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恵比寿にイタリア、ピエモンテ料理の専門店「vivido」がオープン! 地元民マッシがリポート。

  • 2026.4.1

日々の生活を彩るワインを自分らしく楽しむフィガロワインクラブ。イタリア人ライター/エッセイストのマッシが、イタリア人とワインや食事の切っても切り離せない関係性について教えてくれる連載「マッシのアモーレ♡イタリアワイン」。今回は恵比寿に新登場した、マッシの故郷ピエモンテの料理の専門店「vivido (La Mia Cucina Piemontese)」に訪問! ピエモンテ州の一ツ星レストラン『La Ciau del Tornavento』で研鑽を積んだ三輪智一シェフが手がける、料理とワインのペアリングとは?

洗練された大人の喧騒が心地よい恵比寿の街の路地裏に、僕の魂を揺さぶる場所が産声を上げた。その名は「vivido(La Mia Cucina Piemontese)(ヴィヴィド ラ・ミア・クチーナ・ピエモンテーゼ)」。扉を開けた瞬間、冷たい外気は消え去って、僕は一気に霧深いピエモンテの丘へと引き戻された。しかも、モダンなピエモンテ。

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Uの字形をしたカウンター席からシェフの作業を覗くのも楽しい。

ピエモンテ人である僕にとって、故郷の料理はただの栄養ではなく、厳しい冬を越えるための知恵であり、家族との対話であり、土とともに生きる誇りそのものだ。ここヴィヴィドは、その誇りをオープンキッチンという現代的な舞台で守り、表現してくれた。

店内に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのは、力強く、かつ繊細な動きを刻むオープンキッチンだ。シェフたちの無駄のない所作、立ち上る香ばしい煙、ワイングラスが触れ合う澄んだ音。カウンターに座れば、料理が完成していくプロセスのすべてが、僕への招待状のように感じられる。 

イタリア語で「鮮やかな」「生き生きとした」を意味する店名の通り、そこには生命の躍動があった。故郷のトラットリアが持つ温かみと、東京らしい研ぎ澄まされた美意識が交差する。この独特の空気感が、僕の胸の奥に眠っていた郷愁を静かに呼び覚ましていく。

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前菜の盛り合わせはどれも懐かしい、ピエモンテを代表する料理ばかり。

最初の一皿、「名物ヴィヴィドのピエモンテ前菜盛り合わせ」が運ばれてきた。白く大きな円形のお皿に並べられた彩り豊かな小品たち。それはまるで、日曜日の朝、アルバやアスティの市場を散策しているかのような高揚感を与えてくれる。

仔牛のハム「ヴィテッロトンナート」を口に運んだ瞬間、不意に涙が出そうになった。しっとりとした肉質に、ツナとアンチョビ、ケッパーが織りなすソースの調和。それは幼い頃に祖母が大きな皿に盛り付けてくれた、あの味そのものだった。馬肉のタルタルとストラッチャテッラ(フレッシュチーズ)の濃厚な甘み、そして金目鯛の鱗焼き。日本の海がもたらす鮮度と、ピエモンテの伝統的な調理法が出会うとき、そこには新しい物語が生まれる。どの料理も、伝統の型を大切にしながらも、日本の旬を尊重する敬意にあふれている。シェフの指先から魔法のように生み出される一皿ひと皿に、僕は言葉を失い、ただただ故郷を懐かしむ幸福感に震えた。

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茹でたてのパスタを濃厚なソースの上に載せ、目の前で黒トリュフをスライス!

そして、真打ちが登場する。ピエモンテが世界に誇るパスタ、タヤリンだ。卵黄をたっぷりと贅沢に使った細麺は、輝くばかりの黄金色。そこにこれでもかというほど惜しみなく黒トリュフが削りかけられる。フォークで麺を持ち上げると、熱気とともにトリュフの官能的な香りが鼻腔を突き抜ける。口に運べば繊細な麺のコシと濃厚な卵のコクが一体となり、舌の上で踊る。この食感、この喉越し。かつて収穫祭の夜、村中がワインと料理の香りに包まれていたあの情景がフラッシュバックする。「そう、これだ」と、思わず独り言が漏れる。秋のピエモンテで、深い霧の中から収穫される神秘的な香りを、ここ恵比寿で、これほどまでに純粋に味わえるとは。それは、物理的な距離を超え、僕の魂が故郷の土を踏みしめた瞬間だった。

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柔らかく程よいサシの入ったサーロイン。バルサミコの酸味を加えることで、脂をさっぱりと洗い流して食べ進められる!

メインディッシュは「群馬上州牛サーロイン炭火焼き」。オープンキッチンの中央で、炭の熾火がパチパチと音を立てる。じっくりと時間をかけ、肉の内部に熱を閉じ込めていくシェフの横顔は、真剣そのものだ。提供された肉は美しいルビー色。表面はカリッと香ばしく、中は驚くほどジューシーに。ナイフを入れるたびにあふれ出す肉汁は、大地の恵みそのもの。添えられたマスタードやバルサミコソース、塩、胡椒。シンプルな調味料が、肉本来のポテンシャルを最大限に引き出している。ピエモンテの力強い赤ワイン、ドルチェットを合わせれば、そこには完璧なマリアージュが完成する。ワインのタンニンが肉の旨味を増幅させ、喉を通るたびに心の奥底から熱いものがこみ上げてくる。

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ピエモンテ、イタリアワインを中心に、ナチュールワインのセレクトも。

店内の一角に佇むワインセラー。それは僕にとって、宝箱のような存在だ。ピエモンテ産の銘柄を中心に、厳選されたワインが所狭しと並んでいる。この日選んだのは、ラング地方のシャルドネ。清涼感がありながらも、芯の通ったミネラル感が料理の脂を心地よく流してくれる。ヴィヴィドのワインセレクションには、造り手への深い愛情と敬意が感じられる。ラベルを眺めるだけで、そのブドウが育った丘の風景、日差し、風の香りが脳裏をよぎる。一杯のワインが、僕をイタリアへと連れ戻してくれる。

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華やかさ、コクとフルーティさがありながら、爽やかなミネラル感が味を引き締めるランゲのシャルドネ。

食事を終え、最後のひと口のワインを飲み干したとき、僕の心は深い満足感と、言葉にしがたい感動に満たされていた。遠く離れた日本で、これほどまでに純粋にピエモンテの魂を感じられる場所があることへの感謝。そして、料理を通じて異国の文化を、その「心」まで伝えようとするシェフの情熱。

ヴィヴィドはお腹を満たすだけの場所ではない。ここは日常の中で忘れかけていた大切な記憶を呼び覚まし、明日の活力を与えてくれる、魂の避難所のような場所だ。オープンキッチンから聞こえる活気ある声、温かいおもてなし。ここは恵比寿に現れたピエモンテの小さな領事館であり、僕にとっての「新しい我が家」だ。もし読者のみなさんが、日常の喧騒に疲れ、心が少し乾いていると感じるなら、ぜひこの店の扉を叩いてほしい。そこには、鮮やかな色彩と香りに満ちた、本物のピエモンテが待っている。僕は確信している。店を出るとき、あなたの心もまた、僕と同じように「ヴィヴィド」に彩られ、明日を生きる勇気が静かに湧いてくるはずだ。

vivido (La Mia Cucina Piemontese)東京都渋谷区東3-23-2 恵比寿レジデンス参番館 1F営)11:30〜14:30、17:00〜23:00(月〜金)12:00〜23:00(土、日、祝)不定休tel: 080-3945-9486Instagram

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