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「全財産を長男に譲る」遺言書を信じた50代兄→『弟と揉めることはない』はずが…父の死後、弁護士から届いた“1通の通知”に絶句

  • 2026.5.15
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

現役商社マンのたるみくまおです。今回は2年ほど前、ある取引先で聞いた相続の話を書かせていただきます。

親御さんは、生前に遺言を用意されていますでしょうか。

「公正証書遺言さえあれば、相続で揉めることはない、と信じていたんです」

そう切り出してくれた経営者の方の話が、私の頭からずっと離れません。

父の遺言実は、遺言があっても相続トラブルになるケースはあるのです。

「全財産は長男に」遺言を信じていた経営者のもとに届いた、一通の通知

5月の昼下がり、郊外の小さな事務所での打ち合わせのあとでした。

お話していたのは、建設会社を営む50代の経営者で、お父様の後継として会社を継いだ立場の方です。

事務所のあるその街は、ご自身が生まれ育った場所。お父様がかつて購入された実家も、そこからほど近いといいます。

数歳年の離れた弟さんがいらっしゃるそうですが、進学で家を出てからはほとんど会っていなかったとのこと。仲違いがあったわけではなく、ただ自然と疎遠になっていったのだそうです。

お母様はすでに他界されており、お父様の遺産を分ける相続人は、ご兄弟の2人でした。お父様は生前、跡継ぎであるご本人に「全財産を長男に譲る」という公正証書遺言を残されていたそうです。

そんな中、お父様が亡くなりました。

「父があの遺言を作ってくれた時点で、もう揉める余地はないと、信じきっていました」

四十九日が明けた頃、弟さんの代理人弁護士から、一通の内容証明郵便が届きます。それは「遺留分侵害額請求」の通知でした。
弁護士によれば、「遺留分」とは、配偶者や子など一定範囲の相続人に法律で最低限保障されている取り分のこと。2019年7月1日に施行された改正相続法(民法)のもとでも、遺言で「全財産を一人に」と指定すること自体は有効です。

しかし、たとえ公正証書遺言であっても、他の相続人が持つ遺留分相当額の金銭請求権までは奪うことができないそうです。
子が2人なら、弟さんの遺留分は相続財産の4分の1にあたります。

 「正直、弟が憎いと思った瞬間もありました」

経営者の方は、少し言葉を選びながらそう続けられました。ずっと実家に寄り付かなかったのに、お父様が死んだらお金を要求する。弟さんの行動は薄情で現金に見えたことでしょう。

お父様が遺された財産は、現金や動産がほとんどなく、その大半が実家、つまり不動産だったそうです。手元の現金だけでは遺留分相当額を払えない。分割払いを提案したものの弟さんは一括の一点張りで、50代の身で住宅ローン以外の大きな借入を新たに背負う踏ん切りもつかなかった。

結局、相続したばかりの生家を、急いで売って現金を作るしかなかったといいます。ご兄弟の関係は、それ以来さらに遠のき、今ではもう連絡も取り合っていないとのことでした。

最後にぽつりと続けられたひと言は、わずかに言葉に詰まってから出てきました。

「家を出て気楽にやっていると思っていた弟ですが、父があれだけ私を可愛がっていたことを、本人もどこかで気にしていたのかもしれない、と今になって思うんです」

父が後継者である自分を可愛がっていた、その裏側で弟さんが抱えていた複雑な感情に、相続が動き出して初めて気づかされたのだといいます。

あの瞬間の言葉の詰まりは、もしかしたら罪悪感のようなものだったのかもしれないと、いま振り返るとそう感じます。

公正証書遺言が止められなかった、「感情の行き違い」

事務所を出ると、5月の陽射しが思った以上に強く、初夏というよりは真夏に近い暑さでした。

話を聞きながら、私の中では、弟さんを責めたい気持ちと、法律のあり方に苛立つ気持ちと、自分の家族を思い出して言葉に詰まる気持ちとが、行ったり来たりしていました。

私の家は会社経営でも、資産家でもありません。

それでも、親に持ち家があって、兄弟がいて、子どもの頃の扱いに何かしら心当たりがある、という構造は、おそらくそれほど変わらないのだろうと思います。

きょうだい仲は決して悪くない。けれどそれも、いまだけのことに過ぎないのかもしれません。

公正証書遺言は、法的にはとても強い力を持ちます。けれど、それは「感情の行き違い」までは止めてくれない。

いつかは実家で、同じような話題を切り出さなければいけないのだろうとは思います。

けれど、それがいつになるのか、私自身、まだはっきりとは見えていません。


※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の相続・法律相談の代替となるものではありません。遺留分侵害額請求への対応や相続手続きについては、弁護士・司法書士等の専門家にご相談ください。

参考:「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)」(法務省)

ライター:たるみくまお
リユース業界での買取窓口業務を経て、現在は技術商社に勤務する現役ビジネスマン兼Webライター。古物商許可証を保有し、ブランド品・高級時計の査定現場で数多くのお客様と向き合ってきた経験を持つ。現職では技術商社の最前線に身を置き、ITをはじめとする幅広い分野の知見を日々積み重ねている。また、過去に借金を抱えた経験から、マネーリテラシーの重要性を痛感し、現在も金融知識の習得を続けている。二次流通市場の裏側から、お金のリアルな話まで、現場で得た実体験をもとに等身大の言葉で発信中。

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