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13年前に放送された有名脚本家の“代表作” 「歴代でダントツ」難役で豪華キャストの“受賞”も実現した【傑作ドラマ】

  • 2026.3.10

“夫婦の危機”は、ドラマや映画、小説など、あらゆるフィクションで何度も描かれてきた。ありふれた題材であるだけに新鮮に描くのは難しく、作り手の力量が問われる。

2013年1月期に、フジテレビ木曜劇場(毎週木曜よる10時)で放送された『最高の離婚』は、坂元裕二の代表作の1本であり、彼の書き手としての実力が存分に発揮された傑作と言える。軽妙でありながら地に足の着いた人間模様が描かれており、人生の本質を鋭く突くようなセリフには思わず身につまされる。SNSでも、「ドラマ歴代でダントツに好き」といった声も上がっている。しかも本作を、少年犯罪を重厚に描いた『それでも、生きてゆく』の直後に書いているのだから、彼の作風の幅広さには驚かされるばかりだ。

離婚届と婚姻届をめぐる2組の夫婦

細かいことにこだわる神経質な夫・濱崎光生(永山瑛太、当時は瑛太)と、おおざっぱな性格の妻・結夏(尾野真千子)。二人はつまらないことでよく喧嘩をしている。
「結婚って長い長い拷問ですよ」などとボヤく光生。ある日、彼はついに離婚を切り出し、離婚届をダウンロードしてプリントしようとするが、プリンターが紙詰まりを起こし、その場はうやむやに終わってしまう。

そんなモヤモヤとした状態のなか、光生は大学時代の恋人・上原灯里(真木よう子)と偶然再会する。結夏と結婚したきっかけは震災の日に帰宅難民になったことだった、と灯里に話すうちに、光生はこれまでの夫婦生活を思い出し、「結婚も悪いことばかりではないな」と思い直す。
しかし、そんな矢先に結夏は離婚届を出してしまっていた。別れたがっていたくせに、いざ本当に離婚が決まると狼狽する光生。一方の結夏も経済的に自立できていないという問題があり、すぐには家を出ていくことができず、離婚後も同居し続けることになる。

さらに、灯里の夫である上原諒(綾野剛)が、実は婚姻届を提出していなかったことが発覚。おまけに彼は浮気までしていた。離婚したのに同居する夫婦と、婚姻届を出していないのに同居している夫婦。本作は東京・中目黒を舞台に、この奇妙な2組の夫婦を通して「結婚とは何か」を描き出していく。

坂元裕二の長ゼリフと役者の魅力

本作の最大の魅力は、坂元裕二らしいセリフのやり取りにある。とにかく、本作のキャラクターたちはよくしゃべる。第1話の冒頭から、光生は歯医者の助手に向かって妻の愚痴を延々とまくしたてている。
第2話の冒頭では、今度は結夏が「離婚届を出してすっきりした」という話を語り続ける。このように、ほとんど毎話、誰かの長ゼリフが登場するのが本作の特徴だ。

中でも強烈な印象を残すのは、灯里や結夏の長ゼリフだろう。灯里は自らの生い立ちと母親との確執を初めて吐露し、結夏は光生を好きになっていった過程の気持ちを赤裸々に告白する。そこには各キャラクターの切実な本音があふれており、どのシーンも深く引き込まれる。
長ゼリフは、脚本上の言葉の切れ味が鋭くなければ退屈になってしまう。同時に、長いシーンを一人で魅力的に保たなければならないため、演じる役者にも高い力量が求められる。その点、本作の主要キャスト4人は、それぞれに見事な芝居でその難役を演じきっている。

光生を演じる永山瑛太は、坂元裕二作品の常連だ。前作『それでも、生きてゆく』では同級生に妹を殺された青年の揺れ動く心境を巧みに演じたが、今回はまったく異なる役柄だ。自分のことばかりで相手の気持ちを想像できない男を、憎たらしさと憎めなさの絶妙なバランスで演じており、舌を巻く。
おおざっぱで豪快な性格の結夏を演じる尾野真千子は、その明るいエネルギーで作品を牽引している。彼女もまた、『Mother』で娘を虐待する母親を演じた過去作とは打って変わり、新境地を開拓した。

4人の中で最も鮮烈な爪痕を残すのは、灯里を演じる真木よう子だろう。母親のようにはなりたくないと思いながらも、自分の中に母親と同じような部分を見つけてしまい、そんな自分を許せずにいる複雑な女性を見事に体現している。普段がクールな分、感情を爆発させる瞬間の凄みは圧巻だ。

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綾野剛(C)SANKEI

そして上原諒役の綾野剛は、作中で最も「何を考えているのか読めない人物」を好演している。それでいて“こういう人間、確かにいるな”と思わせるリアリティがある。いい加減な男なのに、どこか色気があって惹かれてしまう。彼ならではのキャラクター像を確立している。実際にこのドラマでの彼の演技は高く評価され、東京ドラマアウォード2013助演男優賞と第22回橋田賞新人賞を受賞している。

劇中(スペシャルドラマ版)で光生が呟く通り、“離婚の原因は結婚”である。結婚しなければ、離婚で思い悩むことはない。それでも人は、なぜ結婚するのか。本作は、そんな哀しくも可笑しい人々の生態をつぶさに観察した傑作である。


ライター:杉本穂高
映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi