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夜勤の病室で、患者と“一切会話しなかった”看護師→意外な理由に「常識が覆った感覚でした」

  • 2026.2.11
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出典:photoAC ※画像はイメージです。

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

精神科病棟で働いていると、「声をかけること」が看護の基本だと、何度も教えられます。話を聞くこと、気持ちを言葉にしてもらうこと。それが回復につながる。そう信じて、私たちは日々患者さんに向き合っています。

けれどある時、その正しさそのものが、患者さんを苦しめていたのではないかと、立ち止まらざるを得ない出来事がありました。

「話すことが回復につながる」と信じていた

Aさんは、抑うつ状態が強く入院されていた患者さんです。

受け答えはできるものの、自分から話題を出すことはほとんどなく、表情も乏しい。病棟では静かに過ごし、問題行動もありませんでした。

私はAさんに対して、「少しでも言葉を引き出せたら」という思いで、毎日声をかけていました。

「今日はどうでしたか?」「何か考えていることはありますか?」「眠れていますか?」

どれも、看護師としては当たり前の問いかけです。沈黙が続くより、言葉にしてもらった方がいい。話すことで、気持ちは軽くなるはずだ。そんな思い込みが、私の中には確かにありました。

声をかけるたびに、固くなる身体

しかし、Aさんの反応は少しずつ変わっていきました。質問をするたび、肩がわずかにすくむ。視線は床に落ち、声はさらに小さくなる。

「特にないです」「大丈夫です」

その言葉の奥に、何か詰まっている感じがしても、私は「聞くこと」をやめませんでした。聞くことが支援だと思っていたからです。

夜勤帯、Aさんから出た一言「何も言わなくていいですか」

ある夜勤帯、私はAさんの病室を訪れました。

いつものように声をかけようとした、その前に、Aさんが先に口を開きました。

「今日は…何も言わなくていいですか」

責めるような口調ではありませんでした。むしろ、恐る恐る確認するような声。

その一言が、胸に重く落ちてきました。自分の中での常識が覆った感覚でした。

「一緒に静かにいられる時間が、一番楽でした」何も言わず、同じ空間にいるという選択

私は、その日は質問をしませんでした。ベッドの横の椅子に座り、何も言わず、同じ空間にいることを選びました。

病室には、時計の秒針の音と、Aさんの呼吸音だけがありました。最初は浅く、速かった呼吸が、少しずつゆっくりになっていくのがわかりました。言葉は一つも交わしていません。それでも、その沈黙の中で、Aさんの緊張がほどけていくのを、確かに感じました。

退室しようとした時、Aさんが小さな声で言いました。

「…一緒に静かにいられる時間が、一番楽でした」

その言葉を聞いた瞬間、私はこれまで自分がしてきた支援を、振り返らずにはいられませんでした。

沈黙もまた、関わりだったのかもしれない

もちろん、対話を通じてご自身の気持ちを整理し、回復に向かう方が大勢いることも事実です。だからこそ、「話させること、言葉にしてもらうこと」が、いつも正しいとは限らない、という気づきは私にとって大きなものでした。

沈黙を共有すること。何も求めず、ただ同じ時間を過ごすこと。それもまた、確かに「関わり」だったのだと思います。

ライター:こてゆき

精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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