1. トップ
  2. 貯金3200万円で「困らず生活できる」年金受給を70歳からに変更→2年後、60代男性を襲った“思わぬ大誤算”【お金のプロは見た】

貯金3200万円で「困らず生活できる」年金受給を70歳からに変更→2年後、60代男性を襲った“思わぬ大誤算”【お金のプロは見た】

  • 2026.3.6
undefined
出典元:photoAC(※画像はイメージです)

皆さま、こんにちは。金融機関勤務の現役マネージャーとして、日々さまざまなお金のご相談に向き合っている中川です。

老後資金の相談でよく耳にするのが、「年金は繰り下げた方が得ですよね?」という言葉です。確かに繰下げ受給を選択すれば年金額は増えます。しかし、そこには見落としがちな注意点が存在しているのです。

今回は、70歳のAさん(仮名)の事例をご紹介します。

月0.7%増えるという魅力

公的年金は原則65歳から受給できます。

繰下げ受給は、受給開始を1カ月遅らせるごとに0.7%増額される制度です。5年間繰り下げれば、年金は42%増額されます。

65歳時点で月18万円の年金が見込まれる場合、70歳からは月約25万5,600円の受給になります。年間約90万円の差です。10年で約900万円の差になります。

この数字を見て、Aさんは「70歳まで待とう」と決めました。

退職金2,000万円という安心感

Aさんの資産は、退職金の2,000万円と預貯金の1,200万円でした。

さらに65歳当時は、嘱託勤務で月12万円の収入がありました。

生活費は月25万円。不足分は年間約150万円です。5年間で約780万円。退職金や預貯金を取り崩せば、その後は増額された年金で生活できる計算でした。

「これでお金に困らず生活できる」数字の上では合理的な計画でした。

67歳、突然のがん告知

しかし67歳の春、人間ドックで異変が見つかります。診断はステージ2のがんでした。

手術と抗がん剤治療が必要になり、嘱託の仕事は続けられなくなります。月12万円の収入は途絶えました。

さらに治療関連費も発生します。高額療養費制度を利用しても、差額ベッド代や交通費などで年間約80万円の自己負担がかかりました。

当初予定していた150万円に加え、治療費は約80万円。年間約230万円の取り崩しとなり、貯蓄の減り方は想定より早まりました。

慌てて始めた年金受給

Aさんは67歳で年金受給を開始しました。65歳から24カ月遅らせたため、増額率は16.8%。月18万円は約21万円になりました。

確かに増えました。しかし70歳まで待った場合の水準には届きません。

「計画が狂ってしまった」

その思いと、「もっと早く受け取ればよかった」という後悔が交錯しました。

65歳から月18万円受給する場合と、70歳から月25万5,600円受給する場合。総受給額が逆転するのはおおよそ81〜82歳前後といわれます。

それより前に亡くなれば、繰下げは結果的に不利になります。繰下げは長生き前提の戦略なのです。

「人生の満足度」に目を向けてみる

Aさんはこう語りました。

「自分は元気だから大丈夫だと思っていた」

健康は予測できません。

年金戦略は、健康や寿命という不確実な要素を含んでいます。

繰下げ受給で年金額が増えるのは魅力です。しかし、健康で旅行や外食を楽しめる時間には限りがあります。それがいつまで続くのかは誰にも分かりません。

もし想定より早く体が思うように動かなくなったとしたら。65歳から受給し、元気なうちに自分の好きなことにお金を使った方がよかったと感じる人もいるでしょう。

Aさんは今、治療と向き合いながらこう話します。

「健康なうちに、もっと色々なところに行きたかった」

年金の受け取り方を考える際は、金額だけでなく人生の満足度まで含めて検討することが大切です。

お金に困らず、後悔のない老後を迎えるために、自分に合った受け取り方を考えてみてください。


監修者:中川 佳人(なかがわ よしと)(@YoshitoFinance)

金融機関勤務の現役マネージャー。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。 20年にわたり、資産形成や家計管理・住宅ローンなどの実務に携わってきた経験を活かし、記事の監修や執筆を行っている。 専門的な内容を、誰にでもわかりやすく伝えることをモットーとしている。