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東日本大震災を描いた"今だからこそ"見てほしい朝ドラ 2021年放送の当時に"大きな話題"を呼んだ名作

  • 2026.3.9

2021年度前期に放送されたNHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『おかえりモネ』は、東日本大震災を経験した少女が気象予報士を目指す物語だ。

※以下本文には放送内容が含まれます。

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清原果耶 (C)SANKEI

宮城県気仙沼市にある離島・亀島で育ったモネこと永浦百音(清原果耶)は、高校卒業後、登米市の米麻町森林組合で働いていた。 自分に夢や目標がないことに悩んでいたモネだったが、森林組合を訪れた気象予報士の朝岡覚(西島秀俊)と出会ったことをきっかけに天気予報に関心を抱くようになり、やがて働きながら気象予報士になるための試験勉強をはじめる。

物語は三部構成となっており、第一部が、モネが働きながら気象予報士を目指す登米・気仙沼編。第二部が、モネが東京の気象予報会社『ウェザーエキスパーツ』に就職して、テレビ局で報道番組の気象コーナーの制作に関わる東京編。そして第三部が、気仙沼に帰ったモネがコミュニティFMの天気予報を担当しながら、地元に密着した気象予報士になろうと奮闘する姿を描いた気仙沼編となっている。

時代は2014年から始まり、放送当時の2021年より数年先の未来で幕を閉じる。
その過程でモネは様々な人と出会い成長していくのだが、家族、友人、職場の同僚といった彼女を取り巻く人間関係がとても丁寧に描かれており、青春ドラマとしてとても充実している。
中でも医師の菅波光太朗(坂口健太郎)とモネの遠距離恋愛は大きな話題になり、二人のもどかしい恋愛を楽しんでいた視聴者も多かった。
何より感心したのがモネたち若者の描き方で、今の若者はこんなに真面目で繊細なのかと驚いた。

本作を観て最初に衝撃だったのは、モネを演じる清原果耶の妙に淡々とした静かな佇まいだ。
近年はだいぶ多様化してきたとはいえ、朝ドラヒロインに求められるものは、日本の朝を明るくするような、元気で明るく前向きな姿なのだが、当初のモネは内省的でどこか元気がないように見えた。

モネは決して暗い性格なわけでも仕事に対してやる気がないわけでもない。むしろ真面目で一生懸命なのだが、その背後に人のためになることをしたいという切迫感が滲み出ており、その余裕のなさが逆に心配になった。
一方、内省的なモネとは逆に劇中に登場する自然はとても雄弁で、作り手がロケ撮影に力を注いでいるのが強く伝わってくる。特に序盤は登米の山林の撮り方がとても綺麗で見入ってしまう。
朝ドラの撮影は長丁場で、やるべき課題がとても多いため、ロケ撮影による風景描写はどうしても後回しになりがちだ。しかし、『おかえりモネ』は山林の風景と青空や雲、そして天候が変わって雨が降る様子といった変化する自然の見せ方にとても力が入っていた。 気象予報士を目指す物語だから、天候の変化や自然を丁寧に撮るのは当然とも言えるが、それを台詞のやりとりだけで終わらせずに、映像を通してしっかりと観せようとしたのが本作最大の魅力だろう。

『おかえりモネ』は震災をどのように描いたのか?

2014年時点でモネは18歳。その意味で、現代の若者を主人公にした朝ドラだったと言えるのが、2010年代に10代だった日本の若者を描く上で避けて通れないのが2011年3月11日に起きた東日本大震災をどのように受け止めたかだ。

第3週。お盆に亀島にある実家に里帰りしたモネは幼なじみたちと再会するのだが、そこでモネはあの日のことを思い出す。
父親の耕治(内野聖陽)の影響で音楽が好きだったモネは音楽コースのある仙台の高校を受験し、3月11日は合格発表を見るために仙台に父親と向かっていた。しかし、試験は不合格。落ち込むモネを励ますため、耕治は行きつけのジャズ喫茶に連れていくのだが、ジャズバンドの演奏を残って観ていた時に地震が起こり、その影響で亀島行きの船は欠航となる。
数日後、耕治とモネはなんとか島へと戻る。学校は避難所となっており、家族や友人は避難していたのだが、震災が起きた時に島にいなかったモネは、友人や家族に対して後ろめたさと断絶感のようなものを感じるようになり、好きだった音楽も辞めてしまう。

震災を描いたドラマや映画は多数あるが『おかえりモネ』の描き方はとても繊細で、一言で被災といっても、年齢や状況が違えば受け止め方や感じ方が異なり、人の数だけ異なる体験となっていることを、とても丁寧に描いていた。
そのスタンスはとても厳しく、観ていて苦しくなる瞬間も多かった。しかしだからこそ、作り手が震災と真剣に向き合っていることが伝わり、厳しさと同じくらい優しさを感じた。
この厳しさと優しさは、脚本を担当する安達奈緒子の持つ一貫したスタンスだ。

真摯にテーマに挑み続ける安達奈緒子の真面目さ

安達は2011年に初めての連続ドラマ『大切なことはすべて君が教えてくれた』(以下、『大切』)を執筆して以降、『リッチマン、プアウーマン』や『きのう何食べた?』といった連続ドラマを多数手掛けている。
中でも、高く評価されたのがNHKで放送された産婦人科医院を舞台にした医療ドラマ『透明なゆりかご』だったが、本作で主演を務めた清原果耶と安達が再び組んで作られた朝ドラが『おかえりモネ』だった。
筆者は『大切』以来、安達のドラマの大ファンだが、どんなジャンルのドラマを書いていても、安達の脚本には作品のテーマに対して真摯に向き合おうとする真面目さがあり、それが時に息苦しくも感じるのだが、視聴者に対して本気で作家が思いを伝えようとしていることが伝わってくるため、とても信頼できる。
そんな安達の作家性と、清原果耶が演じるモネの姿はどこか重なるものがある。安達の真面目さは、モネたち震災を経験した若者たちが抱えている「人の役に立つことをしたい」と考える気持ちとシンクロしており、時代が安達の真面目さを求めていると『おかえりモネ』を観た時に改めて感じた。
震災と真摯に向き合っていたからこそ『おかえりモネ』は、安易な答えを描かなかった。しかし、安達を中心とした作り手が、最後まで真剣に向き合ってくれたという手触りは確実に残っており、そのことが何より一番の救いとなっている。
その意味でも『おかえりモネ』は、とても誠実で真面目な朝ドラである。


ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。