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駅員「雨のため滑りやすくなっております。お足もとにご注意ください」→“雨の日の受験日”に言い換えたアナウンスに心が温まる…

  • 2026.2.10
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。元鉄道駅員の川里です。

今回は、私が駅員時代に経験した「受験シーズンのエピソード」をご紹介します。ぜひ、これから受験を控えている方に読んでいただきたいです。

受験という特別

両親からひどく叱られたり、小学校に初めて遅刻したり、大人になった今となっては、かつての自分を振り返って「たったあれだけのことで、どうして自分は人生の終わりのように思ってしまったのだろう」

と感じることはたくさんあります。

私にとっては入学試験もそのひとつで
「あの試験に合格でも不合格でも、自分の人生のすべてが変わったわけではないのでは?」
と考えることがあります。最も大切なのは「合格した」という結果よりも「最善を尽くして努力した」という経験なのかもしれません。

とはいえ、きっと私の感想文は当事者の受験生には響かないでしょう。受験生の皆さんは自分自身の将来、少なくとも今後数年の学校生活をかけているのですから。受験当日は目覚めたその瞬間から「さあ、いよいよ今日ですべてが決まるぞ」といった緊張感を持っている人もいるかもしれません。

駅という日常

受験当日、駅員が特別になにかをするという決まりはありません。むしろ私は特別なことをすると受験を意識して緊張させてしまうかもしれないので、そっとしておいたほうがいいだろうと感じていました。

それに、受験当日だからといって受験生だけが駅を利用するわけではありません。仕事に行く、誰かに会いに行く、行きたい場所がある、ただなんとなく。さまざまな理由で列車に乗る人が駅には集まります。

「駅員の自分にとっては、みんなお客さまのはずだ。列車に乗る目的によって優先順位をつけていいのか?」

という思いも、個人的にありました。

いつも通りであってほしいのに

ある年のことです。私の勤める駅を最寄りとする高校で入学試験が行われる当日、朝から雨が降りました。列車が運転を見合わせるほどの豪雨ではありませんが、それでも乗降時に晴れの日より時間を要し、数分の遅れが発生してしまいます。

受験生にとっては、傘という持ち物が増えるのも避けたかったでしょう。片手がふさがってしまいますし、どこかに置き忘れていかないように傘にも注意を向けなければいけません。

加えて私が懸念していたのは、雨によって濡れたホームや駅構内で転倒することです。怪我のリスクがありますし、とりわけ受験生の場合、もし救急搬送のため試験を受けられないという事態になれば、かける言葉も見つかりません。

ほんの少しだけ変えた「いつも通り」

受験生たちと、そのほかのお客さまを乗せた列車が到着しました。私は構内放送用のマイクを手に取ります。下車駅誤りの防止、忘れ物防止、そして雨天時の転倒防止のために行う放送は、受験シーズンでなくても行います。つまり、いつも通りのことです。

私のこのときの放送内容はこうでした。
「ご乗車ありがとうございました、〇〇駅です。傘などのお忘れ物がございませんよう、ご注意ください。本日は雨のため滑りやすくなっております。お足もとにご注意ください」

というのが、いつも通りのアナウンスです。受験と関係ないお客さまもいるのだから、いつも通りのアナウンスをするべきかとも迷いましたが、私はこの日に限り、表現を微妙に変えました。

「雨のため、ホームや通路の床が濡れております。お足もとにご注意ください」

あの日、私が変えたのはほんの少しの言葉だけでした。しかし、いつも通りの「規則」の中に、ほんの少しの「気遣い」を加えることで、誰かの心を少しだけ軽くできるかもしれない。

この経験を通じて、私は「決められたルートや正攻法だけが、必ずしも唯一の正解ではない」ということを改めて実感しました。

これは、今まさに人生の大きな岐路に立っている受験生の皆さんにも、通じることかもしれません。

鉄道会社に就職するために必要な学歴は?

話は変わりますが、皆さんは鉄道会社に勤める人間についてどのような認識を持っていますか?
「鉄道会社って、給料低いんでしょ?」

「鉄道会社って、給料高いんでしょ?」

私はそれぞれ別の知り合いからどちらも言われたことがあるので、社会ではどちらのイメージが多数派かわかりません。

給与が高いかどうかは結局のところ個人の感覚によりますが、私の場合は贅沢はできずとも不自由なく生活できる程度の額をいただいていました。その私の最終学歴は専門学校卒です。経営幹部になりたいのなら話は変わりますが、駅員や乗務員なら、おそらく大抵の会社で高卒以上から応募できると思います。

大学に通わなくとも、社会で活躍する人は大勢います。

これから受験を控えている皆さんがいま思い描いている未来は、あくまで選択肢のひとつに過ぎません。それだけが正解とは限らないということを心の中にとどめておいて、特別な試験だと意識しすぎず、気負いすぎずにがんばってください。


ライター:川里隼生

鉄道会社の駅係員として8年間、4つの駅を経験しました。コロナ禍やデジタル化を通して移り変わってきた、会社としての鉄道サービスの未来像と、お客様それぞれが求めている鉄道サービスのあり方の両方から学んだことを記事にしていきます。


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