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古い塀を壊したいのに「こんなはずじゃ…」40代夫妻に「待った」がかかった“意外な落とし穴”【一級建築士は見た】

  • 2026.2.22
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

「古いブロック塀を撤去して、おしゃれなフェンスに変えようと思うんです。その方が防犯にもいいし、地震のときも安心ですから」

そう語るのは、実家を引き継いだTさん(40代)夫妻でした。

築年数の経った家を少しずつ整えていくのは、とても素敵な楽しみの一つではないでしょうか。Tさんはさっそく業者さんに依頼して、年季の入った塀をきれいに取り壊しました。

ところが、いざ新しいフェンスを立てようとしたとき、思いがけない「待った」がかかりました。近隣からの通報を受けて現場を訪れた市役所の職員から、思いもよらない一言を告げられたのです。

「この道は2項道路なので、塀を立て直すならもっと後ろに下げなければいけません」

塀は「建物の仲間」という意外な事実

Tさんは驚きました。「塀を後ろに下げるのは、いつか家本体を建て替えるときだけでいいはずでは?」と。

実は、建築基準法という法律には、少しだけ分かりにくいルールがあるのです。

・塀も「建築物」の一部
実は法律上、門や塀も「建築物に附属する工作物」として、家と同じような扱いを受けます。

・「やり替え」は「新築」と同じ
古いものを一度全部壊して新しく立て直す場合、今の法律に合わせて立てる必要があります。

道幅が4mに満たない「2項道路(安全な道幅を確保するために、道路の中心からバックして建築する必要がある道路のこと)」では、安全を確保するために、塀一枚であっても道路の中心から2m下がった場所に立てなければならないルールがあるのです。

「1mの後退」がもたらした戸惑い

Tさんの家の前の道路は、幅が2mほどでした。法律通りに中心から2m下がるには、今の境界線から約1mも内側にフェンスを立てる必要がありました。

「1mも下げてしまったら、玄関のポーチにまでぶつかってしまう…」

安全のために良かれと思って塀を壊したのに、いざ新しくしようとすると、生活に支障が出るほど敷地が狭くなってしまう。かといって塀がないままではプライバシーも防犯も気になります。

「こんなはずじゃなかった」と、Tさんは途方に暮れてしまいました。

後悔しないための「壊す前」の一歩

こうしたケースで一番難しいのは、「一度壊してしまうと、元の位置には戻せない」という点です。

【知っておきたい自衛策】

・「既存不適格」という権利
既存不適格(きぞんふてきかく:建築当時は適法だったが、その後の法改正で現在の基準に合わなくなった建物のこと)であれば、そのまま使い続けている分には違反にはなりません。

・補修という選択肢
全部壊してやり替えるのではなく、塗装や部分的な補修、補強に留めれば、今の位置を維持できる場合が多いです。

・まずは相談を
2項道路に面している場合、ハンマーを振る前に、お近くの建築士や市役所の窓口で「どこまで下げなければいけないか」を確認するのが安心といえるでしょう。

境界線の向こう側にある「未来の道路」

Tさんは結局、物理的な理由からフェンスの設置を断念せざるを得ませんでした。

せっかくの「住まいをきれいにしたい」という想いが、こうした形で壁にぶつかってしまうのは、私たち建築士にとっても心苦しいことです。

教訓は、「2項道路の塀は、触る前に未来のラインを確認する」ということ。「母屋さえ建て替えなければ大丈夫」という認識には、注意が必要です。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者)
地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。


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