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「左右のドアミラーが動かない!?」バッテリー交換後の悲劇…元整備士が語る“致命的な落とし穴”

  • 2026.2.21
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

みなさま、こんにちは。元自動車整備技術アドバイザーの松尾です。

私の前職場では、日々現役の整備士から様々な相談がありました。その中にはユーザーが行った作業後、不具合が発生し、整備工場へ入庫する車もあります。

近年の車は非常に高性能で、車両のECU(コンピュータ)に様々なメモリーや学習値を保存しています。昔はただ交換するだけだったバッテリー交換も、最近はバッテリー交換時にバックアップを取りながら、メモリーや学習値を消さないようにしてから作業するケースが増えています。便利な方法ではありますが、ちょっとした油断が思わぬ不具合につながることもあります。

今回は、実際に起きたバッテリー交換後の電装トラブルと、電源バックアップ用ツール(以下、「バックアップツール」という)使用時の注意点を、DIYで整備される方向けに分かりやすくお話しします。

車検整備で見つかったドアミラーの不具合

ある車検入庫車両で、「左右のドアミラーが動かない」という症状が見つかりました。エンジン始動や走行には問題がなく、警告灯も点いていませんが、左右のミラーがまったく反応しません。

点検の結果、ドアミラー系統のヒューズが切れていることが判明。ヒューズを交換すると正常に動作しました。

ただし、ここで整備士は疑問に思います。「ヒューズが切れた原因は何だろうか?」と。

ヒューズが突然切れることは稀にありますが、本来は原因があって切れるものです。切れた原因を突き止めないと、車両をお客様へ返却した後に再発の可能性があります。そこでお客様に話を伺うと、前日にご自身でバッテリー交換をしていることが判明し、その際にバックアップツールを使用していたことが分かりました。

バックアップツールは「バッテリーの代わり」

バックアップツールとは、バッテリーを外している間にバックアップツールから車に電源を供給し、時計・ナビ設定・ECUの学習値などのメモリーを消さないための装置です。ネットショッピングやホームセンターなどで誰でも購入できます。使用方法は主に車両のOBDコネクタ(車両に故障診断機をつなぐ場所)に接続し、「外したバッテリーの代わりの電源」として機能します。

DIY整備をされる方の間でも広く使われており、非常に便利ですが、ここに注意点があります。

車の電気回路は、本来「バッテリーから各装置へ電気が流れる」前提で設計されています。ヒューズの容量や配置も、この流れに合わせて安全に作られています。

ところがバックアップツールを接続すると、電気は通常とは異なる経路から供給されます。いわば「想定外の電気の流れ」になるため、ヒューズに通常以上の負荷がかかる場合があります。

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画像作成:松尾佑人

図の中の矢印に注目してください。矢印は電気の流れる方向を示しています。

(1)の図は10Aヒューズを経由してドアミラー・モーターへ電源を送っています。

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画像作成:松尾佑人

(1)と(2)の図を見比べると、ドアミラー・モーターへの電気の流れが違うことが分かります。このとき、パワーウインドウを動かしたと仮定します。

パワーウインドウは本来、30Aヒューズを経由して、電気が流れています。つまり、パワーウインドウを動かすと30A近くの電気が流れます。

バックアップツール接続中にパワーウインドウを作動させた際の電気の流れは、バックアップツール→OBDコネクタ→10Aヒューズ→30Aヒューズ→パワーウインドウとなります。

すると、10Aヒューズの容量が足りずにヒューズが切れ、通常状態に戻したときにドアミラーが動かなくなります。

車種によって電気回路の設計は異なりますが、今回のドアミラー不作動も、このケースでした。

DIYでバッテリー交換する方への重要ポイント

バックアップツールの使用は間違いではありません。むしろメモリー保護のためには有効な方法です。ただし、次のポイントを必ず守ってください。

・バックアップツール接続中は電装品を動かさない
(ドアミラー、パワーウィンドウ、ライト、ナビ など)

・バッテリー交換が終わったら速やかにバックアップツールを外す

これだけで、多くの電装トラブルは防げます。

ヒューズ切れは小さな不具合に見えますが、その裏には電気の流れの変化という原因があります。DIY整備を楽しむためにも、「なぜそうなるのか」を少し意識することがトラブル防止につながります。

ちょっとした知識と注意で、愛車はもっと安全に、長く乗ることができます。今回の事例が、みなさまの安全なバッテリー交換の参考になれば幸いです。


筆者:松尾佑人(二級ガソリン・ジーゼル自動車整備士資格保有)
新卒で自動車整備業界に入り、約8年にわたり技術分野に従事。メーカーを問わず、主に現役メカニック向けの自動車整備・故障診断アドバイザーとして活動し、新機構研修、故障診断勉強会、検査員教習、自動車整備士資格講習の講師を歴任。年間約1,200件の技術相談に対応し、電気回路の理解や配線図の読解を基盤に、電子制御システムの解説を得意とする。
現在は自動車専門ライターとして、トラブル診断、車両構造・電子制御の解説、DIYによる整備・カスタムなど幅広い分野で執筆。専門性の高い内容を一般ユーザーにも分かりやすく伝える実践的な解説に定評がある。自身でも日常的にマイカーの整備・改造を行っており、ユーザー目線に立ったリアルな情報発信を行っている。


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