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パリやNYの生活に溶け込む日本の伝統。世界中のアーティストが支持する「横山畳工房」の仕事

  • 2026.4.27

1800年代後半のジャポニスムから現在にいたるまで、古今、世界を刺激する“日本の美”は、日常の中で醸成されてきた。

空間を仕切る衝立や襖、道具やちり紙にまで宿る美意識は、芸術と用の美を峻別することのない独自の感性によって成り立ってきたのだ。

時を超え美を継承する職人たちの手業を求めて京都を旅する。

今、世界のクリエイターたちは日本の伝統文化に熱い視線を送っている。その動きに応え、普遍の価値を問い続ける京都の2つの工房に美意識を聞いた。変わらぬ姿勢と変えるべきスタイル、その境界はどこにあるのだろうか。


長い海外暮らしを経て伝統工芸の担い手へ

明るく陽が差し込む「横山畳工房」で。鉄板の入った畳職人用の道具「手当」を当て、もう一方の手を添えてぐっと畳針を刺す横山氏。空気に緊張が満ちる。

京都市内ではあるが、横山充氏の畳工房は最寄り駅からバスに揺られて20分ほど行った大原にある。素っ気ない建物は、一歩入れば清々しいイグサの香りと石油ストーブの懐かしい匂いが入り混じり、なんとも優しい気分になる。

切り落とされたイグサは顔を埋めたくなるような芳香。

東京に生まれ湘南に育った横山氏は、もともと京都には縁もゆかりもない人。そんな彼が畳という伝統工藝の世界に飛び込み、内外多くのアーティストやデザイナーから熱い支持を集めて「TATAMI」をネクストステージへと推し進める存在となるまでには長い寄り道の時間があった。

1978年生まれのバイリンガル、畳職人でありクリエイター、横山氏。

ニューヨークでは語学学校に通いながらカメラマンを志し、アシスタントとして5年過ごした。パリを拠点にアルバイトをしながらヨーロッパを1年放浪し、オーストラリアで船大工として6年を費やした。合間には東京で“一応”サラリーマンだった1年もある。国も仕事も変えながら歩んだ時間は一直線ではなかったが、「京都に移住し畳職人になる」と決めたのはシンプルな理由だった。

畳の芯材「畳床」は、元々は稲藁を圧縮して作られる。これは伝統的なタイプだが近年ではポリスチレンフォームを用いる建材床が主流に。

「長い海外暮らしで、畳が恋しくて仕方なかったんです。同時に畳という日本にしかない文化の素晴らしさを、もっと世界に伝えたいと思うようになりました。誰もやらないなら自分がやろう、と。最も美意識が高く、厳しい修行ができる京都を選び、畳職人養成学校に入りました」(横山氏)

京都に移住した“新参者”が創る畳、その本質

カラー畳の見本は現代アートのような存在感。

人生はこれを機に大きく舵を切ることになる。朝、家を出る前に1枚の畳を仕上げ、日中は畳店で働き、夜は再び畳に向かう。畳漬けの日々が続いた。しかし、それは苦ではなかったという。好きでたまらないものに真正面から向き合える時間だったからだ。

やがて技術を競う大会でも頭角を現し、数々の賞を受賞。独立後は、従来の畳職人の枠にとらわれない発想で新たな表現にも挑み始める。KYOTOGRAPHIE京都国際写真祭へ黒畳を提供するなど、現代の表現の場にまで広がりを見せている。

漆黒の畳は海外からのオーダーも多い。

横山氏の畳は今やパリやニューヨークで、日本家屋に暮らしたことがない人の生活にも溶け込んでいる。そういった海外向けだけではない。国宝級の寺や町家御用達の畳職人を師とした横山氏の畳には、徹底的に美意識を叩き込まれた背骨の通った美しさがある。代々お抱えの畳職人に仕事を依頼する家が比較的多い京都にあって、建仁寺や宝泉院などの畳を横山氏が手がけたというのもその証だ。

工房の作業台には色とりどりの畳縁見本や使い込まれた道具が整然と並ぶ。

「それでも仕事の多くは海外ですが」と朗らかに笑う横山氏。結局、計算でも戦略でもなく情熱を武器に突き進んできたその姿勢が、これまで閉ざされた世界だった畳職人の在り方に新たな道を示しているのかもしれない。自由な感性の一方で、国産の素材しか使用せずサステナブルな畳を心がけるなど、横山氏流の掟もある。用の美とは常にリバイスされる存在なのだと、作家の生き方が語っている。

YOKOYAMA TATAMI(ヨコヤマ・タタミ)

YOKOYAMA TATAMI(ヨコヤマ・タタミ)

所在地 京都府京都市左京区大原野村町370
電話番号 075-366-6569
https://yokoyamatatami.com/jp/
●一般公開はしておらず、見学希望者はオフィシャルサイトより問い合わせのこと

文=山口繭子
写真=町田益宏

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