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「どうせもらえるなら早い方が…」年金受給を“65歳→60歳”に繰り上げ。10年後、70歳男性を待ち受けていた“残酷な現実”

  • 2026.3.7
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出典元:photoAC (※画像はイメージです)

65歳を待たずに月14万円が入ってくる安心感は、確かに魅力的でした。

しかし、同じ会社を65歳まで勤め上げた元同僚が月18万円を受け取っていると知ったとき、Aさんは初めて自分の選択を後悔しました。毎月4万円の差は年間48万円。70歳を過ぎた今、その差は取り戻しようのない現実として積み上がり続けています。

今回は、厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当している柴田が、「年金の繰り上げ受給を選んで後悔した人の体験談」を通して、受給時期で注意するべきポイントを解説します。

繰り上げ受給は「永久減額」で取り消しはできない

年金の繰り上げ受給とは、本来65歳からもらえる年金を60歳まで前倒しで受け取れる制度です。

ただし、1ヶ月繰り上げるごとに0.4%が永久に減額されます。60歳から受け取ると最大24%の減額となり、一度選んだら取り消すことはできません。一度の判断ミスが、老後生活に悪影響を及ぼす可能性があるわけです。

Aさんが気づかなかったのは損益分岐点の存在です。

繰り上げ受給の場合、早くもらい始めた「お得」が消えて逆転されるのは、おおよそ81歳前後です。つまり81歳より長生きすれば、繰り上げを選ばなかった方が生涯受取額は多くなります。日本人の平均寿命は男性が約81歳、女性が約87歳。特に女性にとって繰り上げ受給のリスクは小さくありません。

繰り下げ受給は「最強の長寿保険」

繰り下げ受給とは、受け取り開始を66歳以降に遅らせることで年金額を増やす制度です。1ヶ月繰り下げるごとに0.7%増額され、75歳まで繰り下げると最大84%の永久増額になります。損益分岐点はおよそ82歳前後で、それ以降生きるほど、繰り下げの恩恵は大きくなります。「75歳まで収入なしでは無理」という方は、全額繰り下げにこだわる必要はありません。

Aさんの場合、65歳時点での年金が18万円だったため、70歳まで繰り下げれば年金が月額約25.6万円になる計算でした。厚生年金と国民年金を別々に繰り下げることも可能ですし、一部だけ繰り下げるという選択肢もあります。退職後の数年間は貯蓄や再雇用収入でつなぎ、年金は少し待つだけでも、受取額は着実に増えていきます。

ただし、繰り上げ受給が必ずしも悪い選択かというと、そうとも言い切れません。株式配当や不動産収入など、年金以外に安定した収入源がある方であれば、「年金が多少減っても生活には困らない」というケースもあります。そうした方が早めに年金を受け取りながら他の資産を温存するという戦略は、十分に合理的な選択肢です。繰り上げが問題になるのは、年金だけを頼りに生活する状況で減額を選んでしまうときです。自分の資産全体を俯瞰したうえで判断することが、何より大切です。

受給時期を決める前に、確認すべき3つのこと

年金の受給時期は、一度決めたら原則変更できません。後悔しないために、事前にこの3つを確認してください。

1.ねんきん定期便で「65歳時点の受取額」を把握する

繰り上げ・繰り下げの計算は、この金額を基準に行います。まず自分の基準額を知ることが出発点です。

2.配偶者の年齢差と加給年金の有無を確認する

年の差がある夫婦ほど、繰り上げによる加給年金の損失が大きくなります。夫婦セットで考えることが必須です。

3.「何歳まで生きるか」ではなく「何歳まで生きても困らないか」で考える

繰り下げは長生きリスクへの備えであり、本質は「保険」です。あまり損得で考えるのは理にかなっていません。

年金の受給開始時期は、ねんきんネットのシミュレーションで手軽に試算できます。 繰り上げ・繰り下げそれぞれの受取総額を年齢別に比較できるため、「自分の損益分岐点は何歳か」が一目でわかります。決断の前に必ず一度、数字で確認することをおすすめします。

まとめ

「早くもらえる方が得」という感覚は、人間として自然なものです。しかし年金における「早さ」は、生涯にわたる減額と引き換えです。

Aさんの後悔は、制度を知らないまま目先の安心を選んだことにありました。繰り上げが絶対に悪いわけではありません。ただ、取り消せない選択だからこそ、決断の前に一度立ち止まって数字と向き合ってほしいのです。

老後の収入は、知識があるかないかで大きく変わります。


監修者:柴田 充輝

厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1200記事以上の執筆実績あり。保有資格は1級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP1級)、社会保険労務士、行政書士、宅地建物取引主任士など。