1. トップ
  2. 「後でまとめてもらおう」年金受給を70歳に繰下げ。“月18万→25万”に増額されるはずが…71歳男性を直撃した“思わぬ大誤算”

「後でまとめてもらおう」年金受給を70歳に繰下げ。“月18万→25万”に増額されるはずが…71歳男性を直撃した“思わぬ大誤算”

  • 2026.4.10
undefined
出典元;photoAC(※画像はイメージです)

 

こんにちは。FPとして主に家計相談やお金に関する情報発信などを行っている柴田です。

先日、相談者の71歳男性・Aさん(仮名)から、こんな言葉が出てきました。「65歳からもらわずに70歳まで待ったのに、実際に手元に残る額を計算したら思っていたより全然少なくて……損したとは言いたくないけど、正直複雑です」

Aさんは65歳で定年退職後、「どうせ働き続けるなら年金は後でまとめてもらおう」と繰下げ受給を選択。65歳時点の年金額は月18万円でしたが、70歳まで5年待ったことで月約25万円(約42%増)になりました。額面上は1.4倍ですが、実際に振り込まれる金額を見て、Aさんはショックを受けたようです。

繰下げで増えた年金は、まるごと課税される

年金は「雑所得」として所得税・住民税の課税対象になります。繰下げによって年金額が増えれば、それに比例して税負担も重くなります。Aさんの場合、65歳受給時と70歳受給時を比べると、年間の年金額は約150万円程度から約213万円に増加しました。

この増加分がそのまま課税所得に加算され、所得税・住民税の負担が増える点はAさんもイメージできていました。ただし、家計への影響はそれだけではありません。

Aさんの場合、住民税非課税世帯から課税世帯に切り替わったことで、各種行政サービスの優遇も受けられなくなりました。さらに見落としがちなのが、後期高齢者医療保険料・介護保険料への影響です。

これらの保険料は前年の所得をもとに計算されるため、年金収入が増えると翌年の保険料が跳ね上がります。Aさんの場合、合わせて年間で数十万円単位の負担増になりました。こうした税・保険料の影響を加味すると、繰下げで増えた額面のうち実際に手取りとして残るのは増加分の7~8割程度にとどまるケースが多いように感じます。「年金が1.4倍になった」と喜んでいても、手取りベースでは1.3倍程度に収まることを念頭に置いておく必要があります。

医療費の窓口負担が「1割→2割」に変わるリスク

もうひとつ盲点になりやすいのが、医療費の自己負担割合です。75歳以上の後期高齢者医療制度では、所得が一定ラインを超えると窓口負担が1割から2割に引き上げられます(現役並み所得者はさらに3割)。

Aさんはちょうどこのラインをまたいでしまい、持病の通院費が実質2倍になりました。「毎月の医療費がここまで変わるとは思っていなかった」とAさんは話していました。繰下げによる増額分が、思わぬところで吸い取られていく感覚だといいます。

繰下げが「得になる人・損になる人」

そもそも、年金の本質は保険です。「どれだけ長生きしても終身で受け取れる」という点が強みであり、Aさんのように「可能な限り繰下げる」という判断は合理的です。ここで、繰下げが向いている人と向いていない人の特徴を整理してみましょう。

まず向いているのは、健康状態が良く長生きが期待できる人や繰下げ待機中も十分な収入・貯蓄があって年金に頼る必要がない人です。こうした条件が揃っているほど、繰下げの恩恵を受けやすくなります。

一方で、持病があり医療費がかさむ人や住民税非課税世帯の優遇を受けたい人、繰下げ待機中の生活資金に不安がある人は、額面の増額より手取りの減少や給付の喪失が上回るリスクがあります。

損益分岐点は一般的に「82〜86歳前後」と言われますが、税・保険料・医療費の窓口負担の影響を加味した「手取りベース」で計算すると、「何歳から受け取るのが得」を判断するのは複雑です。年金の本質を考えると、私個人としてはAさんのように「手取りがあんまり増えない」と感じることを踏まえたうえで、基本的に「長生きリスクに備えるために、できるだけ繰下げる」というスタンスが無難かと感じています。

まとめ

繰下げ受給は「額面」だけで判断すると、Aさんのように手取りのギャップに驚く結果になりかねません。税金・保険料・医療費の窓口負担を含めた「手取りベース」でシミュレーションすることが不可欠です。

「何歳まで繰り下げるか」は、健康状態・家族構成・資産状況によって最適解が大きく変わります。受給開始年齢を決める前に、一度FPや年金事務所への相談も検討しましょう。


柴田 充輝
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,200記事以上の執筆実績あり。

の記事をもっとみる