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18年前に放送された“朝ドラのような”NHK大河ドラマ 若手女優が“歴代最年少”で主演に抜擢された記録作

  • 2026.1.24

2008年に放送されたNHK大河ドラマ『篤姫』は、江戸幕府13代将軍・徳川家定(堺雅人)の御台所(正妻)として徳川の名誉と江戸の町を守った篤姫(宮﨑あおい)の物語だ。

※以下本文には放送内容が含まれます。 

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宮﨑あおい (C)SANKEI

時は幕末。薩摩藩の島津家の分家となる今和泉家の当主・島津忠剛(長塚京三)の娘として生まれた於一(宮﨑あおい)は男勝りで好奇心旺盛な性格。下級藩士とも気さくに話す明るい人柄だったため、人々から慕われていた。
やがて彼女は薩摩藩主・島津斉彬(高橋英樹)の養女となり、篤姫と呼ばれるようになる。
そして、徳川家定の御台所として、大奥に入ることになる。

幕末を大河ドラマに定着させた『篤姫』

『篤姫』は2つの意味において、後の大河ドラマに大きな影響を与えた。
1つは、幕末という舞台を定着させたこと。
近年の大河ドラマは、平安末期から鎌倉初頭を舞台にした『鎌倉殿の13人』、平安時代を舞台にした『光る君へ』、江戸時代中期を舞台にした『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』など、舞台となる時代のバリエーションがとても多い。
だが、一番人気の時代というと『どうする家康』や、現在放送中の『豊臣兄弟!』のような戦国時代を舞台にした物語だ。そして次に人気の時代が『龍馬伝』や『西郷どん』といった幕末を舞台にした作品である。

戦国時代と幕末がほぼ交互に続き、稀に珍しい時代が舞台の作品が放送されるというのが、00年代以降の大河ドラマの流れだが、実は幕末も戦国時代に比べるとマイナージャンルで、00年代までは馴染みの薄い時代だった。
しかし2004年の三谷幸喜脚本の大河ドラマ『新選組!』が注目され、その4年後に放送された『篤姫』が人気作となったことで、幕末という時代に視聴者も馴染みやすくなり、2010年の『龍馬伝』で幕末は大河ドラマに完全に定着した。

大河ドラマで“特定の時代”が人気の舞台として定着するためには、その時代の英雄や歴史的事件の知識を視聴者が共有するという大前提が必要だ。

戦国時代の場合は、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康といった英雄のキャラクターや、桶狭間の戦いや本能寺の変といった歴史的な事件についての知識を視聴者が共有しており、だからこそ、主人公が異なる戦国時代が舞台の大河ドラマを制作しても、英雄や事件の描き方のバリエーションの違いを見比べて視聴者が楽しむため「今回の本能寺の変はこう描くのか」と、同じ世界観の物語として楽しんでもらえる。
『新選組!』の頃は、幕末が舞台の映画やドラマがだいぶ減っていた。 だから、坂本龍馬や新選組のことは名前を知っていても、どういう人で何を成し遂げたかを知っているのは、時代小説を熱心に読んでいる読者ぐらいで、ましてや幕末という時代に対する理解となると、一般視聴者には敷居が高かった。
しかしその後、『篤姫』、『龍馬伝』という幕末が舞台の大河がヒットし、「黒船の来航」、「大政奉還」といった幕末の知識を視聴者が学習したことで、その後は幕末モノの大河ドラマを作りやすくなった。
中でも『篤姫』の功績はとても大きく、本作があの時代に起きたことを、わかりやすい物語として描いたことによって幕末は、視聴者が共有できる世界観に変わったのだ。

宮﨑あおいが演じた神々しいヒロイン・篤姫

そして、もう一つの達成が、篤姫というヒロインの造形である。

天真爛漫なじゃじゃ馬娘だった篤姫は、最終的に江戸の町民を守るために江戸城を無血開城する立役者となっていく。
彼女が変わっていく姿は成長物語として実に痛快で、女性の偉人を主人公にしたNHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)を観ているようでもあった。
女性主人公の大河ドラマはこれまでにも多数存在したが、『篤姫』が決定的だったのは、朝ドラの手法で主人公の篤姫の立身出世を描ききったことにある。
その意味で『篤姫』は、朝ドラの手法を持ち込んだ大河ドラマだったとも言えるが、それは『純情きらり』で朝ドラヒロインを演じた宮﨑あおいが篤姫を演じていたことも大きいだろう。

宮﨑あおいは2000年代初頭に『EUREKA ユリイカ』や『害虫』といった映画のヒロインとして注目され、影のある少女を演じさせると当時は右に出るものはいなかった。
一方、テレビドラマの出演は、2004年のNHKドラマ『ちょっと待って、神様』で演じた、中年女性の魂が乗り移った明るい女子高生の役が高く評価され、2006年度前期の朝ドラ『純情きらり』ではヒロイン役を獲得。そして2008年の『篤姫』で大河ドラマの主人公を演じることとなった。

なお、『篤姫』放送当時、宮﨑あおいの年齢は22歳。これは大河ドラマの主演としては歴代最年少だったが、彼女が20代前半の若手女優だったことも『篤姫』の朝ドラ感を際立たせていた。

闇を抱えた暗い少女のイメージが強かった宮﨑だが、NHKドラマの出演をきっかけに明るく天真爛漫な少女を演じる機会が増えていった。
特に『篤姫』の序盤は、明るく男勝りで行動力があるがゆえに周囲から心配されるヒロインで、そのまま朝ドラに登場してもおかしくないキャラクターだった。
幕末という血なまぐさい時代を描きながらも、『篤姫』はコミカルで明るいシーンが多かった。教育係の幾島(松坂慶子)と篤姫がケンカしながら次第に仲良くなっていく姿や、篤姫に片思いする小松帯刀(瑛太/現・永山瑛太)とのすれ違いといった序盤の描き方は、まるでラブコメテイストの少女漫画の1シーンのようだった。

そのため放送当時は「大河ドラマでこれは有りなのか?」と凄く戸惑ったが、この序盤があったからこそ、幕末という馴染みのない時代に親しみを感じて視聴者が入りやすくなった。
何より暗い役の多かった宮﨑あおいの明るく楽しい姿が観られることが嬉しかった。

話が進む中で、篤姫は様々なことを経験し、やがて聖母のような存在に変わっていくのだが、まだ宮﨑に少女の面影が残っていたため、少女性と母性が同居した神々しい存在に見えた。
あの凄みのある芝居は、当時の彼女だからこそ達成できた奇跡だった。

幕末を舞台にした大河ドラマとして見どころの多い『篤姫』だが、何より、22歳の若さで女優としての極みに達した宮﨑あおいの記録として見応えのある作品である。


ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。