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新築を購入も「掃除機をかけるとき以外、誰も使わない」40代夫婦を襲った"大誤算"【一級建築士は見た】

  • 2025.11.25
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出典:photoAC(写真はイメージです)

「動線が多ければ暮らしやすいと思っていました」

Kさん(40代・夫婦+子ども2人)は、念願の注文住宅を建てました。
家事がしやすく、家族が自然とつながれる家にしたい――そう考えて、設計士から提案されたのが「回遊動線」でした。

キッチンから洗面所、リビング、玄関までをぐるりと一周できる間取り。
「これなら家事がラクになりますよ」と言われ、Kさんは迷わず採用しました。

ところが、入居して1年。Kさんの表情は曇っていました。

「結局、使う動線はいつも決まっていて、もう一方の通路はまったく通りません。掃除機をかけるとき以外、誰も使わない“ただの通路”になってしまいました」

設計時には「回遊できる家」にワクワクしていたものの、現実は想像と違っていました。

家族の生活パターンはある程度決まっており、日常的に2方向から行き来する必要はほとんどなかったのです。

“家事ラク動線”が “無駄な通路”になった現実

Kさんの家には、玄関からキッチンへ抜ける裏動線と、リビングを経由するメイン動線の2本のルートがありました。

しかし、実際の生活ではリビングを通るメイン動線しか使わず、裏動線は完全に死んでしまいました。

「通れるけど使いません。子どもも“遠回りになるから使わない”って言いますし、物を置くわけにもいかないので、デッドスペースみたいになっています」

図面上では便利そうに見えた“回れる家”は、現実には使われない通路に面積を取られた家になっていました。

しかも、その分だけ収納を減らしていたため、暮らし始めてからは物の置き場所にも困るようになったといいます。

「動線に1坪以上使っていたので、その分を収納にできていれば、パントリーや物入れがもっと確保できたはずです」

“動線づくり”が目的になっている

Kさんのような失敗は少なくありません。

最近の住宅業界では、「回遊動線」「家事ラク動線」といった言葉が人気を集めています。

しかし、その多くが「動線をつくること」自体が目的化しているのです。

本来の動線設計は、家族の生活リズムをもとに考える必要があります。

たとえば朝の時間帯、家族が同じ場所を通るのか、洗濯や料理の動線が交わらないか。

そうした“生活の重なり”を整理しなければ、動線が複数あっても実際には使われません。

「回遊動線=便利」と思い込む人は多いですが、動線は“数”ではなく“使い方”がすべてです。

1本の動線を的確に設計すれば、十分に快適な家になります。

一級建築士がすすめる“後悔しない動線設計”

回遊動線を採用する場合は、次の3つを意識することが重要です。

  1. 2方向のうち、どちらが本当に必要かを考える
    → 間取りに余裕がなければ、1方向で計画する
  2. 動線の途中に「用」があるかを確認する
    → 通路に収納・家事スペース・洗面などの“目的”を持たせる。
  3. 図面ではなく、生活時間で動きをシミュレーションする
    → 朝・夜の行動パターンを具体的に想定することで、無駄な動線を減らせる。

「便利そう」ではなく、「自分たちが本当に使うかどうか」を判断基準にすることが大切です。

 “動ける家”より“使える家”を

Kさんのように、暮らしやすさを求めて取り入れたはずの回遊動線が、実際には“使わない空間”を生むことは珍しくありません。

本当に快適な間取りとは、“動線が多い家”ではなく、“動かなくても済む家”です。

動線を増やす前に、まず「何を置くか」「どこで使うか」を考える。その延長線上にこそ、ストレスのない家事動線があります。

「動線を増やしたのに、暮らしが不便になった」

Kさんの言葉は、家づくりにおける“間取りトレンドの落とし穴”を静かに教えてくれます。
家は“通る場所”よりも、“とどまる場所”を大切にすべきなのです。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者) 地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。


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