1. トップ
  2. “すり足”で歩く父。「年を取ったから仕方ない」と思いきや…医師から子どもに告げられた“驚きの事実”に「もっと早く気づいていれば」

“すり足”で歩く父。「年を取ったから仕方ない」と思いきや…医師から子どもに告げられた“驚きの事実”に「もっと早く気づいていれば」

  • 2026.5.11
undefined
出典元:photoAC(※画像はイメージです)

皆様こんにちは。日々心身の不調と向き合う医師、松岡です。

Nさん(仮名)が近くに住む両親の様子を見に行ったときのことです。お父さんの歩幅が狭くなり、トイレに間に合わないことが増えていました。「年を取ったから仕方ない」とどこかで納得していました。

しかし、ある日、すり足でつまずき転倒して骨折し、手術を受けることになりました。そのまま車椅子生活となり、言葉も出ないほど認知機能が低下した父の姿に切なさを感じたNさんは医師から驚くべき話を聞きます。

「もっと早く気づいていれば、また一緒に歩いて旅行に行けたかもしれないのに」と後悔しないために今見るべきポイントとはどこにあったのでしょうか。

今回は、「老い」と誤解されやすい病気の境界線について解説します。

歩幅の減少は「脳が水に圧迫されている」危険なサイン

なぜ「ただの老化」という油断が、取り返しのつかない事態を招くのでしょうか。
小刻みな歩行、そしてこれを引き起こす特発性正常圧水頭症(iNPH)という病気は、脳脊髄液という水が頭の中に過剰に溜まることで起こります。

【脳が圧迫され機能が失われるフロー】

・脳脊髄液の滞留
脳の周囲を循環してクッションの役割を果たす水(脳脊髄液)が、何らかの原因で頭の中に過剰に溜まります。

・脳室の拡大と圧迫
行き場を失った水が、脳室という脳内の部屋を水風船のようにパンパンに膨らませ、周囲の脳組織を内側から強く圧迫します。

・神経伝達の遮断
圧迫により、足の動きや排尿、記憶をコントロールする神経回路が引き伸ばされて障害され、歩行障害や尿失禁などが引き起こされます。

「ただの老化」と「治る認知症」の境界線

足取りが重くなったり、トイレの失敗が増えたりしたとき、「年のせいだから」「誰にでも起こることだから」と納得してしまうこともあるかもしれません。

ただし、ぜひ知っておいていただきたいことがあります。それは、特発性正常圧水頭症(iNPH)は、一般的なアルツハイマー型認知症などとは異なり、適切な治療(頭に溜まった過剰な髄液をバイパスさせる「シャント手術」など)を行うことで、症状の改善が期待できるということです。

これを単なる老化と思い込み放置してしまうと、脳への圧迫が長期間に及び、神経細胞が回復困難なダメージを受けてしまうおそれがあります。その結果、いざ手術をしても歩行能力や認知機能が回復しなくなり、一生ベッドの上で寝たきりとなり、ご家族もより早く介護と向き合わねばならなくなります。

この病気は決して不治の病ではありません。適切な治療で、再び自力で歩く日常を取り戻せる可能性があると知ることから始めましょう。

手遅れになる前に、確認すべき3つのサイン

親に限らずご家族の老いを「仕方ない」と誤認して大切な回復のチャンスを逃さないよう、脳が発する危険なサインを見逃さない配慮が必要です。

1.歩幅が小さく、足の裏を床に擦るように歩く(すり足歩行)

足の筋力低下だけでなく、脳からの指令がうまく伝わっていない可能性があります。「ガニ股で、足が地面に張り付いたような歩き方」は特徴的なサインの一つです。

2.トイレが近く、間に合わずに漏らしてしまう(尿失禁)

加齢による膀胱の衰えだけでなく、脳が排尿のコントロールを正しく行えなくなっているサインかもしれません。

3.ぼんやりとして自発性がなくなり、注意力が低下した

出来事を忘れる記憶障害よりも、「反応が遅くなる」「何事にも無関心になる」といった意欲の低下が目立つのも特徴です。

まとめ

親の変化を「老化だろう」と油断してしまったり、受け入れがたいあまりそのままにしてしまったりするのは実はよくあることです。日々の生活や仕事に追われるなかで、少しの異変ですぐに病院へ連れて行くのをためらうのは決して特別なことではありません。本人も乗り気でないこともあるかもしれません。

しかし、もし今回ご紹介したサインに心当たりがあれば、自己判断で放置しないでください。もし受診を勧めるのが難しい場合には、ご本人が歩く様子をスマートフォンなどで動画に撮影し、まずはそれを持って脳神経外科や脳神経内科を受診してみてください。

「歩き方」をきっかけに受診し、治療によって劇的に生活の質が改善する方もいらっしゃいます。あなたの「おや?」という気づきを、ぜひ適切な医療へつなげてあげてください。


※本記事は一般的な啓発を目的としたものであり、特定の医療行為の勧誘や診断を代行するものではありません。症状がある場合は必ず脳神経外科、脳神経内科、またはかかりつけ医にご相談ください。

監修者・執筆:松岡 雄治
総合病院や大学病院、小児専門医療機関での勤務を通じて、幅広い診療科の周術期管理に従事。現在は急性期病院の麻酔科医として最前線の医療に携わっている。専門医としての高度な医学的知見を活かし、医療・健康・美容分野でのコラム執筆や医学論文の解説などを幅広く手掛ける。医療AI技術開発プロジェクトへの参画など多岐にわたる実績を持ち、読者に寄り添った分かりやすい医療解説に定評がある。保有資格は麻酔科専門医、睡眠コンサルタント、睡眠検定1級など

の記事をもっとみる