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コバルト錯体が世界最高の浄化活性を達成! 近畿大学「亜酸化窒素を無害化する貴金属を用いない電極材料」

  • 2026.5.30

記事ポイント

  • CO₂の約300倍の温室効果を持つ亜酸化窒素(N₂O)を、貴金属を使わない電極材料で無害化する技術が開発されます
  • コバルト錯体を用いた電極触媒のターンオーバー頻度は最大860h⁻¹で、貴金属を含まない分子系電極触媒として世界最高値を達成しています
  • 室温・常圧・水溶液中という温和な条件で反応が進行するため、自然エネルギーとの組み合わせにも適した次世代技術として注目されています

温室効果ガスの中でも特に強力な亜酸化窒素(N₂O)を、高価な貴金属を使わずに電気化学的に分解する電極材料が開発されます。

北海道大学・工学院大学・近畿大学などの共同研究グループが、鉄・コバルト・ニッケルを用いたジチオレン配位金属錯体を電極触媒として活用し、世界トップクラスの浄化活性を達成しています。

この成果は2026年5月3日、化学の専門誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載されました。

近畿大学「亜酸化窒素を無害化する貴金属を用いない電極材料」

図1. N2Oの特徴と本研究で開発した電極触媒による電気化学N2O浄化
  • 研究機関:北海道大学大学院地球環境科学研究院・工学院大学・高輝度光科学研究センター・九州シンクロトロン光研究センター・近畿大学理工学部応用化学科
  • 掲載誌:Journal of the American Chemical Society
  • DOI:10.1021/jacs.6c03398
  • 公表日:2026年5月3日(オンライン公開)

亜酸化窒素(N₂O)は二酸化炭素の約300倍の地球温暖化係数を持つ温室効果ガスであり、今世紀最大のオゾン層破壊物質でもあります。

大気中のN₂O濃度は産業革命前の約270ppbから現在約340ppbへと約25%増加しており、上昇速度も2010年代の年間0.96ppbから2020年には年間1.3ppbへと約30%高い水準に達しています。

これまでN₂O浄化には固体触媒を用いた熱分解が主流ですが、300℃以上の高温条件が必要です。

今回開発された電気分解によるN₂O浄化法(電解N₂O浄化法)は、室温・常圧・水溶液中という温和な条件で反応が進行します。

従来の電解N₂O浄化法ではプラチナやパラジウムといった高価な貴金属が電極材料として用いられていますが、本研究はこの課題を克服する比較的安価な電極材料の開発に成功します。

研究手法:ジチオレン配位金属錯体の電極触媒化

研究グループは、酸化還元活性を持つ硫黄含有ジチオレン配位子と鉄・コバルト・ニッケルイオンを組み合わせた金属錯体を触媒として設計します。

この金属錯体を、比表面積の広い炭素粉末表面に固定化することで電極触媒として機能させています。

金属錯体は、金属イオンを有機物(配位子)で取り囲んだ化合物であり、血液中で酸素を運ぶヘモグロビン(鉄錯体)や植物の光合成に関わるクロロフィル(マグネシウム錯体)と同様の構造原理に基づいています。

多様な金属イオンと配位子の組み合わせによるデザイン性の高さが、触媒設計上の大きな利点となっています。

実験は環境負荷を抑えるため有機溶媒を使用せず、水溶液中・室温・常圧の温和な条件で実施されます。

また、大型放射光施設SPring-8(兵庫県播磨科学公園都市)、九州シンクロトロン光研究センターSAGA-LS(佐賀県鳥栖市)、高エネルギー加速器研究所での放射光実験(X線吸収・発光分光測定)と量子化学計算を組み合わせ、触媒の反応機構を詳細に解析しています。

研究成果:コバルト錯体が世界最高の浄化活性を達成

図2. 過去に報告されている主要な分子系電極触媒と本研究のジチオレン配位金属錯体における電気化学N2O浄化活性 (ターンオーバー頻度)比較

pH13のアルカリ水溶液中で鉄・コバルト・ニッケルの3種の錯体を比較した結果、コバルト錯体が最も高い浄化活性を示します。

触媒の活性指標であるターンオーバー頻度(触媒1活性種あたり単位時間に完結する反応回数)は、印加電圧−0.3Vで約360h⁻¹、−0.6Vでは約860h⁻¹に達しています。

この860h⁻¹という数値は、プラチナやパラジウムなどの貴金属を含まない分子系電極触媒として世界最高値です。

また、−0.3Vでの24時間連続試験でもほぼ劣化が確認されず、触媒耐久性の高さも実証されます。

反応機構の解析では、電気化学条件下でのX線吸収分光測定により、大気中では不安定なコバルト(I)価イオン種が触媒活性種として生成していることが明らかになります。

量子化学計算もこの実験結果を支持しており、コバルト(I)価イオン周りの平面的な幾何構造が高い反応活性に寄与していることが示されています。

背景と今後の展望

N₂Oの人為的排出量は、世界人口増加に伴う肥料使用量の増加や、CO₂削減に伴うアンモニア使用量の拡大により、今後さらに増加すると懸念されています。

アンモニアの副生成物としてN₂Oが発生するため、エネルギー転換の進展とともにN₂O排出抑制技術の重要性は高まる見通しです。

電解N₂O浄化法は自然エネルギーとの相性が良く、持続可能な次世代技術として位置づけられています。

今回の研究では電極触媒の基礎的な性能が実証された段階であり、電解システム全体の設計や実用化に向けた課題は引き続き残っています。

金属錯体のデザイン性を活かした触媒設計の指針が示されたことで、より高活性・高耐久性の電極触媒開発への道が開かれています。

本研究は、文部科学省マテリアル先端リサーチインフラ(ARIM)、鉄鋼環境基金、向科学技術振興財団などの支援を受けて実施されます。

CO₂の約300倍という強力な温室効果を持つN₂Oを、室温・常圧・水溶液中という安全な環境で無害化できる点は、将来的な大規模応用を見据えた電解システムの構築において重要な基盤となります。

鉄・コバルト・ニッケルという比較的入手しやすい金属を用いることで、資源制約の少ない電極材料の普及可能性が示されています。

近畿大学「亜酸化窒素を無害化する貴金属を用いない電極材料」の紹介でした。

よくある質問

Q. 亜酸化窒素(N₂O)はどのような場面から排出されますか?

A. 農業用肥料の使用や、エネルギー源として利用されるアンモニアの製造・利用過程での副生成物として排出されます。

産業革命前から現在にかけて大気中濃度は約25%増加しており、今後も人為的排出量の増加が懸念されています。

Q. 従来の熱分解法との違いは何ですか?

A. 固体触媒を用いた熱分解法は300℃以上の高温条件が必要ですが、今回開発された電解N₂O浄化法は室温・常圧・水溶液中という温和な条件で反応が進行します。

また、太陽光・風力などの自然エネルギーと組み合わせやすい点でも、次世代の持続可能な浄化技術として評価されています。

Q. ターンオーバー頻度860h⁻¹はどのような意味ですか?

A. 触媒中のコバルト金属1つあたり、1時間に860回のN₂O→N₂変換反応を完結させることを示す指標です。

この数値は、貴金属を含まない分子系電極触媒として2026年5月時点で世界最高値となっています。

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