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「シャコの目」にヒントを得たカメラ、手術中に隠れた癌を発見できる

  • 2026.4.20
シャコの目からヒントを得て「がんを見分けるカメラ」を開発 / Credit:Canva

シャコといえば、ボクサー顔負けのパンチ力を持つことで有名ですが、実は「目」も非常に優れています。

人間よりもずっと幅広い波長の光を見分ける特殊な目を持っているのです。

そして米国のイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(UIUC)などの研究チームは、このシャコの視覚を参考にして、手術で取り出したリンパ節をその場で調べ、がん転移の有無を素早く見分ける新型カメラを開発しました。

研究は2026年4月16日『Optica』に掲載されています。

目次

  • 「シャコの目」にヒントを得たカメラは、複数の光情報を同時に処理する
  • 標本から非常に高い確率でがんを発見

「シャコの目」にヒントを得たカメラは、複数の光情報を同時に処理する

乳がんの手術では、腫瘍そのものを取り除くだけでなく、がんがリンパ節に広がっているかどうかを見極めることが重要です。

リンパ節はリンパ液が集まる場所で、がんが広がるときの手がかりになりやすい重要な組織だからです。

しかし、ここで医師は難しい判断を迫られます。

どのリンパ節を切除すべきか、という問題です。

現在の手術では、蛍光色素を使ってリンパの流れを可視化し、リンパ節の位置を特定します。

けれども、この方法で分かるのはあくまで「どこにあるか」です。

そのリンパ節に本当にがんが転移しているかどうかは、その場では確定できません。

最終的には、取り出した組織を病理で詳しく調べる必要があります。

そのため、見逃しを避けるために多めにリンパ節を切除することがあり、患者の負担が大きくなる場合があります。

逆に、転移のあるリンパ節をその場で見分けにくいため、後から追加の治療や処置が必要になることもあります。

そこで研究チームが注目したのが、シャコの視覚です。

シャコは人間とは異なり、紫外線から近赤外線まで非常に広い波長の光を同時に感知できます。

その秘密は、目の中にある特殊な視細胞の並びにあります。

異なる波長に反応する仕組みが重なるように配置されているため、複数の光の情報を同時に処理できるのです。

研究チームはこの仕組みを電子的に再現しました。

開発されたカメラは、1つのチップの中に複数の光センサーを縦に重ね、さらに画素ごとに異なる波長を通すフィルターを配置しています。

これにより、紫外線、可視光、近赤外線という異なる光を同時に、しかも同じ視野の中でずれなく取得できるようになりました。

複数の光情報を同時に読み取るカメラ / Credit:Yifei Jin(UIUC)et al.,Optica(2026), CC BY 4.0

このカメラが見る役割は、大きく2つに分かれます。

まず近赤外線では、蛍光色素の蛍光を捉えてリンパ節の場所を探します。

次に紫外線では、リンパ節の表面から出る蛍光を観察し、転移のあるリンパ節とないリンパ節の違いを読み取ろうとします。

つまり、「場所」と「状態」を別々の光で同時に把握しようとしているのです。

では、このカメラは実際にどこまで役立つのでしょうか。

標本から非常に高い確率でがんを発見

研究チームは乳がん患者33人から得られた94個のリンパ節を対象に、この装置の性能を検証しました。

ここで大事なのは、今回の試験が患者の体内で直接行われたのではなく、摘出された標本をすぐに調べる形で行われたという点です。

検証では、まず蛍光色素と近赤外線蛍光でリンパ節の位置を確かめ、その後に紫外線蛍光で転移の有無を見分けられるかを調べました。

その結果、近赤外線の信号はリンパ節の位置を非常にはっきり示しました。

一方、紫外線の信号では、転移のあるリンパ節のほうが、転移のないリンパ節よりも強い蛍光を示しました。

性能を数値で見ると、紫外線チャネルによる判別では感度97%、特異度89%(病気でない人を検出する確率)という結果が得られました。

これは、転移リンパ節をかなり高い精度で見分けられたことを意味します。

また近赤外線チャネルは、リンパ節の位置を示す役割をしっかり果たしました。

この技術の大きなポイントは、がんを見分けるために特別な標識を新たに使わなくてもよい可能性があることです。

近赤外線では既に使われている蛍光色素を利用し、転移の判別自体は組織がもともと持つ自家蛍光の違いを読むからです。

もちろん、課題も残っています。

今回の評価は摘出標本で行われたもので、実際の手術中にそのまま使うには、装置の取り回しや安全対策、処理速度などをさらに整える必要があります。

また紫外線は表面近くの情報しか見られず、炎症や線維化のようながん以外の変化が信号に影響する可能性もあります。

それでも、この研究が示した方向性は非常に興味深いものです。

これまで手術中には分かりにくかった情報を、光の違いとしてその場で読み取ろうとしているからです。

シャコの目から着想を得たこのカメラは、外科医の判断を助ける新しい道具になるかもしれません。

今後さらに改良が進めば、乳がんだけでなく、リンパ節の状態が重要になるほかのがんでも活躍する可能性があります。

参考文献

Camera Inspired by Mantis Shrimp Eyes Can Spot Hidden Cancer During Surgery
https://www.zmescience.com/science/news-science/camera-inspired-by-mantis-shrimp-eyes-can-spot-hidden-cancer-during-surgery/

元論文

Bioinspired ultraviolet-to-near-infrared imager for label-free intraoperative assessment of lymph node metastasis
https://doi.org/10.1364/OPTICA.582293

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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