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ミシュランも注目! 東西の文化が交錯する美食の都でトルコ伝統の味を体験 イスタンブール編

  • 2025.12.29
写真提供=山路美佐

世界三大料理のひとつに挙げられるトルコ料理。 アジア、ヨーロッパ、中東が交差する場所で育まれたトルコ料理は、じつに多様な文化の影響を受け、独自に発展してきました。

新鮮なオリーブオイルと野菜を多用するエーゲ海沿岸の料理、黒海地方の魚料理、そしてアラブとの国境近くから内陸にかけての肉料理や乳製品……。 地中海、エーゲ海、黒海という異なる海に囲まれ、広大なアナトリア半島という陸地を擁するトルコは、地域ごとにさまざまな食文化を育んできたのです。

イスタンブールのシンボル、「ブルー・モスク」。 写真提供=山路美佐

特にイスタンブールは、かつてビザンツ帝国、そしてオスマン帝国の首都であり、シルクロードの要衝だったため、さまざまな文化が混じり合った場所でもありました。

オスマン帝国時代(13世紀末〜20世紀初頭)には、広大な領土から集まる食材と調理技法が宮廷料理として洗練され、今日のトルコ料理の基盤が形成されました。スルタンの宮殿には専門の料理人が何百人もいたといいます。そんな歴史を経て、イスタンブールはトルコきっての美食の都になっていきます。

トプカプ宮殿の厨房だった場所は博物館となっており、オスマン帝国時代に使われていた食器や調理道具が展示されている。染付の器に金の装飾をした皿は、シルクロードをまざまざと感じさせる。 写真提供=山路美佐

そんなイスタンブールをはじめとするトルコでは近年、伝統的なトルコ料理を現代的に再解釈するガストロノミーのムーブメントが加速しています。 シェフたちは、トルコに根付く地方の伝統料理や家庭料理をあらためて研究し、忘れられていた技法や食材を現代の感性でよみがえらせています。

今回はイスタンブールで出合った、トルコの食文化の"いま"と"歴史"を感じるレストランを紹介。 ガストロノミーから地元民に愛されるローカルフード、絶品ターキッシュディライトのお店まで、ぜひ訪れてみてください。

洗練された空間でアナトリアの歴史を感じる Seraf Vadi(シェラフ・ヴァディ)

「シェラフ・ヴァディ」の広い店内 。 写真提供=山路美佐

"アナトリア文化の再解釈"というムーブメントを牽引しているのが、中心部からタクシーを20分ほど走らせて到着する「Seraf Vadi(シェラフ・ヴァディ)」です。 この店で腕を振るうのは、シェフの Sinem Özler(シネム・オズレル)さん。トルコ・アナトリア7地域の郷土料理を研究し、現代の感性で再解釈した料理で、人気店となりました。

シェフのシネム・オズレルさん。 写真提供=山路美佐

オズレルさんが作る料理の原点は、母親や祖母が作ってきた家庭料理にあり、その温かさや記憶を、エレガントなレストランで伝えたいとのこと。 テーブルに並ぶ料理は、ターメリックを利かせた「シミット」、なすやパプリカに詰め物をした「ドルマ」、ラム肉の「ケバブ」などアナトリア各地の料理が、あるものは現代的な仕立てに、別の皿ではストリートフード的にと緩急つけて登場します。

なすに詰め物をして焼いた「なすのドルマ」。 写真提供=山路美佐

食材はすべて地域に根差した生産者を自ら訪ね、信頼できる人々から直接調達しているそう。ひと通りコースを食べ終えたときには、太古から現代まで、脈々とつながるアナトリアの豊かな食文化を感じられました。

ボスポラス海峡を望む絶景レストラン Ali Ocakbaşı Kuruçeşme(アリ・オジャクバシュ・クルチェシュメ)

ボスポラス海峡に浮かんでいるかのような、アリ・オジャクバシュ・クルチェシュメの窓側の席。 写真提供=山路美佐

トルコらしいケバブを滞在中に存分に食べたい──。そんな願望を絶景とともに叶えてくれるのが、オルタキョイにある「アリ・オジャクバシュ・クルチェシュメ」です。

オルタキョイは、トルコの絵葉書でも有名なオルタキョイ大橋とオルタキョイモスクがある場所。週末はトルコ人のデートスポットというフォトジェニックな小さな街です。

オルタキョイモスクは人気のフォトスポット。 写真提供=山路美佐

「アリ・オジャクバシュ・クルチェシュメ」はオルタキョイのはずれの海沿いにある開放的なレストラン。トルコのほかに海外でも展開しているといういわばチェーン店ですが、じつはミシュランのビブグルマンにも輝く実力店。Ocakbaşı(オジャクバシュ)とは「炉端」という意味で、店内にケバブを焼くことができる炭火焼きの設備がある店のこと。ここでは、トルコに行ったら一度は食べたいケバブを、ボスポラス海峡と橋という絶景を間近に眺めながらいただけるのです。ちなみにケバブといえば、肉を想像する方も多いと思いますが、トルコやトルコ系民族が多い中央アジアでおもに食べられている肉・野菜・魚などをローストする料理の総称です。

トルコ料理にはメゼといわれる小皿で多種並ぶ前菜が欠かせない。 写真提供=山路美佐

まずは、ひよこ豆のペースト「フムス」、水切りヨーグルトとにんにくの「ハイダリ」、トマトとナッツのサラダ、焼きなすなどの王道メゼを注文し、ピタパンとともにパクリ。いずれもシンプルにおいしく、ラク(アニスを使ったトルコの蒸留酒)が進みます。

オジャクバシュのクライマックスは、やはり豪快に炭火で焼いた肉。 写真提供=山路美佐

しばらくすると、ウスタ(親方)が豪快に炭火で焼いたアダナケバブ(ラム肉の挽き肉を棒に巻きつけて焼いたもの)や鶏肉がテーブルに運ばれてきました。芳ばしい香りとエキゾチックなスパイスの香りが食欲を掻き立てます。いくらでも食べられてしまうのが恐ろしい。

店内は半オープンになっており、海風が気持ちいい。 写真提供=山路美佐

ボスポラス海峡の潮風に吹かれながらケバブを頬張るひとときは、旧市街からタクシーで少し離れた場所まで訪れる価値あり。食事をしたあとは、腹ごなしに20分ほど歩いて近くのオルタキョイ広場まで散歩をし、モスクで写真を撮ったり、トルコアイス屋のパフォーマンスを楽しんだりするのもおすすめです。

地元の人に混じって楽しむ 新市街のフードホッピング

さて、今回イスタンブールでかなり楽しかったのが新市街のフードホッピングです。

アヤソフィヤやグランバザールなどがある旧市街とは雰囲気ががらりと変わる新市街は、ギャラリーやおしゃれなカフェなどヨーロッパを彷彿とさせる街並みです。

可愛いカフェなどが建ち並ぶ、ヨーロッパのようなジハンギルエリア。 写真提供=山路美佐

そんな新市街でおいしいものを見つけるために訪れたのは、ツアーで一緒だったトルコ人ジャーナリスト、エルバンのおすすめのデリ「Antre Gourmet(アントレ・グルメ)」。

急な坂道に建つ「アントレ・グルメ」。 写真提供=山路美佐

急な坂の街、ジハンギル・エリアに建つこの食材店は地元マダムたちのご愛用。 オーナーはトルコ屈指のチーズ研究家とあって、店内には地方(アナトリア各地)の手作りチーズが豊富に揃っています。そのほか、オリーブ、オリーブオイル、シャルキュトリー(加工肉)、ジャム、はちみつ、ペクメズ(ぶどうの濃縮シロップ)、トルココーヒーなど確かな審美眼で選ばれた食材がずらり。どれもおいしそうで目移りしてしまいます。

店内には、トルコ各地から集めた食材がびっしり。 写真提供=山路美佐

チーズは前日にグランバザールで購入したのですが、こちらで買えばよかったと後悔。悩みに悩んで唐辛子のジャムやコーヒーを購入したのですが、これがなかなかの味。トルコでグルメな方へのお土産を探すなら、ぜひ訪れて欲しい一軒です。

地元っ子が飲んだあとに欠かさない臓物スープ

「アントレ・グルメ」を出て坂道を20分ほど歩いて向かったのは、トルコのローカルフード「イシュケンベ・チョルバス(臓物のスープ)」の店。

雰囲気のある道は散歩するのも楽しい。 写真提供=山路美佐

トルコで臓物スープ、と聞いてピンとくる人はトルコ通。私は、臓物スープがトルコ人にとって欠かせない食べ物だということを知りませんでした。けれど、今回案内してくれたトルコ人ジャーナリストのエレナさんが"絶対食べて"と熱く語るので俄然興味が湧き、訪れてみることにしたのです。

イシュケンベはペルシャ語がルーツ。そんな語源からもわかるように、このスープはペルシャ文化圏や中央アジアの遊牧民の食文化から生まれたとのこと。歴史は古く、オスマン帝国時代にはすでに食べられていたといいます。トルコでは、"飲んだ後の一杯"として愛されており、いわば日本でいう“締めのラーメン”のようなもの。

店名の「29 Ekim」とは10月29日のこと。この日はアタテュルクがトルコ共和国の建国を宣言した「共和国記念日」。 写真提供=山路美佐

教えてもらった「29 Ekim(イルミ・ドクズ・エキム)」は新市街の魚市場の一角にひっそりと佇んでいました。このあたりは、居酒屋が多い地域で夜は賑わいますが、昼間はのんびりとした雰囲気です。

早速、看板メニューの「İşkembe Çorbası(イシュケンベ・チョルバス)」と「Kelle Paça(ケッレ・パチャ)」を注文。運ばれてきた「イシュケンベ・チョルバス」はシチューのような白濁したスープに細かくした仔牛の胃袋が入っています。

「イシュケンベ・チョルバス」 写真提供=山路美佐

内臓を使っているのでクセがあるかな……と覚悟はしていましたが、意外や意外、くさみはなく、あっさりした味わい。ここにたっぷりのにんにくと辛いオイルをプラスして味変しながら食べていきます。「ケッレ・パチャ」は、仔牛の頭と内臓のスープ。舌や頬肉、脳みそなども入っているそう。こちらはやや匂いがあるのだけれど、食べ進めるうちになぜかクセになる不思議な味です。

厨房に行くと、料理人のおじさんがボイルしている臓物を見せてくれた 写真提供=山路美佐

次は近くの居酒屋で飲んで、締めのあとに一杯、というトルコ人流の食べ方をしてみたい。地元っ子に交じって食べたら、きっともっとおいしく感じるのだろうな、そんなことを思わせるスープでした。

100年を誇る、家族経営のお菓子屋さん

最後に、偶然発見した素敵なターキッシュディライト屋さんを紹介しましょう。

「イルミ・ドクズ・エキム」の数軒隣にあって偶然発見した「Üç Yıldız Şekerleme(ウチ・ユルドゥズ・シェケルレメ)」は1926年からこの場所で営み続けているお菓子屋さん。

ショーウインドーがノスタルジックな雰囲気の「ウチ・ユルドゥズ・シェケルレメ」 写真提供=山路美佐

何げなくお店に入ったのですが、勧められるがままにドライのばらの花びらをまぶしたターキッシュディライトを試食して、そのおいしさにびっくり。ターキッシュディライトとは、トルコ語で"Lokum(ロクム)"といい、トルコで6世紀にもわたって作られてきた世界で最古のお菓子の一つですが、お店によって味はさまざまです。

こちらのばらのターキッシュディライトは、自然のばらの香りがふわりと漂い、ほんのり甘いもっちりとした生地とよく合います。そのほか試食させてもらったアーモンドペーストのお菓子なども美味。優しい甘さが口の中で心地よく広がっていきます。

手前のまげわっぱのような器に盛り込まれているのが、ターキッシュディライト。右側がばらの花びらをまぶしたもの。 写真提供=山路美佐

「うちのは、すべて手作りよ」と胸を張るのは3代目の奥様。いまは2代目の父親と3代目の息子とファミリーで経営していると話してくれました。

お店に“帳場”があるのも、昔ながらのお店らしい。 写真提供=山路美佐

中央のお帳場でのお会計は2代目の担当。家族の温かい雰囲気もまたこの店の味。2026年で創業100周年を迎えるここは、ベイオール地区で長く愛されてきた老舗です。近隣の住民が世代を超えて通う地域に根差したお店では、気取らないローカルの味を知ることができます。

深い歴史と混じり合う文化が生む豊かな食

ヨーロッパとアジア、二つの大陸にまたがり、三つの海に抱かれ、シルクロードの終着点として世界の文化が交錯してきたトルコ。今回は、イズミルとイスタンブールの2都市を訪れましたが古代メソポタミア文明時代から長い時間をかけて混じり合ってきた壮大な歴史と風土に圧倒されました。

長い時間かけて混じり合い、積み重ねてきた食文化は、ローカルな料理から洗練されたガストロノミーまで、一皿一皿に滲み出ています。それはどこかエキゾチックでミステリアス。知れば知るほど、もっと知りたくなる——一度では味わい尽くせない美味がこの国にはありました。また近いうちに、今回の旅の続きを味わいに訪れたいと思います。

取材・文・写真=山路美佐 編集=内田理惠(婦人画報編集部) 取材協力=ターキッシュ エアラインズ

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