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築45年団地をリノベブームで購入→20畳LDKを作るはずが…40代夫妻を襲った“厳しい現実”【一級建築士は見た】

  • 2026.3.3
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出典元:photoAC(画像はイメージです)

「壁を全部取り払って、光が通り抜けるような大きなお部屋にしたいんです」

そう語ってくれたのは、築45年の団地を購入したSさん(40代)夫妻です。彼らの理想は、細かく仕切られた和室をつなげて、開放感あふれる20畳のLDKを作ることでした。

しかし、現地調査に訪れた私たちが告げなければならなかったのは、厳しい現実でした。

その部屋の真ん中にある厚い壁は、単なる仕切りではなく、建物全体を支える「耐力壁(地震や風などの力に耐えるための重要な壁のこと)」だったのです。

「壁式構造」という団地のルール

多くの古い団地では「壁式構造」という工法が採用されています。これは、柱や梁ではなく、コンクリートの「壁」で建物を支える仕組みです。

・壊せない壁の存在:
この構造では、室内にある一部の壁が建物の強度を保つ重要な役割を果たしています。そのため、どれほど広い空間を求めても、その壁を撤去することはできません。

・間取りの制限:
Sさんのプランでも、ちょうどキッチンとリビングをつなげたい場所にこの耐力壁が居座っており、結局、壁の一部を活かしたセミオープンな間取りへの変更を余儀なくされました。

床下に隠された「スラブ内配管」の罠

間取り以上に予算と設計を悩ませるのが、目に見えない「配管」の問題です。

古い団地の中には、配管が階下の天井裏を通っていたり、コンクリートの床板(スラブ)の中に直接埋め込まれていたりする「スラブ内配管」という形式が多く見られます。

・水回りの移動が困難:
配管がコンクリートに埋まっていると、トイレやキッチンの場所を大きく動かすことが難しくなります。無理に動かそうとすると、排水のための「勾配」が取れず、詰まりの原因になりかねません。

・予算の「溶け方」:
Sさんのケースでは、古くなった配管を現代の基準に合わせて更新するだけで、当初の想定より50万円以上の追加費用がかかりました。見栄えのするキッチンや建具に充てるはずだった予算が、目に見えない「床下」へと消えていったのです。

購入前にできる「セルフチェック」

こうした「構造の壁」を避けるためには、物件選びの段階で以下のポイントを確認しておくのが一つの方法です。

・壁を叩いてみる:
物件の所有者や管理者の許可が得られたら、部屋の仕切り壁を拳で軽く叩いてみてください。コンクリートのような「コツコツ」という硬い音がする場合、それは壊せない壁である可能性が高いといえます。

・天井の「梁」を探す:
逆に、天井に大きな梁が出ている場合は、柱で支える「ラーメン構造」である可能性があり、壁を取り払いやすい傾向にあります。

・図面を確認:
過去のリフォーム事例や、構造図を確認することで、どの壁が撤去可能かをある程度推測できる場合があります。

団地の個性を楽しむリノベーションを

Sさん夫妻は最終的に、壊せない壁を「ギャラリースペース」として活用し、団地特有のレトロな雰囲気を活かした素敵なお住まいを完成させました。

当初の理想とは少し形を変えましたが、今では「この壁があるからこその落ち着きがある」と満足されています。

表面的なきれいさだけでなく、その建物がどのような仕組みで建っているのか。それを理解した上でプランを立てることが、予算オーバーや理想とのギャップを防ぐための、一番の近道となるはずです。


ライター:yukiasobi(一級建築士・建築基準適合判定資格者)
地方自治体で住宅政策・都市計画・建築確認審査など10年以上の実務経験を持つ。現在は住宅・不動産分野に特化したライターとして活動し、空間設計や住宅性能、都市開発に関する知見をもとに、高い専門性と信頼性を兼ね備えた記事を多数執筆している。


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