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「絶対にやめてください」たった数百円でもNG 元駅員が語る、定期券の『不正利用』の“重すぎる代償”

  • 2025.11.19
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出典:photoAC(写真はイメージです)

こんにちは。元鉄道駅員の川里です。

駅員として働いていた時、毎日さまざまなお客様と接していました。その中でたびたび目にしたのが、定期券やきっぷに関するトラブル。中でも、「うっかり乗り越し」や「定期券の不正利用」は、数百円の運賃をごまかそうとしただけで、非常に大きな影響が生まれることもあります。

今回は、私が実際に経験した「定期券の不正利用かもしれない」と感じた出来事をご紹介したいと思います。

不自然な持ち方

私が改札口を担当していたある日の夕方、有人改札に一人の学生さんが現れました。この方は磁気券タイプの定期券で、券面を私に見せて通ろうとしました。

「不正利用をしようとしているかもしれない」

そう直感したのは、この学生さんが定期券に書かれている有効区間の半分を親指で隠していたからです。

「すみません、もっとよく見せてください」

ホームに向かおうとするところを呼び止めました。

黙って指をずらしてくれましたが、そこには隣の駅の名前がありました。

勘違いにしては…

たった1区間とはいえ、このまま乗ってしまえば無賃乗車です。

「次の駅までのきっぷを買っていただけますか?」

私がそう言うと、学生さんは改札の外に設置してある自動券売機へ向かいました。定期券の有効区間外ということは、普段からこの駅を利用しているわけではないと思われます。なにかの事情で今日だけこの駅から乗車することになり、うっかりきっぷの購入を忘れてしまったのでしょうか?

それにしては指の位置があまりにも不自然でしたし、私が追加のきっぷを買うよう言ったときの行動がスムーズすぎるように感じました。まるで自分がそう言われることをわかっていたかのように、定期券を見返すこともなくさっさと自動券売機へ行ってしまったのです。

さて、ここまで私のセリフばかり書いてきましたが、では学生さんは何を言っていたのかというと、終始無言でした。乗車時に駅員から指摘されればきっぷを買うだけで済むし、下車する駅が定期券の有効区間内であればバレるはずがない、と軽く考えていたのかもしれません。

確かに、鉄道会社も客商売のため、どれだけ心証が悪かろうともこの時点で「不正乗車をしようとしただろう!謝れ!」と追い詰めることはできないのが現実です。ほんの少しでも「お客さまがなにか勘違いしたのかもしれない」という可能性がある限り、当時は不正乗車をする意図はないものとして接していました。

不正利用が発覚するとどうなる?

最終的に、定期券の区間外から乗車するために必要な運賃を乗車前にすべて支払ったことになるので、今回の学生さんは定期券の不正利用にはあたりません。

ではもし、必要な運賃をわざと支払わずに列車に乗ったことが発覚したらどうなるでしょうか?

定期券の不正利用への対応は、それぞれの会社の営業規則や運送約款などによって定められています。私が勤めていた会社では定期券を没収し、不正利用していた期間の正規の運賃を1日1往復毎日利用したとして改めていただいたうえ、増運賃としてさらに2倍のお金をいただきます。よく「不正は3倍とられる」といわれますが、正確には全額が増運賃というわけではありません。

また、当然ながら「お金さえ支払えば無罪放免」というわけではなく、対応した駅から学校などへ不正利用の事実を連絡します。私は実際に定期券の不正利用で学校に連絡されたお客さまのケースを知っていますし、会社員でも金額などによっては勤め先へ連絡することになるでしょう。

たった数百円の運賃をごまかそうとしただけで、非常に大きな影響が生まれます。別の持ち主の定期券を使う、定期券に書かれていない経路の列車に乗るといった使い方も不正利用にあたるので、絶対にやめてください。

もしも間違えてしまったら

ここまで読んで、このように感じた方もいるでしょう。

「そうは言っても、人にはうっかりというものがあるじゃないか。本当にうっかり正しいきっぷや定期券を持たずに乗車した場合でも不正扱いにされるのか」

これに対する私の回答は「すぐに不正扱いを受けるわけではないが、正しいきっぷや定期券を持って乗車するよりもはるかに面倒なことになる」です。

もしもきっぷを買わずに乗車したことに気づいた場合、または乗車後に自分が買うべききっぷを間違えたことに気づいた場合は、到着駅の駅員に自ら名乗り出て乗車駅と事情を説明してください。

駅員が乗車時刻などを確認し、本当に不正するつもりがないとわかれば、正規の運賃だけをいただきます。どうしても持ち合わせがなければ電話番号等を駅で控えて、後日支払いという案内も可能です。

なお、これはあくまで買い間違いや買い忘れのお客さまへの救済措置です。「急いでいたから下車駅で支払うことにした」「お金を持ってきていないから後日支払いたい」などといったお客様向けのサービスではありません。乗車駅をごまかそうとしていると疑われかねないので、よほど特別な事情がない限り、きっぷは乗車前に正しく買いましょう。

「うっかり不正」を防ぐ方法

自動改札機がある駅の場合、自動改札機を使うと買い忘れや定期券の有効期限切れといったミスを防げます。おそらく、それが最も簡単かつ正確にきっぷの買い忘れや買い間違いを防ぐ方法だと思います。また、ICカード一体型の定期券を購入できるのであれば、そのほうがおすすめです。自動で必要な運賃を差し引いてくれるので、乗り越しの際も有人改札へ並ぶ必要がありません。

駅員に強く言われないからといって、指摘されるまで運賃を支払わなくていいわけではありません。

運賃先払いの鉄道会社を利用するときは、そのルールに従って必要なすべてのきっぷを乗車前に購入するようお願いします。


ライター:川里隼生

鉄道会社の駅係員として8年間、4つの駅を経験しました。コロナ禍やデジタル化を通して移り変わってきた、会社としての鉄道サービスの未来像と、お客様それぞれが求めている鉄道サービスのあり方の両方から学んだことを記事にしていきます。


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