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父が遺した「家賃6万円の安定収入」が“負のループ”の始まり…3年で110万円の赤字を垂れ流す“善意の鎖”の正体

  • 2026.2.19
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出典:PhotoAC ※画像はイメージです

皆さま、こんにちは。現役の不動産会社社長として、日々さまざまな土地や建物のご相談に向き合っている岩井です。

相続と聞くと「財産を受け継ぐ」という前向きなイメージを持つ方が多いでしょう。しかし実際には、受け継いだ瞬間から“毎月お金が出ていく存在”に変わる不動産もあります。

「入居者がいて、毎月家賃が入る」「不労所得みたいでラッキー」

そう考えて、賃貸中の戸建てを相続した方がいました。ところが、理想と現実はまったく違っていたのです。

  • 家賃が満額入らない
  • 滞納が続いても、すぐに退去させられない
  • 固定資産税や修繕費の支払いは発生する

収入は不安定なのに、支出は止まらない。まさに出口の見えない状態です。

今日は、入居者付き戸建てを相続した30代のAさんが体験した、“善意で続けてきた契約”が招いたリアルな恐怖をご紹介します。

父の遺した「家賃6万円の安定収入」

3年前のことです。30代前半の会社員Aさんは、父親の死去をきっかけに地方の戸建てを相続しました。その家には、父の古くからの知人である60代の男性Bさんが住んでいました。

「昔からの付き合いで、信用できる人だ」

生前、父はそう話していたといいます。家賃は月6万円。Aさんは電卓をたたきながら、こう考えました。

「年間72万円か。固定資産税を払っても、そこそこ残るな」

会社員として働きながら、毎月6万円が入る。正直に言えば、少し得をした気分だったそうです。

ところが、念のため賃貸借契約書に目を通した瞬間、血の気が引きました。

  • 家賃保証会社(賃貸借契約で借主が家賃を滞納した際、貸主に立て替え払いを行う会社)に加入していない
  • 連帯保証人(入居者が家賃を滞納したり、物件を損壊して損害賠償義務が発生したりした際に、入居者と連帯してその責任を全て負う人)がいない
  • 契約を更新する条件等の取り決めがない
  • 家賃滞納時のペナルティの記載がない

契約解除について書かれていたのは、たった一文でした。

「2ヶ月以上の家賃滞納があった場合は契約を解除する」

契約の更新や家賃条件の変更も、書面ではなくほぼ口約束。いつ、どんな条件で話が決まったのかもはっきりしません。それでもAさんは、自分に言い聞かせていました。

「これまで問題なく払ってきたんだし、急に家賃の支払いが滞ることはないだろう」

その“なんとなくの安心”が、後にじわじわと首を締めることになります。

毎月2〜3万円だけ入る家賃

相続から半年後、異変が起きました。6万円のはずの家賃が、3万円しか入っていなかったのです。Aさんが電話すると、Bさんはこう言いました。

「今月ちょっと厳しくて…来月まとめて払うから」

翌月は5万円、その次は2万円。それ以降も、次のような状況が続きます。

  • 毎月一部だけ入金
  • 常に1ヶ月遅れ
  • 「来月払う」が続く

年間の未回収額は約30万円にのぼりました。それでも、まったく払われていないわけではありません。賃貸借契約書には「2ヶ月以上の滞納があった場合は解除する」とあります。

しかし実際には、少額でも入金が続いていたため「2ヶ月分が完全に未払い」という状態にはなりませんでした。そのため、契約違反としてすぐに契約を解除できるとは言い切れず、法的手続きを取るにも慎重な判断が必要な状況でした。

弁護士に相談すると、裁判になれば長引く可能性があるとのこと。着手金は30万円以上。回収できる保証もありません。家賃は満額入らないのに、法的手続きにも踏み切れない。

家賃の不安定な入金が続くなかで、Aさんのストレスは日に日に増していきました。

内容証明も出せない“善意の鎖”

家賃の未払いが続き、Aさんは「内容証明郵便を送るべきか」と悩みました。内容証明郵便とは「家賃を払ってください」「このままだと契約を解除します」といった正式な請求を、証拠として残すための通知書です。後になって「そんな請求は聞いていない」と言われないようにするための、いわば最後通告の第一歩です。

しかし、相手は父の古い知人です。

「生前お世話になった人だ」
「そこまでやるのか」
「関係がこじれたら面倒になる」

そんな思いが、Aさんの手を止めます。強く出たことで逆上され、居座られたらどうするのかという不安もありました。

結局、はっきりした行動を起こせないまま時間だけが過ぎていきます。その間に、未回収家賃は3年間で約110万円。そして今も、そのすべてを取り戻せたわけではありません。

家賃が入るはずの物件は、赤字を生み続ける存在になっていました。父との縁を大切にしようとした善意が、いつの間にかAさんを縛る鎖になっていたのです。

相続直後にやるべきだったこと

Aさんのケースで痛感したのは、相続した直後の動きがすべてを分けるということです。

「昔からの付き合いだから大丈夫」

その一言で確認を後回しにした結果、取り返しのつかない状態になりました。入居者付きの物件を引き継いだとき、まずやるべきことははっきりしています。

  • 賃貸借契約書の再契約を交渉する
  • 家賃保証会社の加入を依頼する
  • 連帯保証人の追加を相談する
  • 滞納が出たときの対応を決めておく

ここを曖昧にしたままにすると、「払ってくれないけど、すぐには解除できない」という最悪の状態に陥りやすくなります。

信頼関係だけで貸し続けるのは危険です。どんなに人が良くても、契約内容をきちんと決めておかなければ大切な資産は守れません。

相続直後に一歩踏み出した行動をとっていれば、この“地獄”は避けられたでしょう。



筆者:合同会社ゆう不動産 代表 岩井佑樹

不動産売買の専門家として仲介・査定・買取に携わりながら、不動産Webライターとして1,000記事以上を執筆。「売る力×伝える力」を軸に、情報発信と販売の両面から不動産の価値を高めている。派手さよりも誠実さを大切にし、地域に寄り添う姿勢で「早く・高く・安心」の取引を支える不動産の専門家。


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