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「この間取り、完璧だ」注文住宅を購入も…7年後、40代夫婦を襲った“大誤算”【一級建築士は見た】

  • 2025.12.5
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

「こんな未来、全く想像していませんでした」

そう肩を落として話してくれたのは、注文住宅に住むKさん(40代・夫婦+子ども2人)です。

Kさんが家を建てたのは7年前。

当時、SNSや住宅展示場で流行していたのが“大きなファミリークローゼット”、通称ファミクロ。

服を一か所に集められれば家事が楽になるし、子どもも自分で仕分けしやすい。
Kさんはそう考え、1階に広めのファミクロを設けました。

「家族全員で使える収納があれば、洗濯の動線が劇的に楽になる」──それがファミクロに惹かれた大きな理由でした。

入居当初、ファミクロは理想どおりに機能しました。
学校の制服、保育園の着替え、夫婦の仕事着…家族全員の衣類が一か所で完結し、朝の支度も洗濯物の片付けもスムーズ。

「この間取り、完璧だ」と確信していたといいます。

しかし──その“完璧”は、子どもの成長とともに静かに崩れていきました。

思春期で突然使われなくなるファミクロ

子どもが中学生になった頃、Kさんは異変に気づきます。

「最近、ファミクロを使ってない?」

そう聞くと、子どもは言いにくそうに答えました。

「服、部屋で管理したい。友だちからも色々言われるし…」

思春期特有の“プライバシー意識の高まり”でした。

これまで当たり前のように家族で共有していたスペースが、ある日突然、子どもにとっては“自分の領域を侵される場所”に変わったのです。

いつの間にか子ども部屋にハンガーラックやチェストが並び、ファミクロには夫婦の服しかかからなくなりました。

ファミクロ、まさかの“空室化”

「使う人が減ると、一気に空きだらけになります」

Kさんはそう話します。

広いファミクロは、家族全員が使う前提で設計されています。

しかし、子ども2人がそこから抜けた瞬間、想定していた収納量は不要になり、半分以上の棚やパイプが空いたままに。

洗濯動線も狂いました。

服をまとめて片付けられるメリットが消え、結局は“子ども部屋ごとに片付ける”元の状態に戻ってしまったのです。

「こんなに広くする必要あったかな…と、今では思ってしまいます」

SNSで見た憧れの“大きなファミクロ”は、子どもの成長であっけなく役割を失ったのでした。

一級建築士が見る「ファミクロが破綻しやすい理由」

ファミクロは人気の収納ですが、“家族の成長で使われなくなりやすい収納”でもあります。

理由は2つあります。

1.思春期以降は「個人の収納ニーズ」が急上昇

服装は自分のアイデンティティに直結します。
親に見られたくない、兄弟と混ざりたくない…そう感じる年頃になると、ファミクロは心理的に使いにくくなります。

2.ライフスタイルの変化に対応しにくい

ファミクロは“家族全員が同じ場所に集まる前提”で作られるため、使う人が一人減るだけでも大きく空洞化します。また、動線も固定され、空間を別用途に転用しにくいという弱点があります。

後悔しないための“柔軟な収納計画”とは

ファミクロを否定するわけではありません。

ただし、後悔を避けるには設計の段階で未来の変化を織り込むことが重要です。

建築士として推奨するポイントは以下のとおりです。

1.子ども部屋にも最低限のクローゼットを確保

ファミクロが空いても問題が発生しないよう、子ども部屋に収納スペースを確保しておく。

2.将来は別用途に転用できるようにする

  • 書斎
  • 趣味部屋
  • パントリー

などへ変えられるように、コンセント位置や換気計画を柔軟にしておく。

 “今”の便利より「10年後の現実」

Kさんは最後にこう語りました。

「ファミクロは、子どもが小さい時は最高でした。でも、永遠に続くと思い込んでいましたね。家って“未来の暮らし”を想像しないと、簡単に破綻するものだと実感しました」

家づくりは、家族が成長し変化し続ける前提で考えなければいけません。

ファミクロは便利な収納ですが、家族の成長によって“ある日突然使われなくなる”という大誤算が起きる空間でもあります。

“建てた後の10年”を想像すること。

それが、後悔しない収納づくりの一番のポイントなのです。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者) 地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。