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アート鑑賞と“絶景”を楽しめる、一度は行きたい日本の美術館10

  • 2025.12.2
植田正治写真美術館

美術館は作品を鑑賞する場であると同時に、外に広がる景色もまた、作品の一部かもしれない。建築の設計意図や立地を最大限に生かし、訪れる人を感動させる美術館が全国各地に存在する。次の旅の目的地に加えたくなる、アートと風景の両方を楽しめるとっておきの美術館へご案内。

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横須賀美術館/神奈川県

三方を緑豊かな観音崎公園に囲まれ、目の前には東京湾が広がる絶好のロケーション。建築家・山本理顕が設計した「横須賀美術館」は、ガラスと鉄板の二重構造を持つ、美しいガラスの箱のような建築だ。

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本館の大きな特徴は館内の至る所から、周囲の絶景をアートのように感じられること。鉄板の壁や天井に穿たれた大小の丸穴からは、深い森の緑、刻一刻と変わる空の色、そして大きな船が行き交う海の風景を、絵画のように切り取って見せてくれる。企画展の展示室と展示室の間にも、ふと海の景色が目に飛び込んでくる「ギャラリー」が設けられるなど、常に自然との繋がりを感じられる設計だ。館内では多彩な企画展をはじめ、日本の近現代美術を中心とした所蔵品展や、谷内六郎の作品などが鑑賞できる。

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本館のもう一つの大きな特徴は、海側と山側の両方からアプローチでき、公園を散策するように通り抜けられること。屋上広場から東京湾の絶景を堪能した後に館内へ、という楽しみ方もできる。

写真提供:横須賀美術館

横須賀美術館
神奈川県横須賀市鴨居4-1


※2026年8月まで改修工事のため休館

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豊島美術館/香川県

瀬戸内海を見下ろす豊島の小高い丘。再生された美しい棚田の風景と溶け合うように佇むのが、内藤礼と建築家、西沢立衛による「豊島美術館」だ。周囲と合わせて水滴が地上に落ちた瞬間を思わせる、有機的な姿が美しい。

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柱が一本もない、広さ約40×60mのコンクリート・シェル構造の内部。天井に穿たれた二つの開口部からは、風や光、鳥の声といった周囲の自然がそのまま流れ込んでくる。そして内部空間では、一日を通して床のいたるところから「泉」が誕生。生まれた水滴は集まり、流れ、また消えていく。その風景は、季節の移ろいや時間の流れと共に、無限の表情を見せてくれる。

写真:鈴木研一

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美術館へと続く遊歩道を巡りながら、豊島に自生する植物や棚田の風景を眺める時間もまた、この場所を訪れる体験の重要な一部だ。そうして辿り着いた静かな空間で、自然と建築が一体となるのを感じていると、自ずと感覚が研ぎ澄まされていくよう。隣接するカフェ&ショップでは、関連書籍やオリジナルグッズも手に入る。

写真:鈴木研一

豊島美術館
香川県小豆郡土庄町豊島唐櫃607


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植田正治写真美術館/鳥取県

鳥取の田園風景の中に、名峰・大山と対峙するように配された「植田正治写真美術館」。その作風が“Ueda-cho(植田調)”と世界で称される写真家、植田正治のために、高松伸が設計した。コンクリートのミニマルな建築は、植田作品の持つ無機質さと大胆な空間構成を映し出す。

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館内では、彼が生涯に撮影した膨大な作品群に出合えるのはもちろん、建築そのものがもたらす体験も見逃せない。そのハイライトは、展示室を巡る合間にふと現れる、水面に映る「逆さ大山」。眼前にそびえる名峰、大山を建築の一部として取り込み、ここでしか見られない絶景を生み出している。窓辺には植田作品を象徴する黒い帽子の撮影スポットもあり、誰もが“植田調”の写真に挑戦できる仕掛けも楽しい。

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作品と建築、そして雄大な大山。すべてが計算された構図の中に配置され、訪れる人自身が“植田調”の世界の登場人物になったかのような感覚になる、現実とアートの境界線が心地よく溶け合っていく場所だ。

植田正治写真美術館
鳥取県西伯郡伯耆町須村353-3

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下瀬美術館/広島県

瀬戸内海の海岸線に広がる、注目のアートデスティネーション「下瀬美術館」。建築家、坂茂が手掛けたこの場所の主役は、建築そのものよりも、むしろ周囲の自然だ。長さ190mもの巨大なミラーガラス・スクリーンが、瀬戸内の光と海を映し込み、建築の存在を風景の中に溶け込ませる。

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その海側に広がる水盤の上には、色とりどりのカラーガラスに覆われた8つの可動展示室が浮かぶ。広島の造船技術を応用したこの展示室は、水の浮力によって配置を変えるという、世界でも類を見ないユニークなシステムだ。隣接する丘の「望洋テラス」からは、このカラフルな展示室と瀬戸内の多島美が織りなす、ここでしか見られない絶景が広がる。(※冬季限定のホワイトツリーは12/3より水盤の上に設えられる。)

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館内では、京都の名工による雛人形からルノワールやマティスの絵画、エミール・ガレの作品まで、多彩なコレクションを鑑賞できる。敷地内には坂茂設計のヴィラも点在し、アートと共に滞在するという、究極に贅沢な時間も叶えてくれる。

下瀬美術館
広島県大竹市晴海2丁目10-50


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小田原文化財団 江之浦測候所/神奈川県

アートの起源とは何か。現代美術作家、杉本博司がその壮大な問いを形にしたのが、相模湾を見渡す「江之浦測候所」だ。かつて蜜柑畑だった丘陵地に広がるこの場所は、古代人がそうしたように天空を測候し、自然の中に自身の座標を見出すための壮大な装置でもある。

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広大な敷地には、ギャラリー棟や光学ガラスの舞台、石舞台といった様々な構造物が点在。日本の各時代の建築様式を再現した建物群だけでなく、古代から近代までの本物の建築遺構も配されており、まるで日本建築史を巡るようだ。

写真提供:小田原文化財団

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眼前には、杉本の原風景でもある鋭利な水平線がゆるやかに伸び、相模湾の彼方まで続く天と海の景色が一体となって広がる。そこでは、光や風、そして時間の移ろいまでもが作品の一部のように感じられる。

写真提供:小田原文化財団

小田原文化財団 江之浦測候所
神奈川県小田原市江之浦362-1


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NAGARE STUDIO 流政之美術館/香川県

彫刻家、流政之。かつて米・タイム誌で三島由紀夫らと並び日本を代表する文化人として紹介された彼が晩年まで暮らし、創作を続けた住居兼スタジオは、瀬戸内海を一望する香川・庵治半島の丘にあり、今は彼の美学を丸ごと体感できる美術館となっている。

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1966年から焼き損ないのレンガを集めては、流自身が長い年月をかけて仲間と共に増改築を繰り返したというこの建築は、それ自体がひとつの巨大な作品。ガイド付きツアーでのみ立ち入れる内部には、約400点もの作品が、作家が生きていた頃の空気と共に息づいている。

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彫刻庭園「天台の庭」から望む圧巻の風景に加え、ここでは作品に触れることが許されているのも大きな特徴。「作品を手にとり、触れ、芸術と共に暮らす」という流の強い想いが、ここでは五感を通して伝わってくる。

NAGARE STUDIO 流政之美術館
香川県高松市庵治町3183-1


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諸橋近代美術館/福島県

磐梯朝日国立公園の雄大な自然に抱かれた、諸橋近代美術館。創設者・諸橋廷蔵が故郷である福島に開いた美術館は、中世の厩舎をイメージしたというクラシカルな建築が特徴。ここは、アジアで随一というサルバドール・ダリのコレクションを収蔵するための特別な場所だ。

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館内に足を踏み入れると、自然光を多く取り入れた天井高9mの開放的なホールが約100mにわたって伸び、ダリの彫刻群がその存在感を放つ。絵画、彫刻、版画など約340点に及ぶダリのコレクションに加え、ルノワール、マティス、ピカソ、シャガールといった19、20世紀の巨匠たちの作品も並び、西洋近代美術の世界に深く浸ることができる。

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しかし、この美術館の魅力はコレクションだけではない。館内の窓からは磐梯山の荒々しい噴火口が顔を覗かせ、外に出れば、長瀬川の分流が流れる美しい庭園が広がる。初夏には池一面に咲き誇る白やピンクの睡蓮が、秋には彩り豊かな紅葉が、ダイナミックな自然とアートの美しい競演を見せてくれる。そんな、季節ごとに全く違う表情を見せてくれる庭園だからこそ、きっと何度も足を運びたくなるはず。

諸橋近代美術館
福島県耶麻郡北塩原村檜原剣ケ峯1093-23


※2027年4月頃まで長期休館

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今治市伊東豊雄建築ミュージアム/愛媛県

瀬戸内の島々を見下ろす、みかん畑だった傾斜地。建築家の伊東豊雄は、この島の持つ不思議な力に圧倒され、自身の建築ミュージアムを創り上げた。きらめく海を背景に並び立つのは、鉄板の多面体が結晶のように組み合わさった「スティールハット」と、かつての自邸を再生した「シルバーハット」の2棟。

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スティールハットの内部は、壁、床、天井の区別が消え、求心性を持ちながらもパノラマ的に展開していく不思議な空間だ。ここでは伊東豊雄の最近の活動に関する模型や図面が展示され、彼の創作の軌跡を辿ることができる。一方のシルバーハットは、大小7つのアーチ状の屋根がリズミカルに連なる構成が特徴。初期の住宅から近年の大規模プロジェクトまで、約155件もの図面を収蔵するアーカイブとして機能し、ワークショップの拠点ともなっている。

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スティールハットとシルバーハットを鑑賞した後は、ぜひ外に出て深呼吸を。瀬戸内の穏やかな風を感じながら、起伏に富んだ敷地をのんびり散策するのも、この場所ならではの贅沢。敷地内には大型模型も屋外展示されているので、ぜひ探してみてほしい。

今治市伊東豊雄建築ミュージアム
愛媛県今治市大三島町浦戸2418


※2026年1末末まで改修工事のため休館

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島根県立美術館/島根県

「夕日につつまれる美術館」として多くの人に愛される、「島根県立美術館」。そのコンセプトが示す通り、宍道湖の湖畔というロケーションが、この場所を唯一無二のものにしている。菊竹清訓が手掛けた建物は、波打ち際に盛り上がった「洲浜」のようなカーブを描くチタン製の大屋根が特徴的だ。水面と大地をつなぐ「なぎさ」をイメージしたという建築は、背後の山並みを遮らないようにと高さが抑えられ、自らが主張するのではなく、宍道湖の風景にそっと寄り添っている。

©NaoTakahashi

宍道湖側が全面ガラス張りとなった開放的なロビーに足を踏み入れると、美しい湖の景観が目の前に広がる。ここから刻一刻と表情を変える湖の風景を眺める時間は、まさに格別だ。コレクションもまたユニークで、「水を画題とする絵画」をはじめ、日本の版画や国内外の写真、木彫など、この土地ならではのコンセプトで作品が収集されている。中でもワールドクラスの北斎コレクション約40点を観覧できる「北斎展示室」では、島根県内でしか展示できない作品や世界に1点しかない貴重な逸品も。

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館内を巡り、多彩なアートに触れた後は、ぜひ湖畔へ。屋外には、籔内佐斗司の人気彫刻《宍道湖うさぎ》をはじめ、彫刻作品が点在している。そんな湖畔が最も輝くのが夕暮れ時。宍道湖を黄金色に染め上げる夕景こそ、この場所でしか出合えない、最もドラマチックなアート作品なのかもしれない。

島根県立美術館
島根県松江市袖師町1-5

(c)山本糾

神奈川県立近代美術館・葉山館/神奈川県

日本初の公立近代美術館として1951年に鎌倉で開館した「神奈川県立近代美術館」。その豊かな歴史と精神を受け継ぎ、2003年に新たな拠点として姿を現したのが、この葉山館だ。目の前には穏やかな一色海岸、背後には緑豊かな三ヶ岡山。この葉山の風景と連携するように、建物は水平線を強調したミニマルなフォルムで、周囲の緑の中に静かに沈み込むようだ。

(c)矢萩喜從郎

館内に足を踏み入れると、白を基調とした静かな空間が広がり、大きく開いた窓からは、天と海がひと続きになったような葉山の景色が柔らかく差し込む。展示室は外の風景と寄り添うようにつくられており、ゆるやかな動線の中で、作品と自然のどちらにも自然と目が向く。さらに時間とともに変わる光が、作品の表情や空間の奥行きを豊かに引き出してくれるのも、この館ならではだ。

(c)上野則宏

一色海岸に臨む庭園には20点の野外彫刻が点在し、潮風を感じながらの散策も楽しめる。鑑賞の余韻に浸るなら、海の見える最高の場所に設けられたレストランへ。海を望むこのレストランで過ごすひとときが、美術館での時間を心地よく締めくくってくれる。

神奈川県立近代美術館・葉山館
神奈川県三浦郡葉山町一色2208-1

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