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患者の家族「点滴、全然落ちてない!」病院で怒号を浴びる看護師。後日、打ち明けられた“切実な想い”

  • 2025.11.20
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出典:photoAC(写真はイメージです)

こんにちは、現役看護師ライターのこてゆきです。

私たちの仕事は、患者さんの心身のケアが中心ですが、ご家族とのコミュニケーションもまた、看護の質を左右する重要な要素です。

時には、ご家族の強い言葉に心がざわつき、対応に悩む場面も少なくありません。

今回は、私自身の経験から得た「言葉の裏にある想い」についてお話しします。日中の静かな面会時間を破った強い言葉の奥に隠されていた、ご家族の切実な気持ち。それに気づいた瞬間は、私の看護観を大きく変えるものでした。

面会時の静けさを破った、強い声

日中の面会時間帯、巡回していたときのことです。奥の病室から勢いよく出てきたその方が急に強い声を放ちました。

「点滴、全然落ちてないじゃないですか!」

声の主は、いつもは穏やかで控えめな患者さんのご家族です。打って変わった強い口調に、一瞬時が止まったように感じました。

私は慌てて病室へ駆けつけ点滴ルートを確認すると、流速がかなり遅くなっている状況でした。すぐに再調整し、状態を説明してご家族に謝罪しました。

「ご心配をおかけしました。今はきちんと流れています」

表面上は冷静に対応しましたが、心の中には小さな波が立っていました。

「そんな言い方しなくてもいいのに」

「ちゃんと確認していたのに」

プロとして仕事をしている自分が責められたような気がして、どうしても気持ちが引っかかっていたのです。

後日の一言に、ストンと何かが落ちた

数日後、勤務を終えて帰ろうとしたとき、そのご家族がステーションに来られました。以前とは全く違い、柔らかい表情です。

「先日は本当にすみませんでした。あの時、点滴が止まってる気がして…怖くなってしまって」

その瞬間、胸の奥にストンと何かが落ちました。

私はそこで初めて、ご家族が「怒っていた」のではなく、「不安だった」のだと気づきました。

不安の表現方法は人によって異なります。同じ不安でも、それを「心配なんです」と素直に言える方もいれば、大切な人を守りたい気持ちの裏返しとして、怒りという強い表現で表す方もいます。あの時の言葉は、「大切な命を守りたい」という切実な想いの叫びだったのだと理解しました。

「怒り」の裏には、必ず「想い」がある

それ以来、私は患者さんやご家族の強い言葉に直面したとき、まず「何がこの方を不安にさせたのだろう」と、その言葉の裏にある「想い」を考えるようになりました。

たとえば、「薬が合ってないんじゃないの?」というクレームめいた言葉。

これは単なる間違いの指摘ではなく、「大切な人の薬が、本当に正しく管理されているのか心配だ」というメッセージかもしれません。

また、「なんでこんなに待たされるの?」という声の奥には、「痛みや不安を抱えている時間が、これ以上長引くのはつらい」という切実な気持ちが隠れているのかもしれません。

感情の表面だけを受け止めてしまうと、相手も自分も苦しくなってしまいます。でも、その奥にある真の想いを見ようとするだけで、コミュニケーションは柔らかく、そして温かい「関係性」へと変わっていくのです。

看護師も、人として揺れながら学ぶ

もちろん、頭では「不安の裏返しだ」とわかっていても、心が追いつかない日も少なくありません。強い言葉を浴びせられた後、心がざらついたまま処置に戻ることもあります。

それでも、「怒りの奥にある不安」を知ってからは、その言葉に対する受け止め方が少し変わりました。

以前なら、「なぜそんな言い方をするのだろう」と自分を責めていましたが、今は「それほど怖かったのだな」「心配が大きかったのだな」と、相手の気持ちを想像できるようになりました。

そして、そうした複雑な感情を理解できるのは、私たち看護師も完璧ではなく、患者さんと同じ人間として揺れながら学んでいく存在だからこそだと感じています。

寄り添うとは、「わかろうとすること」

この経験以来、私は患者さんやご家族の言葉を表面で終わらせないように心がけています。

「どうされましたか?」と尋ねる前に一呼吸おいて、「今、何が心配でしたか?」と、問いかけを変えてみることもあります。

そうすると、少しずつ表情がやわらぎ、「この薬、眠くなるのが心配で」など、本当の気持ちが聞こえてくるようになりました。

医療は正確さが大切ですが、同じくらい、言葉の裏に隠された「気持ちを読み取る力」も必要なのだと改めて実感しています。

怒りの裏には、必ず想いがあります。その想いを見つめることができたとき、看護は単なる「処置」や「技術」ではなく、人と人との「関係」へと深まっていくのだと思います。

あの時、強い口調で訴えたご家族の姿を、私は忘れることができません。

あの出来事があったからこそ、私は「相手の心を想像する看護」を意識するようになりました。

怒りは、不安のかたち。そのことを忘れずに、今日も患者さんとご家族に寄り添う看護を続けています。



ライター:精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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