1. トップ
  2. 年金受給を“65歳→70歳”に繰り下げ→「受給額が42%増える」はずが…数年後、60代男性を襲った“288万円”の大誤算【お金のプロは見た】

年金受給を“65歳→70歳”に繰り下げ→「受給額が42%増える」はずが…数年後、60代男性を襲った“288万円”の大誤算【お金のプロは見た】

  • 2026.4.9
undefined
出典元:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは、マネーシップス代表の石坂です。

年金は「遅らせるほど増える」と言われ、繰下げ受給を検討する方が増えています。実際、70歳まで繰下げれば受給額は42%増えます。

ただし、その間は1円も受け取れません。この前提が崩れると、思わぬ損失が生じます。今回は実際の相談事例をもとに、「増えるはずの制度で損が出る構造」を整理してみましょう。

66歳で崩れた“繰下げ前提”の現実

ご相談者は60代男性Aさん(仮名)の実例です。

Aさんは、65歳から年180万円の年金を受け取る予定でしたが、「70歳まで待てば42%増の年約256万円になる」という情報をもとに、繰下げを選びました。

年金は繰下げるほど増え、目安は次のとおりです。

  • 65歳:180万円
  • 66歳:約195万円(+8.4%)
  • 70歳:約256万円(+42%)

Aさんも、「5年間は受け取らない代わりに、その後大きく増える」という前提で判断していました。

しかし、66歳で体調を崩し、働くことが難しくなります。収入が減り、これ以上繰下げを続けることができず、66歳から受給を開始することになりました。

ここで問題になるのが、「受け取れなかった期間」と「増え方の中途半端さ」です。

本来、65歳から受け取っていれば、1年分の180万円を受給できていました。しかし繰下げたことで、この180万円は受け取れません。年金は後からさかのぼって受け取ることができないため、この分はそのまま失われます。

一方で、増額は限定的です。66歳から受給した場合、年金は約195万円となり、増えたのは年間約15万円にとどまります。

さらに、本来70歳まで待てば約256万円になっていたため、66歳時点の195万円と比べると、年間で約61万円の差があります。これが今後も続くことになります。

今回のケースをまとめると、

  • 未受給:180万円(1年分)
  • 増額差:約61万円/年(70歳時点との差)

結果として、「待ったのに増えきらず、受け取れなかった分だけが残る」形となり、合計で約288万円の機会損失となりました。

この事例で見落とされていたポイント

問題は、「増える」という部分だけを見て、「受け取れない期間」の重みを軽視していた点です。繰下げは確かに有利な制度ですが、その間は年金収入がゼロになります。

また、一度受給を開始すると、過去にさかのぼって受け取ることはできません。「やはり65歳から受け取ればよかった」と思っても、その選択は取れない仕組みです。

さらに、体調や収入の変化によって、当初の前提どおりに繰下げを続けられない可能性もあります。その場合、増額は小さく、未受給の期間だけが確定して残ることになります。

「もしもの時」に耐えられるかを試算する視点

繰下げは、長く生きるほど有利になる仕組みで、一般的には80代以降で総額が逆転するケースが多いとされています。

ただし重要なのは、「途中でやめても生活が成り立つか」です。

今回のように66歳で受給を開始すると、未受給1年分に加えて、将来の増額分も取り切れなくなります。「何歳まで生きるか」だけでなく、「その間の生活をどう支えるか」を優先して考える必要があります。

判断の目安はシンプルです。

  • 繰下げ期間中、年金がなくても生活できるか
  • 途中でやめても大きな影響が出ないか

この2点を確認することで、無理のない判断ができます。繰下げは有効な選択肢ですが、前提が崩れた場合の影響まで含めて考えることが重要です。


監修・執筆:石坂貴史
証券会社IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー・証券外務員)、2級FP技能士、AFP、マネーシップス代表。累計1,200件以上のご相談、金融関連の記事制作、校正・監修を手掛けています。「金融・経済、不動産、保険、相続、税制」の6つの分野が専門。お金の運用やライフプランの相談において、ポートフォリオ理論と行動経済学を基盤にサポートいたします。

の記事をもっとみる