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【インタビュー】いわてグルージャ盛岡の元日本代表MF小林祐希が語るJFL挑戦「本当にこのクラブに感謝している」

  • 2025.11.14

今季JFL(日本フットボールリーグ、J4相当)に衝撃が走った―。

昨季J2に降格した北海道コンサドーレ札幌を退団していた元日本代表MF小林祐希が、JFLのいわてグルージャ盛岡へ今年2月1日に加入した。

元日本代表のテクニシャンは、なぜアマチュアリーグへ活躍の場を移したのか。

Qolyは小林にインタビューを実施。

JFLでプレーするいまを赤裸々に語った。

(取材・文・構成・写真 宇田春一)

魂が抜けた感じがした

昨季まで国内トップディヴィジョンであるJ1で19試合に出場していた男は、なぜプロの舞台からアマチュアリーグへと活躍の場を移したのだろうか。誰もが思う疑問を小林に尋ねると、きびしい表情を浮かべて淡々と理由を説明した。

「前に所属していたチームでは、あまり自分のプレースタイルは受け入られくて、正直、何をしたらいいのか分からなかった。魂が抜けた感じがした」

画像: 札幌時代の小林 (C)Getty Images
札幌時代の小林 (C)Getty Images

札幌での選手生活はプレーする喜びを得られなかったという。モチベーションが保つのが難しかった理由を聞けば、「三日あっても足りない」と言うほど。理由を深く語らなかった小林は、サッカーに対する情熱や喜びを日を追うごとに失っていった。

昨季終わりに契約が満了し、Jリーグチームからのオファーはなかったという。その中で昨季J3最下位によりJリーグを退会し、今季JFLでJ3参入に向けて再スタートを切っていた盛岡が小林へオファーを送った。

「(現役を引退しようか)迷っていた。正直『もういいかな』と思っていた部分もあった。でもプレーすることは嫌いじゃないし、ボールを触るのも好き。JFLから上へ上がるという目標があって、それなりの選手もいて、やりがいはあるかなと思った。サッカーが楽しいと思わせてもらったし、グルージャにはすごく感謝していますね」と明かした。

盛岡に加入してからは広い視野と優れた判断力、そして卓越したテクニックでチームにとって必要不可欠な存在となった。

画像: 盛岡でプレーする小林(中央)
盛岡でプレーする小林(中央)

「認めてくれる人がいて、必要としてくれるチームがあって、そこで試合に出ることは勝手にモチベーションが上がる」というように、サッカーをプレーする喜びをこのチームで噛みしめている。

JFLで感じたギャップ

自身初のJFLを元日本代表のテクニシャンはどう感じているのだろうか。

小林は「上でやりたいと思っているチームとの対戦は楽しいですよね。ラインメール青森、レイラック滋賀、ヴィアティン三重…。そういうチームは相手も必死だし、ワンプレーに対しての責任感やプレッシャーがかかっている」とプロ入りを目指すライバルチームとの対戦を楽しんでいるという。

画像: インタビュー取材に応じた小林
インタビュー取材に応じた小林

今季はリーグ戦22試合5得点1アシスト(今月14日時点)を記録しており、チームにとっても欠かせない存在となっている。再びプレーする喜びを噛みしめる男は、アマチュアの舞台で輝きを放っている。

一方でギャップを感じる部分もある。

これまで欧州や日本代表と最高峰でプレーしてきた小林は、違和感を感じていた。

画像: 精度が高い華麗なパスを展開する小林
精度が高い華麗なパスを展開する小林

「サッカーに対しての気持ち、プライド、すべてにおいて違う世界なんだなと。俺がいままで感じてたこととか、(これまで所属して)いたところの周りの仲間とのことを持ち出してはいけない。それと比べたり、それを求めたりしたらいけないんだなと。

そういう気持ちは年齢の問題じゃない。15、16歳で、J1でやっている選手もいるじゃないですか。上の人たちを見て、もっとこうならなきゃいけない。もっとうまくなりたい、代表に入りたい、世界でやりたい。欲があって、負けたくない気持ち、上に行きたい気持ち、サッカーにかける思いがあってやっている。それこそ長友佑都くんのように39、40近くなっても、もっとうまくなりたい、若いときよりもっといいコンディションでやりたい人もいる。

プロとしての志向の問題だと思います。プロアスリートとしての心の持ちようの違いはすごく感じました」

これまで過ごしてきた世界とは異なる世界。プロ契約とアマチュア契約が混同するJFLで感じるギャップに驚きを覚えたという。

引き込まれないために

小林が感じたギャップはチーム内にも漂っていた。これまで欧州、日本代表という舞台で世界と渡り合ってきた男が見てきた景色と、チームメイトが見据えるビジョンに隔たりが存在している。

画像1: 引き込まれないために

「例えばJ1、海外、代表のクラブでやってきた選手たちは、自分の周りに、もっとやっている人がたくさんいるわけですよ。そういう中にいたら、自分ももっとやんなきゃと思って、いろいろなことに取り組んでレベルアップするために頑張るじゃないですか。

だけど、(いまいる場所は)そうじゃない。もう別にこれぐらいでいいや、面倒くさいみたいなね。必死でやることは格好が悪いと考えている人もいる。そういう環境にいると、人間はそっちに寄っていく、引き込まれていくんですよ」と赤裸々に語った。

これまでさまざまな修羅場を乗り越えてきた強じんなメンタリティがあるからこそ、どんな環境であっても自分を見失わない。目標は明確であり、小林はブレずに目標に向かって突き進んでいる。

画像2: 引き込まれないために

「例えば代表を例に挙げると、クラブハウスに行けば、早く来て準備している人もいれば、トレーニングを既に始めている人もいる。自分よりももっと努力している選手たちがたくさんいる。それを見ていたら勝手にモチベーションが上がりますよね。でも、ここはそうではないから自分でモチベーションを常に最高潮に持っていかないといけないんです。だから自分は恵まれていたな」

未経験の環境で新たな学びを得た。自分を見失わない難しさ―。どのような環境でも我を貫く姿勢は、いつになっても変わらない。

このクラブに感謝している

現在盛岡はJFLで9勝6分12敗の勝点33で9位と今季でのJリーグ参入の可能性は消滅している。本気で盛岡をJリーグ復帰へ導きたかった小林は、強い憤りを感じていた。

画像: ゴール前へ迫る小林(中央、白)
ゴール前へ迫る小林(中央、白)

「もちろん俺はJ3に上がって、もう1回Jリーグでやりたかった。あわよくば2年で上がれば、J2、J1までいけるわけじゃないですか。上に上がれば、もっと予算をかけて、こうやってクラブハウスを作ってくれて、グラウンドも用意してくれている。これだけ周りの人たちがやってくれている。

上に上がれば、もっとお金をかけて強くなれる可能性もあるわけじゃないですか。そう思って来たけど、そこの気持ちには他の選手たちとギャップがありましたね。もちろん上に上がりたいと思って、本気で取り組んでいる人もいます。その本気度の差は天と地でしたね」と語気を強めた。

今年4月からクラブハウスがオープンし、選手たちのサポートに力を入れるクラブに強い恩を感じているからこそ、怒りを口にするシーンもあった。そして小林はブレていない。どんな状況であっても全力でプレーして、シーズンを駆け抜ける構えだ。

「ここでプレーして、まだ全然できるなと。体力的にも技術的にも、全然できると思っている。チームがあれば、来年もどこかでプレーしたいと思う。サッカーが好きだなとか、やりたいなという気持ちは、シーズンを通して試合で使ってもらって思いましたね」と表情が和らいだ。

画像1: このクラブに感謝している

来季の去就は不透明ではあるが、小林は前向きだという。

「これから話し合いだと思うし、条件的にもお金の話もあるから難しい部分があるかもしれないですけど、チームが望むなら、前向きに考えたい。このチームが嫌だから移籍したいとか、そういうふうに思っていません。本当にこのクラブに感謝している」とチーム愛を口にした。

画像2: このクラブに感謝している

今年で33歳を迎えるベテランは、残りの選手キャリアもこれまでと変わらず全力を出してチームをより高みへと導く目標を掲げた。

「もう選べる立場にないので与えられた環境でやるしかないですけど、その与えられた環境で自分のマックスを出すしかない。チームがあれば、そこを一つでも上の順位に引き上げていく。リーグカテゴリーがどこになるか分からないけど、各チームの目標は昇格じゃないですか。上に行くためのお手伝いができればと考えています」と言葉に力を込めた。

画像3: このクラブに感謝している

カテゴリーを問わず全身全霊で戦い続けるテクニシャンは、失いそうになっていたサッカーへの愛を盛岡の地で取り戻した。JFLのピッチで魔法と形容できる美しいプレーを見せてきた小林は今後ピッチに何を残すのか。その生きざまを追い続けていきたい。

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