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「自作の遺言書と遺産8,000万円」を残して亡くなった70代父→母と子ども2人で分けるはずが…司法書士に告げられた“想定外の宣告”

  • 2026.4.23
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

皆さま、こんにちは。金融機関でマネージャーとして働きながら、日々お金に関するさまざまなご相談に向き合っている中川です。

「遺言書を残しておけば、相続でもめることはない」 そう考える方は少なくありません。しかし、その考えが思わぬ落とし穴になることもあります。

今回は、遺言書の形式不備により無効と判断され、家族間の争族へと発展してしまった70代男性の事例をご紹介します。

「これで家族は安心だ」と思っていた遺言書

今回ご紹介するのは、70代前半のAさん(仮名)です。

妻と成人した子ども2人(長男・長女)がいるご家庭で、自宅不動産と金融資産あわせて約8,000万円の財産をどう分けるか、自分なりに考えていました。

書店で購入した書籍を参考に、手書きで遺言書を作成。「専門家に頼むほどでもないだろう」と考え、遺言書は自宅の引き出しにしまわれました。

形式不備が発覚したのは、Aさんが亡くなった後

家族が遺言書を開封し、司法書士に相談したところ、深刻な指摘を受けます。

  • 作成日付が「令和〇年吉日」と記載されており、具体的な日付が不明
  • 署名はあるものの、押印がない

自筆証書遺言には、全文の自筆・日付・氏名の自書・押印という厳格な要件があります。「吉日」記載は特定の日を示さないとして無効とされる可能性が高く、押印の欠如も要件を満たしません。結果として、遺言書は法的に無効と判断されました。

長期化する協議、そして家族関係の亀裂へ

遺言書が無効となり、相続は法定相続の手続きへ移行。妻・長男・長女の3人による遺産分割協議が必要となりました。

Aさんの意思は「自宅は長男に」「金融資産は妻と長女で」というものでしたが、法的効力がない以上、3人はゼロから話し合いを始めます。自宅不動産の扱いをめぐり長男と長女の意見が対立し、やがて弁護士を立てた交渉へと発展。協議開始から約1年半、最終的には法定相続に近い形で決着しましたが、兄妹の関係には深い溝が残りました。

無効になりやすいケースとは

自筆証書遺言が無効とされる主なケースには次のようなものがあります。

  • 日付が「吉日」など特定できない記載になっている
  • 押印がない、またはシャチハタ印を使用している
  • 一部をパソコンや代筆で作成している
  • 財産の特定が曖昧で、誰に何を渡すかが不明確

要件を一つ欠くだけで全体が無効になることがあります。「少しくらいいいだろう」と思わず、しっかり確認してください。

「相続の安心」は、正しい形式から生まれる

遺言書の内容がどれだけ明確でも、形式要件を満たさなければ法的効力は生まれません。遺言書は「法律の要件を満たした文書」である必要があります。

形式不備を防ぐ方法として、「公正証書遺言を作成する」「遺言書保管制度を活用する」という方法があります。公正証書遺言であれば、公証人が関与するため形式不備による無効はほぼ防げます。また、自筆証書遺言を選ぶ場合も、法務局の「遺言書保管制度」を活用すれば形式チェックを受けることが可能です。

遺言書があること自体は、遺された家族にとって安心できるものです。ただし、遺言書は正しい形式で作成されてはじめて、家族を守る力を持ちます。大切な方のために、いま一度遺言書の形式を見直してみてはいかがでしょうか。


執筆・監修:中川 佳人(なかがわ よしと)(@YoshitoFinance)
金融機関勤務の現役マネージャー。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。 20年にわたり、資産形成や家計管理・住宅ローンなどの実務に携わってきた経験を活かし、記事の監修や執筆を行っている。 専門的な内容を、誰にでもわかりやすく伝えることをモットーとしている。

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