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NHK大河ドラマの“常識を塗り替えた”脚本家の挑戦 後の名作へと受け継がれた“原点”とは

  • 2026.1.20

2004年に放送された『新選組!』は、三谷幸喜が脚本を担当した最初の大河ドラマだ。
本作の後、2016年に『真田丸』、2022年に『鎌倉殿の13人』という大河ドラマを三谷は手掛けているが、どの作品も高い評価を獲得しており、その後の大河ドラマに大きな影響を与えている。
現在の大河ドラマは、三谷幸喜作品が基準になっていると言っても過言ではなく、大河ドラマの新作を待望されている一番の脚本家は間違いなく三谷だろう。 そんな三谷大河の原点となったのが、この『新選組!』である。

※以下本文には放送内容が含まれます。 

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香取慎吾 (C)SANKEI

本作は京都守護職の支配下の警備組織として幕末に活躍した新選組の栄枯盛衰を描いた青春群像劇だ。
物語は1864年に新選組が長州志士の首領・桂小五郎(石黒賢)が密談をしている場面を襲撃する場面から始まり、新選組局長の近藤勇(香取慎吾)と副長の土方歳三(山本耕史)が、まだ名もなき若者だった10年前の江戸へと時代が遡る。

若き日の近藤は、土方歳三、桂小五郎、坂本龍馬(江口洋介)と一緒に黒船を見に行き、時代が大きく動いていることを実感する。その後、剣術道場・試衛館の道場主となった近藤は、門下生たちを率いて清河八郎(白井晃)が結成した将軍を警護するための組織・浪士組に合流し、京都へと向かう。だが、清河たちの派閥が尊王攘夷を掲げ反幕勢力に転身して江戸に戻ると、近藤たちは清河と袂を分かち、京都に残った芹沢鴨(佐藤浩市)一派と共に新選組の前身となる壬生浪士組を結成する。

新選組は元々、将軍警護のために集まった者たちの寄り合い所帯だったが、小さないざこざが重なった結果、内部抗争を延々と繰り返し、新しいリーダーが生まれたかと思うと失脚して、また別のリーダーが生まれるということを繰り返した。
最終的に近藤勇がトップの組織に落ち着くのだが、組織内のごたごたは収まらず、仲間同士の諍いと粛清が何度も繰り返される。

喜劇から悲劇への急降下によって生まれる気まずい空気

『新選組!』は、裏切りに次ぐ裏切りという組織の内部抗争の歴史を描いた血なまぐさい大河ドラマだ。
だが、物語のトーンは明るく、登場人物も他の三谷ドラマと同じようにコメディタッチの描き方となっている。
登場人物は、国を憂い一見立派なことを言っていても、人間としての器が小さく、つまらないことにこだわって身の破滅を招く者ばかり。だが、そのせこさが逆に人間臭くて愛おしくなる。
『真田丸』や『鎌倉殿の13人』もそうだが、どれだけ歴史に名を遺した偉大な人物であっても、三谷幸喜によって書かれると、学生時代の友達や親戚のおじさんのような、どこにでもいる親しみやすい存在へと変わってしまう。
そのため、若者も大人も俗っぽい小者に見えるのだが、そんな親しみを感じていたキャラクターが突然、惨劇に見舞われるため、毎回視聴者は唖然とさせられる。
この、喜劇から悲劇への急降下によって生まれる気まずい空気を描くことによって、三谷幸喜は新しい大河ドラマの文体を生み出すことに成功したのだ。

演劇的な大河ドラマ

『新選組!』が、今観ても色褪せていないのは、近藤勇や坂本龍馬を特別な偉人としてではなく、いつの時代にも存在する何か大きなことをやりたいと思っている等身大の若者として描いているからだろう。
まだ何者でもない若者たちが集まって、大学サークルのような組織を作って世に打って出る中で経験する楽しいことや哀しいことを、群像劇として描かせると三谷の右に出る者はいない。

たとえば、昨年放送された連続ドラマ『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』は劇団が舞台の群像劇となっていた。
本作は三谷にとって半自伝的な作品となっていたが、劇団・東京サンシャインボーイズの主宰をしていた三谷のテレビドラマは、演劇的と言われることが多い。
おそらく、劇団という複数の人物が関わる組織の中で三谷が経験したトラブルや複雑な人間模様を、他の組織の群像劇に落とし込むことで、三谷はドラマの脚本を書いているのだろう。

また、三谷ドラマには偽物が本物を演じることでいつしか本物になるというテーマが繰り返し描かれる。これは俳優が役を演じるという行為と重ねられており『新選組!』も、多摩の農家の生まれだった近藤勇が新選組の局長として、侍の真似事をしている内に、いつしか本当の侍になってしまったが故に起こる悲喜劇が物語の中核となっていた。

一方、表現として演劇的だと感じるのが、時間と空間を限定することで、物語の密度を高める手法。

『新選組!』の各話のエピソードは、「ある一日の出来事」を重点的に描くという構成となっている。そのため一話一話の完成度が高く、独立した短編として見応えがあるのだが、同時に登場人物の日記を読んでいるような気持ちになるため、より親近感が高まる。

こういった演劇的手法を持ち込むことで、英雄たちが活躍する遠い時代の物語だった大河ドラマを、現代の視聴者が観ても身近に感じられる等身大の若者たちの物語として再構成したことこそが『新選組!』の功績だったと言えよう。


ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。