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朝ドラヒロインの“未来を映す存在”として注目「品があって素敵」「大切な役」登場から視聴者の話題を呼んだ“重要な女性”

  • 2026.3.10
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『ばけばけ』第22週(C)NHK

朝ドラ『ばけばけ』第22週では、ヒロイン・トキ(髙石あかり)が新天地・熊本で出会う日本人妻・ラン(蓮佛美沙子)が登場。外国人の夫を持ち、英語も堪能で聡明な彼女を演じるのは、女優・蓮佛美沙子である。ランは、トキにとって憧れの存在であると同時に、異文化のなかで生きる女性の現実も背負った存在だ。上品さとユーモアを兼ね備えた人物像を、蓮佛は静かな説得力で体現してみせた。物語後半の重要人物となる彼女の魅力を考えたい。

※以下本文には放送内容が含まれます。

トキの理想像を映す女性

SNS上でも「品があって素敵」「大切な役」と登場時点から話題を呼んだラン。明治という時代に外国人の夫とともに生きる女性という、物語後半のテーマを象徴するような役どころである。

ランは、ヘブン(トミー・バストウ)の同僚教師・ロバート(ジョー・トレメイン)の妻として登場。英語を流暢に話し、落ち着いた物腰と柔らかなユーモアが瑞々しい女性だ。トキが彼女に惹かれていくのも自然な流れに思える。

なぜなら、西洋人の夫と暮らし、ある意味異文化にも堂々と適応できているランの姿は、トキにとって一種の“理想像”とも言えるからだ。

第22週では、そんなふたりの距離が少しずつ近づいていく様子が描かれる。お茶会の席で、ランに英語の勉強方法について尋ねるトキ。そこで明かされるのは、ランもまた努力によって英語を身につけたという事実だった。きれいな筆記体で書かれた英語のノートは、彼女が積み重ねてきた努力の象徴のように映る。

ランという人物は、トキがこれから歩んでいくかもしれない人生を先に生きている女性、と捉えることもできる。外国人の夫と暮らし、異文化に馴染みながら生活する。その現実を体験している人物として、ランはトキの“未来を映す鏡”のような存在になっているのである。

ふたりの距離を縮める“怪談”と“階段”

第22週で印象的だったのが、“怪談”と“階段”をめぐるトキとランの会話。それはいわば勘違いをきっかけにした会話で、怪談をもとに夫のヘブンと仲良くなった、と話すトキに対して、ランは階段の話だと思い込んでしまうのだ。

このすれ違いは、異文化コミュニケーションのズレをコミカルに描く『ばけばけ』らしいユーモアに満ちた場面となった。同時に、このシーンはふたりの関係性の温かさを際立たせる役割も果たしている。

ランは決してトキを見下すことなく、自然体で接する。だからこそ、トキもまた安心して自分の未熟さをさらけ出すことができる。異文化の違いを笑いに変えながら、互いの距離を少しずつ縮めていく。そんな穏やかな空気がこのシーンには流れていた。

『ばけばけ』はこれまでも、文化や言葉の違いが生む誤解やズレを、決して対立として描き出さなかった。むしろそこから生まれる可笑しさや温かさを丁寧に描く姿勢が、評価に繋がっている。トキとランの会話は、まさにその魅力がよく表れた瞬間だったといえる。

静かな知性を宿す演技

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『ばけばけ』第22週(C)NHK

女優・蓮佛美沙子の演技も、ランの魅力を増幅させている要因だ。

ランが有する静かな知性と、どこか余裕が感じられる所作。通底するのは、押し付けがましくない品の良さである。英語の勉強法をトキに教える場面でも、その特徴はよく表れていた。決して上から目線ではない、穏やかな語り口でアドバイスをするランの姿からは、教養や育ちの良さだけでなく、人に寄り添う温かさも感じられる。

また、彼女は単なる理想的な女性として、アイコン的に描かれているわけではない。明治という時代に外国人の妻として生きることは、決して容易なことではなかったはず。いつ夫が母国に帰ると言い出すかわからない不安定な暮らしにおいて、将来の不安を抱えながら生きる女性の覚悟や孤独が、彼女の奥には確かに存在している。

その影を、蓮佛は決して大袈裟に表現しない。ふとした表情の奥にその気配を滲ませることで、奥行きのある人物像に変えている。日常会話や小さな仕草で人物の魅力を立ち上げていく蓮佛の演技は、『ばけばけ』という作品の空気感と見事に調和している。

蓮佛が体現するランの、静かな知性と温かさは、作品全体に確かな厚みを与えている。トキの人生が大きく動き始めようとしているいま、ランは物語にどのような影響を与えていくのだろうか。


連続テレビ小説『ばけばけ』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_