1. トップ
  2. ビジネス・マネー
  3. 退職金1800万を『年金形式』で受け取り→「毎月入ってくる方が安心」と思いきや…60代男性が見落としていた“痛恨の落とし穴”

退職金1800万を『年金形式』で受け取り→「毎月入ってくる方が安心」と思いきや…60代男性が見落としていた“痛恨の落とし穴”

  • 2026.6.13
undefined
出典元:photoAC(※画像はイメージです)

「毎月入ってくる方が、なんだか安心だよね」定年退職を迎えたとき、企業年金の受け取り方をそう決める人は少なくありません。

でも実は、この「なんとなく」の選択が、手取りで数百万円もの差を生むことがあるのです。

今回は、38年勤め上げて定年を迎えたAさん(60歳・男性)が、損する選択をしてしまったお話です。

「毎月の方がトクな気がして」年金型を選んだ結果

Aさんは退職時、退職金1,800万円について「一時金」または「20年確定年金で月8万円」という案内を受けました。「毎月入ってくる方が生活設計しやすいし、長くもらえる方がトクな気がする、総額も多いし」。深く考えず、Aさんは年金形式を選びます。

65歳からは公的年金も月18万円が始まり、合わせて年金収入は月26万円、年にして312万円に。一見、ゆとりある老後に見えます。ところが、ここに落とし穴がありました。

この年金収入から、所得税・住民税・国民健康保険料・介護保険料を合計すると、年に約45万円が引かれていく。その結果、額面ほど生活に余裕が生まれませんでした。一方、退職時にファイナンシャルプランナーに相談していた同僚は、まったく違う選択をしていました。

同じ原資なのに、300万円の差がついた理由

同僚は、企業年金を「一時金1,800万円」でまとめて受け取っていたのです。なぜそれが得だったのか。カギは税金の扱いにあります。

一時金で受け取ると「退職所得」という扱いになり、「退職所得控除」という大きな非課税枠が使えます。これは勤続20年までは年40万円、21年目以降は年70万円が積み上がる仕組み。Aさんの同僚のように勤続38年なら、なんと2,060万円までが非課税。つまり、同僚は退職金に関して税金を1円も納めていません。

対してAさんが選んだ年金形式は「雑所得(公的年金等)」の扱い。公的年金等控除はあるものの、老齢厚生年金や老齢基礎年金と合算されるため、控除枠をすぐに超えてしまい、課税対象がどんどん膨らんでいきます。

さらに、同僚は1,800万円をNISAで一部運用しながら、計画的に取り崩しました。その結果、同期のはずなのにAさんとの差は約300万円にもなったのです。

効いてくるのは税金だけじゃない

年金形式の盲点は、影響が税金だけにとどまらない点です。年金の受給額が増えると、それに連動して国民健康保険料・後期高齢者医療保険料・介護保険料といった社会保険料も上がっていきます。「収入が多い人」とみなされてしまうわけですね。

さらに見落としがちなのが、医療費の自己負担割合。所得によって1割・2割・3割と段階が変わるのですが、年金収入が多いと、この判定で不利になることも。窓口で払う医療費そのものが増えてしまうケースがあるのです。つまり、年金型を選ぶと「収入」として見える金額が膨らみ、税・保険料・医療費負担まで、あらゆる場面でじわじわ効いてくる。一時金なら退職所得という別枠で処理されるため、こうした「合算による膨張」を避けやすくなります。

こうして見ると、手取りという物差しでは一時金が有利になりやすいのは事実です。ただし、これは「絶対に一時金にすべき」という話ではありません。まとまった大金を前にすると、つい使いすぎてしまったり、運用で失敗してしまったり……という不安がある人にとっては、毎月決まった額が振り込まれる年金形式の方が、安心して暮らせる合理的な選択です。税金の損得だけでなく、自分の性格やライフスタイルに合っているかどうかも含めて、ご自身に合った受取方法を選びましょう。

「何となく」で選ばないための出口戦略

では、どう考えればよいのでしょうか。まず大前提として、一時金と年金、どちらが手取りで得になるかは人によって違います。退職金の額や勤続年数、ほかの年金収入によって最適解は変わるので、退職前に一度シミュレーションしておくことが何より大切です。

ポイントになるのが、退職金と企業年金、iDeCoや企業型DC(確定拠出年金)の受け取りタイミング。退職所得控除はとても強力ですが、複数の一時金を同じ年に重ねて受け取ると、控除枠を取り合ってしまうことがあります。そこで、受け取る年をうまくずらして、それぞれで控除をフルに活かす設計が有効です。

iDeCoと退職金は受け取る時期を数年ずらすと有利になるルールがあるので、出口の順番は早めに考えておきたいですね。そして、一時金で受け取った大きなお金をどうするかも悩ましい問題です。NISAを活用して一部は運用しながら、計画的に取り崩していくのも現実的な選択です。

もうひとつ意識したいのが「住民税非課税世帯」のライン。所得を一定以下に抑えられると、保険料や各種給付で優遇を受けられる場面があります。年金型でずっと所得が高い状態が続くと、こうした恩恵から外れてしまうことも。受け取り方を工夫することで、ラインを意識した設計ができる場合があるのです。

まとめ

「毎月入ってくる方が安心」「使いすぎ防止になる」。こうした心理的なメリットは、確かにあるでしょう。それ自体を否定するつもりはありません。ただ、その安心感の裏で、税金や社会保険料に数百万円の差が生まれているかもしれません。一度立ち止まって、時間をかけてじっくり考える価値は十分にあります。

退職は、人生でそう何度も訪れるイベントではありません。だからこそ「何となく」で決めず、受け取り方の選択肢とその影響を、退職前にしっかり比べてみてください。


執筆・監修:柴田 充輝
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,200記事以上の執筆実績あり。

の記事をもっとみる