳が単なるカロリーや栄養素の供給源ではないかもしれない、ということです。

母乳には、抗体、ホルモン、さまざまな生理活性物質が含まれています。

研究者たちは、そうした複雑な要素が赤ちゃんの体に働きかけ、遺伝子の調整に関わる印に差を生んでいる可能性を考えています。

もちろん今回の研究だけで仕組みを断定することはできませんが、「母乳の良さ」が分子レベルでどのように現れるのかを考えるうえで、大きな手がかりになっています。

さらに注目すべきなのは、こうした違いが5〜12歳の子どもたちの血液で検出されたことです。

生後数か月の栄養環境に関連する痕跡が、幼児期以降にも見えている可能性があります。

ただし、ここで話を大きくしすぎてはいけません。

今回の研究は、免疫力が高くなったことや、発達が実際に良くなったことを直接示したわけではありません。

見つかったのはあくまで、免疫や発達に関係しうる遺伝子領域の近くで見られたDNAメチル化の差です。

それが、実際の体の機能にどれほどつながるのかは、まだ分かっていません。

また、差の大きさ自体は比較的小さく、生活環境や家庭背景など、ほかの要因の影響も完全には取り除けません。

しかも今回調べたのは血液であり、体のほかの組織でも同じことが起きているとは限りません。

今後は、より多様な集団で結果を確かめることや、こうしたエピジェネティックな差が健康や発達にどう結びつくのかを直接調べることが必要になります。

今回の研究は、「母乳かミルクか」という単純な優劣の話ではありません。

むしろ、母乳育児がなぜ注目されてきたのか、その理由を分子レベルで探る研究です。

母乳は単なる栄養ではなく、体の設計図に付く“調整の印”に関わる可能性がある。

今回の研究は、その手がかりを一つ示したのです。

参考文献

Exclusive Breastfeeding for Three Months Changes How the Baby’s Genes Work for Years
https://www.zmescience.com/medicine/nutrition-medicine/exclusive-breastfeeding-for-three-months-changes-how-the-babys-genes-work-for-years/

Exclusive breastfeeding linked to long-term changes in marks on DNA, found in blood
https://www.eurekalert.org/news-releases/1123891

元論文

Breastfeeding association with DNA methylation in the pregnancy and childhood epigenetics (PACE) consortium
https://doi.org/10.1186/s13148-025-02042-4

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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