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点鼻薬で「加齢による脳機能の低下」を改善、マウスで確認

  • 2026.4.17
点鼻薬で老化した脳の炎症を抑える / Credit:Canva

脳の老化は、元に戻せないものではないかもしれません。

しかもその方法は、手術でも特別な治療でもなく、「鼻から投与する新しい治療法」です。

米テキサスA&M大学(A&M)の研究チームは、老化した脳の炎症を抑え、記憶機能の改善につながる変化をマウスで確認しました。

「最近、物忘れが増えた」と感じている人にとって、この発見は、脳の老化に対する見方を変えるものになるかもしれません。

この研究は2026年2月8日付の『Journal of Extracellular Vesicles』で報告されました。

目次

  • 老化による「脳の炎症」を抑える点鼻薬を開発
  • 点鼻薬により、老化したマウスの脳で機能が改善する

老化による「脳の炎症」を抑える点鼻薬を開発

年齢を重ねると、記憶力や集中力が少しずつ落ちていくことがあります。

これまでは、その原因は単純に脳の機能低下や神経細胞の衰えだと考えられがちでした。

しかし近年は、脳の老化には「慢性的な炎症」が深く関わっているのではないか、という見方が強まっています。

この状態は「神経炎症」と呼ばれます。

脳の中には、ミクログリアと呼ばれる免疫細胞があり、ふだんは不要なものを片づけたり、異常が起きたときに対処したりしています。

ところが老化が進むと、このミクログリアが長く興奮した状態になり、炎症を引き起こす物質を出し続けるようになります。

その結果、脳の中で弱い炎症がくすぶり続け、神経細胞に負担がかかり、記憶や学習に関わる働きが落ちていくと考えられています。

つまり脳は、単に壊れていくというより、炎症によって本来の力を発揮しにくくなっている可能性があるのです。

そこで研究チームが注目したのが、細胞外小胞と呼ばれる非常に小さな粒子です。

これは細胞が放出する微小な袋のようなもので、内部にはさまざまな情報分子が入っています。

今回使われたのは、ヒトiPS細胞から作った神経幹細胞に由来する細胞外小胞でした。

この小胞には、マイクロRNAと呼ばれる分子が含まれています。

マイクロRNAは、遺伝子の働きを細かく調整する役目を持ち、細胞の反応を強めたり弱めたりすることができます。

研究チームは、こうした小胞の中に、炎症を抑えたり、細胞を守ったりする働きを持つ分子が含まれていることに注目しました。

特に重要だったのが、炎症の引き金の一部を抑えるマイクロRNAであり、これが脳の状態を立て直す助けになるのではないかと考えられました。

さらに、この研究の大きな特徴が細胞外小胞の投与方法です。

脳には血液脳関門という防御の仕組みがあり、多くの薬は血液に乗っても脳の奥まで届きにくいことがあります。

そこで研究チームは、点鼻薬を使って細胞外小胞を「鼻から」投与しました。

鼻から投与された物質は、「血液脳関門」を回避し、脳に近い経路を通ることで、より効率よく脳内に到達できると考えられています。

つまり点鼻薬なら、脳へ届けやすい非侵襲的な手段になる可能性があるのです。

実際、マウス実験で投与された小胞は短時間のうちに脳の広い範囲で確認され、特にミクログリアや神経細胞に関わっていることが示されました。

次項で実験の詳細を確認しましょう。

点鼻薬により、老化したマウスの脳で機能が改善する

実験では、18カ月齢のマウスが使われました。

これは人間でいえばおよそ60歳前後に相当すると考えられる時期です。

つまり、若い脳ではなく、すでに老化が進んだ脳に対して効果があるかどうかを調べたことになります。

マウスには、2週間おきに2回、細胞外小胞を鼻から投与しました。

その後、記憶や脳の状態を詳しく調べています。

まず注目されたのは、脳の炎症がどう変わったかです。

その結果、脳の炎症を強める仕組みの働きが弱まっていました。

また、炎症を起こしやすい状態になっていたミクログリアの集まりも減っていました。

これは、老化した脳で続いていた炎症が弱まったことを示しています。

さらに、脳の細胞にかかる酸化ストレスも減っていました。

酸化ストレスは、細胞が傷つく大きな原因の一つですが、老化した脳では、この酸化ストレスが増えやすく、神経細胞の働きにも悪影響を与えます。

今回の処置では、その負担が軽くなっていたのです。

加えて、ミトコンドリアに関係する遺伝子の働きも改善していました。

ミトコンドリアは、細胞のエネルギーを生み出す場所ですが、脳の細胞は大量のエネルギーを必要とするため、ここが弱ると情報処理や記憶の働きも落ちやすくなります。

つまり、これらの結果は、炎症が下がっただけでなく、脳細胞がエネルギーを作る力も立て直される方向に動いたことを示しています。

こうした変化は、行動の面でも確かめられました。

研究チームは、物体を覚えられるかどうか、そして物の位置の変化に気づけるかどうかを調べるテストを行いました。

その結果、点鼻投与を受けたマウスでは、こうした記憶に関わる成績が改善していました。

つまり、脳内の分子や細胞の変化だけでなく、実際の認知機能にもよい変化が現れたのです。

今回の研究が示しているのは、加齢による脳の変化の少なくとも一部は、炎症を抑えることで回復に近づける可能性があるということです。

ただし、ここで注意も必要です。

今回の結果はあくまでマウスで得られたものです。

人間でも同じような効果が出るかどうかは、まだわかっていません。

また、安全性や効果の持続期間、どのくらいの量をどの頻度で投与すべきかも、今後詳しく調べる必要があります。

それでも、手術をせずに脳へ作用しうる方法として、鼻からの投与が有望であることを示した意義は小さくありません。

今後、より長期の観察やヒトでの検証が進めば、加齢による認知機能低下や神経変性疾患の新しい対策につながる可能性があります。

参考文献

This nasal spray rewinds the aging brain, restoring memory and reversing inflammation in preclinical models
https://phys.org/news/2026-04-nasal-spray-rewinds-aging-brain.html

Scientists reverse brain aging, with a nasal spray
https://www.eurekalert.org/news-releases/1123986

元論文

Intranasal Human NSC-Derived EVs Therapy Can Restrain Inflammatory Microglial Transcriptome, and NLRP3 and cGAS-STING Signalling, in Aged Hippocampus
https://doi.org/10.1002/jev2.70232

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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