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朝ドラの“話せない演技”の裏側「知らなかったことばかり」「やっぱり素敵」制作陣も驚いた“メイン俳優からのメール”

  • 2026.1.19
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『ばけばけ』第15週(C)NHK

髙石あかりがヒロインを務める朝ドラ『ばけばけ』で、トキの夫であるレフカダ・ヘブンを演じるトミー・バストウ。その存在は、もはや異人や異国からやってきた教師という設定を超え、どこか不思議な親密さを視聴者に残している。『あさイチ』にゲスト出演した際も、SNS上では「やっぱり素敵でチャーミング」「知らなかったことばかり」との声があがっていた。なぜ彼の芝居や人柄は、こんなにも人の心に触れるのか。

※以下本文には放送内容が含まれます。

1年をかけた徹底的な準備

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『ばけばけ』第15週(C)NHK

ヘブンを演じているトミー・バストウの準備は、撮影の約1年前から始まっていたという。モデルの小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)に関する伝記や日記、手紙を読み込み、その思考や感情の癖を丹念にすくい取っていった。ヘブンという人物の言動がどこか浮世離れして見えながらも、決して空虚に映らないのは、その背後に膨大な“思考の蓄積”があるからだろう。

さらに特筆すべきは、身体表現へのこだわりである。八雲が16歳で左目を失明していた史実を踏まえ、白濁したカラーコンタクトを着用。視界が制限される不自由さを、実際に身体で引き受けながら演じている。猫背気味の姿勢や、わずかにずれた視線の角度も、すべて計算されたものだ。

役作りは撮影現場だけに留まらない。ヘブン同様、日常的に手紙や日記を書く生活を送り、役の感覚を生活に浸透させていく。こうした積み重ねがあるからこそ、ヘブンは生身の存在として立ち上がって見えるのだろう。

日本語を操れる俳優が、あえて不器用になる技術

トミーの演技をさらに特別なものにしているのが、日本語表現の扱い方だ。実際に彼は、日本語を10年以上独学で学び、かなり流暢に話すことができる。しかし『ばけばけ』で彼が希望し、また与えられたのは、“話せない外国人”を演じることだった。

制作陣が驚いたのは、トミーから送られてきたメールの文面だという。日本語話者でも難しいような丁寧な文章、朝ドラ出演へ込められた思い。ちょうどこの頃、トミーは日本語能力試験を受けるため日本にいたという。これらの事実から伝わるのは、単なるトミーの言語能力ではない。“通じない”状態を演じるための高度な技術だ。

ヘブンの言葉は常に完璧ではない。だからこそ、目線や間、身振りによって感情が補われる。トキとの関係性も、言葉で愛を語る以前に、相手を理解しようとする姿勢そのものが積み重なっていく。その不器用さが、ヘブンを一層誠実な人物に見せているのだ。

『あさイチ』で見えた素顔と、ヘブンの人間味が重なる瞬間

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『ばけばけ』第15週(C)NHK

そんなトミーの人柄がよく表れていたのが、『あさイチ』出演時の振る舞いだった。番組冒頭で「家族、できました!」とガッツポーズを見せ、実年齢が34歳であることが明かされると、“朝ドラのクレイジースケジュールのせいで40歳に感じる”といった冗談さえ飛ばしてみせる。その場を和ませる軽やかさは、ヘブンのユーモアとどこか重なる。

日本とイギリスの共通点を「島国」「紳士と武士道」と語り、“前世は日本人だったかもしれない”と笑う感覚も象徴的だ。異文化を“理解する対象”ではなく、“重なり合うもの”として捉える視点こそ、ヘブンという人物像の核にある。

さらには、ロックバンド・FranKoのリードボーカルとしても活躍するトミー。バンド仲間を呼んで一曲を披露する展開には、SNS上でも「歌ってくれたの嬉しい」と喜びの声が。来日ツアーも予定されているが、大人気ゆえにチケットはソールドアウトとのこと。

トミーの芝居が観る人の心を打つのは、技巧だけの問題ではない。徹底した準備と、他者に対する誠実なまなざし。その両方を持ち合わせた俳優だからこそ、ヘブンという人物は、これほどまでに愛される存在になったのだろう。物語が進むほどに、その表情がどんな深みを帯びていくのだろうか。


連続テレビ小説『ばけばけ』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_