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「突然手足のしびれや麻痺が起こる」医師が警告。“BBQの肉”を焼くとき注意して…食中毒を引き起こす“危険な行動”とは?

  • 2026.5.12
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

友人や家族と楽しむBBQ。網の上で焼ける肉の香りは格別ですが、楽しい時間の数週間後に、思いもよらない「体の麻痺」という深刻な事態に直面するリスクが潜んでいることをご存知でしょうか。

「食中毒といえば、食べてからすぐに発症するもの」という認識は危険です。実は、肉の加熱不十分などが原因で食中毒を発症した後、数週間を経て手足のしびれや呼吸障害などの深刻な合併症を伴うケースがあります。

なぜ、食べた直後ではなく、時間が経ってから症状が現れるのでしょうか?

そして、私たちはどのようにしてこのリスクを避ければよいのでしょうか。日本神経学会のガイドラインでも注意喚起されているこの事態について、専門家の見解をもとに解説します。

「時差」が生じる理由は?免疫が起こす誤作動のメカニズム

---BBQで食べた肉が原因で、数週間後に麻痺が生じると聞きました。なぜこれほど長いタイムラグがあるのでしょうか。体内では何が起きているのですか?

松岡 雄治さん:

「加熱した肉から数週間後に麻痺が生じる原因は、潜伏期間の長い細菌と、それに伴う免疫の誤作動にあります。

原因となるカンピロバクターは、現在日本で最も多く発生している細菌性食中毒の病原体です。BBQで不十分な加熱の肉を食べると、1〜7日というやや長い潜伏期間を経て、下痢や発熱などの食中毒症状が現れます。しかし、深刻な合併症が潜んでいるのはその後です。

症状が治まった1〜3週間後に、突然手足のしびれや麻痺が起こることがあります。これは『ギラン・バレー症候群』と呼ばれる病気です。細菌が体内に侵入すると、私たちの免疫細胞は細菌を攻撃するための『抗体』という武器を作ります。ただし、カンピロバクターの表面は、私たちの末梢神経の構造とそっくりなのです。

免疫細胞は細菌の顔写真を頼りにパトロールを行います。細菌と神経の顔を間違え、自分自身の神経を攻撃してしまうことがあるのです。日本神経学会のガイドラインでも、先行病原体は特定できないことが多いものの、特定できるものではカンピロバクターが最多だと示しています。時差があるのは、長い潜伏期間に加えて、免疫が抗体を作るための準備期間が必要だからです。」

「新鮮だから」は通用しない?トングが生む汚染と深刻な症状

---肉をしっかり焼けば安全だと思っていました。なぜこれほど深刻な症状を引き起こすのでしょうか。また、汚染はどのように広がるのですか?

松岡 雄治さん:

「トングの使い回しによる『汚染』は、ごく少量の菌で感染を招き、後遺症として手足の麻痺や呼吸障害を伴うギラン・バレー症候群を引き起こします。

厚生労働省の資料によれば、市販されている鶏肉の多くがカンピロバクターに汚染されています。健康な鶏であっても腸内に菌を保有しており、現在の処理技術では100%除去することはできません。『新鮮な肉だから安全』という考えは通用しません。

BBQで肉の表面を黒焦げになるまで焼いたとしても、決して安心はできません。生肉をつかんだトングで焼けた肉を取り分けると、トングに付着した細菌が肉に移ります。カンピロバクターは、わずか数百個というごく少量の菌でも感染を引き起こします。生肉の汁が少しでも付着すれば、食中毒のリスクが生じます。

感染から数週間後に発症するギラン・バレー症候群は、深刻な症状をもたらします。末梢神経の膜が剥がれ落ち、脳からの電気信号が筋肉に伝わらなくなります。電線のビニールカバーが剥がれて漏電するような状態です。日本神経学会のガイドラインによれば、症状のピーク時には患者さんの約80%が自力での歩行が不可能になります。」

BBQで身を守るために。正しい予防ルールと早期受診の重要性

---この恐ろしい食中毒を防ぐために、私たちが現場でできる具体的な対策を教えてください。もし体調に異変を感じたらどうすべきでしょうか?

松岡 雄治さん:

「食中毒を防ぐ最も効果的な対策は、『新鮮だから大丈夫』という過信を捨て、トングを生肉と焼けた肉で明確に分けて、中心部まで熱を通すことです。現場ですぐに実践できる具体的な対応は次のとおりです。

【今日からできるBBQの予防ルール】

  • トングを完全に分けて使う:生肉を網にのせる『焼く用トング』と、肉を取り分ける『食べる用箸』を色や形で明確に分ける。
  • 十分な加熱の確認:肉の赤みが完全に消え、肉汁が透明になるまでじっくりと焼く。
  • 調理器具の消毒:生の鶏肉を切ったまな板や包丁は、熱湯で消毒する。
  • 手洗いの徹底:生肉に触れた手は、石鹸でこまめに洗う。

カンピロバクターは熱に弱いため、適切な加熱で死滅します。中心部を75度で1分以上加熱することが厚生労働省により推奨されています。

もしBBQから1週間以内に激しい下痢や発熱があり、数週間後に手足のしびれや力が入らない感覚を覚えたら、すぐに神経内科を受診しましょう。適切な免疫治療を行えば、多くの患者は再び歩けるようになる可能性が高まります。しびれや脱力感などの初期症状を見逃さないことが、早期治療の鍵を握ります。」

過信をせず、徹底的な衛生管理が大切

楽しいはずのBBQが、食後の体調不良をきっかけに長期的な闘病生活へとつながってしまう可能性があります。今回の取材で、「大丈夫だろう」という思い込みをせずに、少しでも違和感を抱いた場合は医師に相談することが大切であることがわかりました。

カンピロバクターは決して珍しい菌ではなく、私たちのすぐ近くに存在します。新鮮な肉であっても衛生管理を徹底し、もしもの時の予兆を見逃さないこと。この意識を持つことが、自分と大切な人を守る術の一つなのです。


出典:カンピロバクター食中毒予防について(Q&A)|厚生労働省
出典:ギラン・バレー症候群、フィッシャー症候群診察ガイドライン2024|日本神経学会
出典:日本神経学会 ガイドライン ギランバレー症候群 臨床的事項 Clinical Question 5 - 1 回答

監修者:松岡 雄治
麻酔科専門医。総合病院、大学病院、小児専門医療機関での勤務を通じ、幅広い周術期管理に従事。現在は急性期病院で麻酔科医として勤務する。日々、美容領域を含む各診療科の手術に携わっている。医師としての知識と経験を活かして医療系ライターとしても活動し、医療・健康・美容分野の記事執筆、医学論文の解説、商品監修、AI技術開発関連プロジェクトへの参加などの実績を有する。睡眠コンサルタント、睡眠検定1級の資格も保有。

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