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タワマン購入も「寝かしつけたのにインターホンが…」40代男性を襲った“思わぬ大誤算”【一級建築士は見た】

  • 2025.11.11
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※ChatGPTにて作成(イメージ)

Aさん(40代・男性・夫婦+子供一人)は、都心のタワーマンションを購入。
駅直結、免震構造、ホテルのようなエントランス――理想をすべて詰め込んだ住まいでした。

「子どもが生まれたタイミングで、“一生モノの家”をと思い購入にしました。宅配ボックスもあるし、生活が便利になると思っていました…」

ところが入居して数カ月も経たないうちに、意外な問題が浮かび上がります。
それは、“荷物が届かない”“再配達ばかりになる”という、予想もしなかった生活の不便さでした。

宅配に20分以上――“高級タワマン”が抱える非効率

Aさんの住むマンションは地上40階を超える超大型タワー。
セキュリティが厳重で、宅配ドライバーは地下の警備室で身分確認を行い、階数ごとの解錠カードを借りてから配送に向かいます。
手続きだけで10分、エレベーター待ちでさらに10分。
ようやく目的の階に着いても、フロントでの受付や電子記録の入力に数分かかります。

「荷物ひとつ届けるのに20分以上。エレベーターの順番待ちや防災センターでの受付があって、配達員さんが気の毒になるほどです。」

“便利”のはずが、時間と気遣いの連続

Aさんはネット通販をよく利用します。
しかし、夜の時間帯はエレベーターが混雑し、配達が遅れることも。

「子どもを寝かしつけたあとにインターホンが鳴ると、また起きてしまう。配達員さんも大変だろうと思うけど、こちらも気が休まりません。」

「宅配ボックスもすぐに満杯になります。朝になると配達員が順番待ちで並び、空きが出るまで荷物を下ろすことができません。」

そのため、“ボックス争奪戦”が日常化しているのだとか。
Aさんは今、こう振り返ります。

「高層階の眺めに憧れて買いました。でも、日用品を受け取るだけでこんなに時間がかかるなんて、想像もしていませんでした。」

“物流動線”の盲点

タワーマンションは、人の動線(住民・来客)を精密に設計します。
しかし、荷物の動線=物流計画については、これまで軽視されてきたのが実情です。

特に問題となっているのが、ネット通販の急増です。
現在の物流量は、設計当時の想定をはるかに超えています。
「1日に何百件もの荷物が届く」ような状況は想定されていませんでした。

建築基準法上も、配送動線の確保や宅配ボックス容量の設定は義務づけられていません。
そのため、エレベーターの台数・宅配ボックスの数・荷捌きスペースが“建物の規模”に対して追いついていないケースが目立ちます。

「住宅性能やデザインには注目が集まりますが、“生活の裏側の動線”が設計段階から考慮されていない。これが構造的な問題です。」

さらに、タワマンのセキュリティ強化が進むほど、配送ルールも複雑化し、配達員の負担は増加します。
置き配や共用スペースでの一時預かりを禁止している物件も多く、結果的に住民自身が“便利さの代償”を払う形になっているのです。

「便利な不便さ」をどう解決するか

最近では、大手物流企業がタワマン専用の配送チームを編成したり、館内専属の配送業者を置いたりする例も出てきました。
一方で、再配達や待機時間の増加による採算悪化を理由に、「タワマン特別料金」を検討する企業もあるといいます。

つまり、住民側の利便性を守るには、「時間」か「コスト」かのどちらかを差し出す必要があるのが現実なのです。

一級建築士の立場から言えば、今後のマンション計画では「物流動線」も住宅性能の一部として捉えるべきです。
人が暮らす限り、“物が届く”という当たり前の仕組みが成り立たなければ、どれほど豪華な共用施設を備えても、真の快適さは得られません。

“暮らしの快適さ”は、建物の高さでは決まらない

タワーマンションは、都市の象徴であり、技術の結晶でもあります。
しかしその裏で、宅配・清掃・メンテナンスといった“生活を支える仕事”が、見えない苦労の上に成り立っています。

Aさんは最後にこう語りました。

「住む前は“高層階の生活”に夢がありました。でも、実際に暮らしてみると、地に足のついた“便利さ”の方がずっと大切だと気づきました。」

タワマンの宅配問題は、単なる生活の不便ではなく、建築と社会の仕組みのズレを映す鏡かもしれません。
“便利な不便さ”をどう解決するか――それが、これからの都市住宅に問われている課題なのです。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者) 地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。


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