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バイタルは正常、でも『何かが違う』→訪問看護師だけが気づいた“患者の異変”とは…?

  • 2026.4.28
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

訪問看護では、バイタルサインや検査データといった「数値」で状態を判断する場面が多くあります。けれど実際の現場では、それだけでは説明できない違和感に出会うことも少なくありません。

「何かが違う気がする」

その曖昧な感覚に、どこまで向き合うべきなのか。

今回は、数値には表れなかった変化に気づいたことで、重大な見逃しを防ぐことができた出来事をお伝えします。

安定しているはずのAさんに感じた「いつもと違う感じ」

Aさんは訪問看護を利用している高齢の女性で、慢性疾患を抱えながら自宅で生活していました。

これまで大きな急変はなく、状態は比較的安定して経過していました。その日も、いつも通りの訪問です。

「こんにちは、体調いかがですか?」

声をかけると、Aさんはゆっくりとこちらを見ました。

「…はい、大丈夫です」

言葉としては問題ありません。しかし、その返答にどこか引っかかるものがありました。バイタルサインを測定します。血圧、脈拍、体温、SpO2のいずれも大きな異常はありません。

「問題なさそうですね」

そう思いながらも、違和感は消えませんでした。

部屋の中が、いつもより静かに感じる。Aさんの表情が乏しく、反応が少し遅い。会話のテンポも、ほんのわずかにずれている。

はっきりと言葉にできる異常ではありません。それでも、「何かが違う」という感覚だけが残りました。

「大丈夫ですよ」と言う家族とのズレ

同席していたご家族に声をかけました。

「今日のご様子、いつもと変わりないですか?」

家族はすぐに答えました。

「特に変わりないですよ」「ちょっと元気ないかなとは思いましたけど、疲れてるだけじゃないですかね」

言葉としては自然です。けれど、その説明と目の前のAさんの様子がどこか噛み合っていない気がしました。

私はもう一度Aさんに声をかけました。

「今日はちょっとぼーっとする感じ、ありますか?」

Aさんは少し考えるようにしてから答えました。

「…うーん、わからないです」

その返答も、やはりどこかはっきりしません。

「気のせいかもしれない」その考えが頭をよぎりました。

バイタルは安定している。家族も大きな変化はないと言っている。それでも、このまま帰っていいのかという迷いがありました。

「少し気になるんです」と伝えた一言

私は、数分迷いました。この違和感に、どこまで意味があるのか。判断を誤れば、過剰な対応になるかもしれない。

それでも、私は家族にこう伝えました。

「大きな異常はないんですが…少し気になるところがあります」

家族は少し驚いた様子でこちらを見ました。

「え、そうなんですか?」

「はっきりした異常ではないんですけど、いつもと少し違う印象があって」

「念のため、一度医師に相談させてもらってもいいですか?」

家族は少し考えたあと、頷きました。

「…お願いします」

私はその場で主治医へ連絡し、状況を説明しました。

「バイタルは安定していますが、反応の鈍さと全体的な違和感があります」

電話口でそう伝えながら、自分でも少し曖昧な説明だと感じていました。

それでも医師は言います。「一度診ておきましょう。受診につなげてください」

明らかになった異変と「気のせいかもしれない」をどう扱うか

その後、Aさんは受診となりました。検査の結果、軽度の感染症の兆候と、意識障害が認められました。

「もう少し遅れていたら、状態が悪化していた可能性があります」

医師のその言葉を聞いたとき、背筋が少し冷たくなりました。

あのとき、「大丈夫そうだから」と判断して帰っていたら。そう考えると、違和感をそのままにしなかったことの重みを感じました。

訪問看護では、限られた時間の中で判断を求められます。

数値に異常がなければ、「問題なし」と判断することもできます。しかし、それだけでは拾えない変化があるのも事実です。

今回の違和感は、いつもより静かな空間、表情の乏しさ、反応のわずかな遅れでした。

どれも単体では、見過ごされてもおかしくないものでした。それでも、それらが重なったとき、「何かが違う」という感覚につながりました。

帰り道、私は何度もあの場面を思い返しました。

「少し気になるんです」

あの一言を伝えるかどうかで、結果は大きく変わっていたかもしれません。訪問看護におけるプロの勘は、特別なものではありません。

日々の観察や関わりの中で積み重なった、わずかな違いへの気づきです。そしてその気づきを、「気のせい」で終わらせないこと。そこに責任の重さがあるのだと感じています。

あの日の出来事は、違和感を言葉にすることの大切さを改めて教えてくれました。


ライター:こてゆき

精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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