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線路沿いの新築を購入も「昼より夜の方が…」入居当日、30代夫婦を襲った“落とし穴”【一級建築士は見た】

  • 2025.11.20
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

「まさか、こんなにうるさいとは思いませんでした」

そう語るのは、線路沿いの新築戸建てを購入したBさん(30代・夫婦+子ども1人)です。

利便性と価格のバランスが取れた物件に出会い、最寄駅から徒歩5分という好立地。

不動産会社からは「通勤にも便利で人気のエリアです」と勧められ、現地を見に行ったのは日中の時間帯でした。

「電車が通っても、思ったより静かだな」と感じ、その日のうちに購入を決めたといいます。

しかし、入居して最初の夜。

静まり返った住宅街に響く“ガタンゴトン”という音が、Bさんの家全体を揺らしました。

「窓ガラスが微妙に震えるような感覚で、寝室にいてもはっきり聞こえます。昼間は気にならなかったのに、夜になると本当にうるさい」

Bさんは、静かな家のはずが「眠れない家」になってしまった現実に愕然としました。

夜になると響く、低い“うなり音”

線路沿いの騒音は、単なる「音の大きさ」だけでなく、「周波数の低さ」も問題になります。

電車が通過するたびに発生する低周波の振動音は、耳だけでなく体にも響くのです。

Bさんは、入居してすぐ、各部屋の窓に防音カーテンを取り付けましたが、「たしかに少しはマシになるけれど、根本的には変わりませんでした」と話します。

また、周囲の生活音で電車の音が紛れていたのに対し、夜間は環境音が少ないため、わずかな鉄道音でも強く感じやすくなります。

特に、貨物列車や保守車両が深夜に走る路線では、「昼より夜のほうがうるさい」と感じるケースが少なくありません。

線路沿い住宅の落とし穴

線路沿い住宅の騒音トラブルは構造的な問題でもあります。

まず、戸建て住宅の窓や壁といった部位ごとの遮音性能について、建築基準法で一律の基準が設けられているわけではありません。

防火や構造強度には厳しい基準がありますが、「騒音」に関しては建築主や設計者の判断に委ねられているのが現状です。

さらに、一般的な住宅では、窓の遮音性能はT-1等級(外の音を約25dB減衰)程度が標準。

鉄道や幹線道路沿いで快適に暮らすには、本来T-3〜T-4等級(35〜40dB減衰)レベルのサッシが必要です。

しかし、コストアップになるため、建売や一般的な注文住宅では採用されないことが多いのです。

線路からの距離や角度、家の向きによって音の反射や共鳴が起きることもあり、設計段階で“遮音を意識した設計”をしていないと、後から対策するのは難しいのです。

購入前に気づけた“3つのチェックポイント”

Bさんのような後悔を防ぐためには、購入前の段階で「音環境」を確認することが欠かせません。
一級建築士が勧めるチェックポイントは次の3つです。

  1. 現地を複数の時間帯で確認すること
    昼だけでなく、夜・早朝・週末にも現地に足を運びましょう。
    昼間は静かでも、夜間や休日は電車の頻度や音の質が変わることがあります。
  2. 線路から離れていても要注意
    たとえ直線距離が離れていても、高架やカーブ付近では音が反射して響きます。
    立地条件によって、実際の体感は大きく異なります。
  3. 遮音性能を確認すること
    サッシの遮音等級(T-1・T-2・T-3)を確認しましょう。
    また、線路側に寝室やリビングを配置しないなど、間取りの工夫も有効です。

“音の快適さ”も住宅性能のひとつ

線路沿いの住宅は、昼と夜で音の印象がまったく異なります。

見学の時間帯や季節によって体感が変わるため、購入前の判断が難しいのも事実です。

しかし、住宅の快適さはデザインや設備だけでなく、“音の静けさ”にも支えられています。

「音」は、住んでからでは変えられない性能のひとつです。

Bさんのような後悔をしないためにも、家を選ぶときは“音の未来予測”を忘れないこと。

それが、静かで心地よい暮らしを守るための、最も確実な方法なのです。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者) 地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。


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