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『国宝』がアカデミー賞ショートリスト入り!米国アカデミー賞の仕組みを完全ガイド

  • 2025.12.21
ⓒ吉田修一/朝日新聞出版 ⓒ2025映画「国宝」製作委員会

2025年12月17日、地上波のニュースなどで「『国宝』がオスカー2部門の候補作に!」といった速報が流れた。見出しを見て、あれっと思った方も多いはず。例年オスカー候補のノミネーションが発表されるのは年が明けてから。12月17日早朝(日本時間)に発表されたショートリストは、ここからノミネーションリストにさらに絞られる候補作が並ぶもの。まだオスカー候補作に残ったわけではなく、ここからが勝負どころといえるだろう。

とはいえ、邦画実写映画の歴代興行収入を塗り替えた『国宝』の快進撃を、ハリウッドでも期待したいもの。今回は、アカデミー賞を知り尽くしている映画ライターのよしひろまさみちさんに、米国アカデミー賞の投票の仕組みと今後の見通しを、根掘り葉掘り聞いてみた。

Frazer Harrison / Getty Images

そもそも、米国アカデミー賞の「ショートリスト」って何?

アカデミー賞は、主要6部門(作品、監督、主演男優・女優、助演男優・女優)を含む全23部門から成る。主要賞以外では、脚本、撮影、編集、音響、視覚効果、音楽、歌曲、アニメーション、ドキュメンタリー、国際映画などの分野で、映画芸術科学アカデミー(AMPAS)が優れた功績を表彰する、ハリウッドにとどまらず世界最高峰の映画賞と言われる。

17日にショートリストが発表されたのは、撮影、音楽、ドキュメンタリー、国際映画など12部門。『国宝』はこのうち国際長編映画賞とメイクアップ&ヘアスタイリング賞のショートリストに入った。

12部門それぞれにおいて、5作品の最終候補を選出するために、主な候補作を洗い出して、選ばれた作品のリストのことです。なんでやるかというと、全作品を対象にすると膨大な数になるから。特に国際長編映画賞は他部門と違い、「米国内で公開」という制約がなく、米国外で制作され、今年公開された全作品が対象になります。今回の国際長編に推薦提出したのは92カ国、うちアカデミーが選考対象の条件を満たしているとみなしたのは86カ国。ある程度を絞り込むためにリストを作っている、というのが本筋です」(映画ライター・よしひろまさみちさん)

Kevin Winter / Getty Images

ノミネーションが決まるまでどのくらい時間がかかる?

では、なんのために本選前にショートリストを発表しているのだろうか。

「要は“ロングだったリストをショートにする”っていうのがショートリストの役割。ショートリストを選んでいるのは、その部門に長けた人たちで構成された特別な委員会。国際長編の部門は国際長編映画委員会(International Feature Film Committee)、国際長編映画賞実行委員会(International Feature Film Award Executive Committee)の会員が選んでます。ショートリストからさらに5本に絞る段階も、部門ごとに、各部門のスペシャリストが選びます。

今回のノミネーション投票期間は1月12日〜16日、ノミネーション発表は1月22日。ショートリストからノミネーション発表までは1カ月弱ですね。この投票までの間に、ショートリストの作品を見直す、ということになります」(よしひろまさみちさん)

Handout / Getty Images

ショートリストからノミネーション候補に残る確率は?

では、ショートリストのなかからノミネーションリストに残るのは、どれくらい難しいことなのだろうか。

「単純計算で33%ですが、国際的な映画祭で受賞歴がある作品のほうが選考に残りやすかったりします。国際映画部門に各国から提出されている推薦作品は、どれも映画祭に出品されたり賞を受けたりした選りすぐりで、そもそも出品国の“イチオシ”ですから。ショートリストに入っただけでも御の字かと」(よしひろまさみちさん)





Jeff Kravitz / Getty Images

ノミネーションからオスカー受賞作をどうやって選ぶ?

めでたくノミネーション5本のなかに残った後の流れはどうなるのだろうか。

オスカー受賞を決めるノミネーションが発表されてからは、アカデミー会員全員が参加する投票になります。“オスカー候補発表!”のニュースはこの時点が正解です。

各部門ごとに5作品(作品賞は最大10作品)に絞られてからは、全会員が全部門に投票します。ちなみに今回(2026年に開催する第98回)からすごく厳しいルールが始まりました。全会員が対象の全作品を鑑賞しないと投票しちゃダメっていうことに。当たり前なんだけど、意外とやってない人が多かったのね」(よしひろまさみちさん)

『国宝』 全国東宝系にて公開中 配給:東宝 ©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

『国宝』の競合作品は?

では、『国宝』と国際長編映画部門のノミネーションリスト入りをまず競り合う作品は、現状どのようなラインナップになっているのか見ていこう。

下馬評では、フランス、ノルウェーが最有力。カンヌでパルムドールを獲得したジャファール・パナヒ監督『It Was Just an Accident(英題)』と、カンヌでグランプリのヨアキム・トリアー監督『センチメンタル・バリュー』、ブラジルのクレベール・メンドンサ・フィリオ監督『The Secret Agent(英題)』を含め、この3作品は主要賞にも入りそうな勢いです(編集部注:国際長編映画賞候補が作品賞候補に同時に入る事例もある)。

次点はスペイン(カンヌ審査員賞の『Sirāt(原題)』)、韓国(トロント観客賞の『しあわせな選択』)か? ちなみに、15作品中、5作品が同じ配給会社NEONという点がニュースになってますね」(よしひろまさみちさん)

ズバリ『国宝』の現地評は?

最後に、『国宝』はハリウッドで現状どのような評価を受けているのか? 触れておきたい。

映像の美しさや歌舞伎のパフォーマンスは高評価ですが、ストーリーに根付いている“世襲優先”、“男尊女卑”は、アジア以外のグローバルではなかなか理解が難しい。日本では社会現象ですが、アメリカでは“アートハウス系の大河映画”という捉え方になっているかと」(よしひろまさみちさん)

果たしてノミネーションリストに残り、オスカー獲得となるのか。アカデミー賞の国際長編映画部門では近年、滝田洋二郎監督『おくりびと』(2008)、濱口竜介監督『ドライブ・マイ・カー』(2021)が受賞している。非常に狭き門ではあるが、まずは『国宝』がノミネーションに残るかどうか、1月22日のノミネーション発表を心待ちにしたい。

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