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『パリに咲くエトワール』なぜ殺陣作画監督とメカデザイン? 見る前に知ってほしい8つのこと

  • 2026.3.19
劇場アニメ『パリに咲くエトワール』における「バレエ作画監督と振付師」「殺陣(たて)作画監督」「メカデザインとメカ作画監督」のスタッフが具体的に手掛けていたことなど、見る前に知ってほしい要素を解説しましょう。(画像出典:(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会)
劇場アニメ『パリに咲くエトワール』 大ヒット上映中! 配給: 松竹  (C)「パリに咲くエトワール」製作委員会

『パリに咲くエトワール』が3月13日より劇場公開中です。本作は原作のないオリジナル作品であり、『ONE PIECE FILM RED』の谷口悟朗監督、『魔女の宅急便』のキャラクターデザイン・近藤勝也、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の脚本家・吉田玲子という磐石の布陣で送り出されています。

前置き:老若男女へ素直におすすめできる「とても丁寧に作られたアニメ」だけど……?

その本編は、老若男女に大推薦できる、見た後は元気がもらえる、「とても丁寧に作られたアニメ」の理想形といえる完成度でした。

(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会
(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会

もっとピンポイントにおすすめすると、「薙刀(なぎなた)で戦う長身でおかっぱの女の子が実はバレエに憧れていて一生懸命頑張る」「リボンの似合う天真爛漫(らんまん)な女の子が応援する」尊さ。それを真っすぐに届けていたので、その関係にビビッと来た人は絶対に映画館で見てください。

予告編やビジュアルから多くの人が想像する物語とは(おそらく)少し異なること、「バレエ作画監督と振付師」「殺陣(たて)作画監督」「メカデザインとメカ作画監督」というスタッフがいた理由、さらには予定調和にならない(ここは好みは分かれるかも?)要素もあることも知ってほしいです。大きなネタバレにならない範囲で、見どころをまとめていきましょう。

大きなネタバレにならない範囲で、見どころをまとめていきましょう。

1:「主人公は友達を応援する立場」だけど「早くから行き詰まってしまう」

本作の舞台は1912年のパリで、描かれるのは2人の日本人の少女がたくましく生きる姿。画家を夢見るフジコと、バレエに心惹かれる千鶴という2人ともが、親から望まれていることとは違う道を選んでいることが重要でした。

フジコは夫を支えるよき妻となる将来を望まれながらも、絵の勉強のためにパリにやってきます。一方で千鶴は武家の家系に生まれた薙刀の名手ながら、バレエに心惹かれていました。

(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会
(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会

今よりもさらに女性が画一的な生き方を押し付けられていた、しかも戦火が目の前に迫る困難な時代にあってもなお、2人が本当に好きなことを諦めない姿がまぶしく見えるのですが……実は、千鶴が夢に確実に突き進んでいく一方で、フジコは早くから挫折してしまうのです。

(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会
(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会

千鶴はロシア出身のバレリーナから厳しい指導を受け、東洋人であることでのハンデも感じていて、バレエを学んでいることを両親になかなか打ち明けられずにいますが、それでも努力を続けていき、その才能もはっきりと分かっていきます。

一方でフジコは、保護者である叔父さんが突如として失踪してしまい、帰国を促されてもなんとか仕事を見つけてパリでの暮らしにしがみつき、バレエにいそしむ千鶴のサポートをして、さらに多くの人と出会うのですが……。

(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会
(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会

フジコは肝心の自身の絵については何も学べていない、それどころか絵を描く時間もないという状況が続き、その後にはとある絶望そのものといえる感情を吐露してしまうのです。

2:「このための物語」と気付くことに感動がある

2人の少女が共に夢に向かって励み合っていく物語かと思いきや、「自分だけが早くから行き詰まってしまう」どころか「夢のために何もできないでいる」ことに、もどかしさを覚える人は確実にいるでしょうし、そこは好みが分かれるところでしょう。

しかし、筆者はそれこそが『パリに咲くエトワール』の本質だと思いました。

自分が友達を応援する気持ちにウソはないし、自分は夢を諦めていないはず。でも、そのことがまた彼女を苦しめる……では、どうしたらその夢に対して何もできない状況を打ち破ることができるのか?という問いからの答えがとても鮮やかで、「このための物語だったんだ」という大きな感動があったのです。

そのフジコが塞ぎ込むばかりか、元々持っていたはずの力さえも出せなくなってしまうというのは、『魔女の宅急便』の主人公・キキが魔法の力を失ってしまうこともほうふつとさせます。

『魔女の宅急便』はファンタジーでありながら現実にある仕事や夢についての物語になっていましたが、『パリに咲くエトワール』はよりリアルに夢の挫折や希望を描いた作品といえるでしょう。

3:現実のバレエを雄弁に語る作画のこだわり

本作はファンタジー色のない日常を描く内容のため、ともすると地味な印象を持たれるかもしれませんが、実は人間の細かい動きがこだわり尽くされている、「作画がものすごい」作品であることを特筆するべきでしょう。

特にバレエシーンでの動きは圧巻です。それもそのはず、バレエの作画監督を務めたやぐちひろこによると、「実際の専門家の動きをモーションキャプチャで3DCGに反映した映像を原画のスタッフに見てもらい、大まかなラフのプランを描いてもらって、そこで押さえておきたいポイントをチェックして、その上でレイアウトとラフ原画に入ってもらう」という工程を踏んでいたのだとか。

(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会
(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会

そのほかにも、「バレエは先端がきれいなことが大事なので、つま先の伸ばし方や手の使い方などについての注意事項をまとめて共有していた」「ポジション、姿勢、目線といったものも実際に忠実に描くことで、バレエの持つ余韻も含めて伝えられたら」と、やぐちひろこは語っています。

さらに、「千鶴はあの年齢からバレエを始めてプロに追いつけるほどの天才なので、基本の動きも含めて最初から上手く描いていますが、谷口監督と話し合った上で『武道をやっていたから関節が開かない、股関節がかたい』という設定を踊りに反映しています」と、「キャラクターの元々の動きの特徴」までも取り入れていたそうです。

振付師である田北志のぶは、パリ在住の元バレエダンサーのウィルフリード・ロモリの元を訪ねて指導を受けています。その田北のほか、MYKYTA SUKHORUKOV、根岸祐衣、大城美汐の4人のバレエダンサーの踊りをモーションキャプチャーで映像に取り込み、さらにロモリは本編ではクライマックスの「ジゼル」の振付も担当しています。

バレエのプロと作画スタッフの連携によって生み出されたその動きは、アニメという表現だからこそ、現実のバレエの美しさや表現の豊かさを雄弁に語っているのです。その1つ1つの動きを、ぜひ見逃さないでほしいです。

4:薙刀のアクションはバレエの影響も受けていた

薙刀で戦うアクションシーンもふんだんにあることも大きな見どころ。「殺陣作画監督」を務めたのは、『アイの歌声を聴かせて』のクライマックスで階段を上っていくシーンも手がけていた中田栄治。本作の作画のために谷口監督などスタッフと一緒に「北辰一刀流玄武館」に取材に行き、数日間指導を受けていたそうです。

中田栄治は実際に薙刀を手にして動きの難しさがわかったため、道場の先生の動画も参考にして、詳細にアクションを組み立てたコンテも作ったものの、谷口監督にチェックしてもらった時に、「ここに回し蹴りを入れてもらえますか」といったプラスアルファが必ずあって、より大変な内容になっていたのだとか。

そのほか、「フジコと再会するシーンでは武術家らしいムダのない動きを意識していますが、映画後半になるとバレエの影響を受けてだんだん自由な感じの動きになっていく」というこだわりや、「実際には危険なのでやらない、足を高くあげるバレエ的な動きもエンタメ性を意識して取り入れていて、そこにはバレエ作画監督のやぐちさんにも確認してもらいました」という大胆な試みもされているのです。

シンプルに女の子が流麗な動きで戦う様そのものがカッコいいですし、フランスの棒術である「ラ・キャン」の使い手であるチンピラとの戦いは手に汗握るスリリングさもあります。バレエの動きはもちろん、薙刀の動きもまたキャラクターの成長とリンクしていることに着目するといいでしょう。

5:『スチームボーイ』のような「煙の芝居」も楽しめる

本作は殺陣作画監督のほかにも「メカデザイン」「メカ作画監督」がクレジットされているため、「もしかして巨大ロボットが出てくるの?」などと話題になっていましたが、もちろんそんなことはないのでご安心(?)を。

実際にメカデザインの片貝文洋が手掛けたのは、列車や自転車。設定考証の白土晴一と協力して実在する乗り物のデザインにこだわっていたのです。

ラジオ番組「アフター6ジャンクション2」に出演した谷口監督によると、「キャラクターや世界観に合ったメカの描き方があり、シャープなエッジの効いた画にするとメカが浮いてしまうため、どこか丸みを残すようにしている」という調整があり、メカ作画監督の橋本敬史は「メカから出る煙を写実的にしながらも、写実的にしすぎることなく煙の『芝居』ができるようにする」取り組みをしていたのだとか。

橋本敬史は、タイトル通りに煙の描写が印象的な『スチームボーイ』でもメカエフェクト作画監督と原画を担当していました。今回は後述するネタバレ厳禁の場面で特に「煙の芝居」がとても面白いことになっていたので、ぜひそちらにも注目してほしいです。

6:終盤の突飛な展開は賛否両論?でも想像できることに面白さもある

前述した「1人だけ夢へ進めなくなってしまう」こと以上に、本作で賛否両論が分かれるであろうことは、終盤にとある「これまでの流れからすればやや突飛な展開」が、しかも「二段構え」で待ち受けていることでしょう。

その二段構えのどちらもが「いくらなんでもこんなことはしないだろう」と思ってしまう、現実離れしたものであるので、これまでのリアルな物語に惹かれていた人は、「冷めて」しまう原因になるかもしれません。

しかし、筆者個人としては、それらは予定調和にならないサプライズとしても、ちょっと笑いつつも楽しめました。「あの人の行動はあまりに不自然なので、もしかすると言っていることとは違う意図があったのでは?」「その後のあの人のとんでもない行動も、これまでのキャラクターの描写からすれば納得できるのでは?」などと想像できたのです。

これらのシーンでは、前述してきた「アクション」「メカ」の作画のすごさが大盤振る舞いの、単純なサプライズにとどまらないアニメとしての豊かさがたっぷりであることにもぜひ注目してほしいのです。少なくとも、「えっ!?なんだその展開!」と戸惑うだけではもったいないですよ。

7:ボイスキャストの好演と「文芸的」な2つの要素

本作のボイスキャストは、フジコ役に當真あみ、千鶴役で嵐莉菜という、本業が声優ではないキャスティングがされていますが、それぞれが「応援する立場」「戸惑いつつも頑張る」役柄にとてもマッチしていました。

青年ルスラン役の早乙女太一や、バレエを教えるオルガ役の門脇麦の声には、「悩みを持ちながらも導く役」としての大きな説得力がありました。

(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会
(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会

それらのボイスキャストの「生っぽい」演技に絡んでいるのは、谷口監督の「バレエや絵や薙刀という視覚的なエンタメ以外のところは、『文芸的』になってもいい」という挑戦です。

その文芸的とは、「善人や悪人がいるのではなく、ひとりの個人としてそこに存在しているということをちゃんと表現すること」と、「なにもかもを台詞で説明するのではなく、観客がキャラクターたちの心情を想像する余地のある演出をすること」だったとか。

(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会
(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会

さらに、「意図的に余白を残す」スタイルは、谷口監督自身の目標でもある高畑勲監督が『母をたずねて三千里』などでやってきたことだったのだとか。その通りで、本作はほんの少しの台詞や表情、さらには余白から「この人はきっとこうなのだろう」と想像できることにも、面白さがあるのです。

8:幸せな気分で映画館を後にできる作品に

谷口監督は「幸せな気分で映画館を後にしてほしい」とも願っています。

(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会
(C)「パリに咲くエトワール」製作委員会

その幸せというのは、「ふたりの頑張る姿をみて励まされた」でも、「応援していたキャラクターたちの輝く瞬間を見て、よかったね」でも、「アニメでバレエや薙刀を見られておもしろかった」でもいいとのこと。

その上で、「映画館でしか体験出来ない映像と音楽を意識しているところでもあるので、フジコや千鶴といっしょに100年前のパリを共有し、ともに時間を過ごしたことを楽しんでもらえればうれしい」とも、谷口監督は願っているのです。

まさにその言葉通りであるので、細かいアニメの演出はもとより、エンタメとして楽しむというのが本作の本懐でしょう。この春は話題作が目白押しですが、その中でも万人向けの作品として、ぜひ候補に入れてみてほしいです。

この記事の執筆者: ヒナタカ

All About 映画ガイド。雑食系映画ライターとして「ねとらぼ」「マグミクス」「NiEW(ニュー)」など複数のメディアで執筆中。作品の解説や考察、特定のジャンルのまとめ記事を担当。2022年「All About Red Ball Award」のNEWS部門を受賞。

文:ヒナタカ

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