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朝ドラ『あんぱん』と“15年前の朝ドラ”… 同じテーマでも“真逆の夫婦像”となった2作品の意外な共通点

  • 2025.8.25

NHK連続テレビ小説『あんぱん』のヒロインは、漫画家のやなせたかしの妻・小松暢をモデルにしている。実話を基にしつつも、あくまでオリジナルのストーリーで展開しているので、のぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)は幼なじみとして描かれている。

2025年3月末から放送がスタートし、7月末のエピソードで、嵩がのぶにプロポーズして、ようやく2人は夫婦となった。戦争を機に夫を亡くしたのぶが、ずっと彼女に片想いしていた嵩からプロポーズされ、再婚する設定となっている。

著名な漫画家とその妻の物語と言えば、2010年前期の朝ドラ『ゲゲゲの女房』を思い出す。水木しげると武良布枝夫妻を描いており、松下奈緒がヒロイン・布美枝を、向井理が夫・茂を演じた。『ゲゲゲの鬼太郎』が代表作として知られる水木は1922年生まれ、『アンパンマン』が代表作のやなせは1919年生まれで、2人は同世代にあたる。

そんな2大漫画家の夫婦の物語が、両方とも朝ドラとなり、話題を呼んでいる。今回は、『あんぱん』と『ゲゲゲの女房』の夫婦像を比較し、共通点や相違点を探ってみたい。

夫婦の物語を描く時間が大きく異なる

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『あんぱん』第1週(C)NHK

『あんぱん』の2人は子どもの頃に知り合って、仲の良い友達になるも、のぶは活発で男勝りな性格で、嵩はどちらかと言うと気が弱いタイプ。気づけば嵩はのぶを好きになっていたが、告白できずに大人になっていく。やがて嵩は出征し、のぶは戦時中に見合いで知り合った次郎(中島歩)と結婚。ところが、次郎は肺浸潤で早世してしまう。

戦後、のぶが就職した新聞社に、嵩も後から採用され、一緒に働くも、のぶは代議士の秘書となるために上京。彼女を追う形で嵩も上京し、ついにプロポーズをして、2人は夫婦となった。

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『あんぱん』第18週(C)NHK

一方、『ゲゲゲの女房』は、布美枝が29歳の時に、39歳の貸本漫画家である茂と見合いをし、わずか5日後に結婚。戦争で左腕を失った茂は、黙々と漫画を描くも、2人は極貧の新婚生活を送ることになる。

布美枝と茂の関係を、最初から夫婦として描いた『ゲゲゲの女房』と、なかなか結婚に至らなかったのぶと嵩の物語である『あんぱん』とでは、まず夫婦像を描く部分において、時間のかけ方が大きく異なっている。

マイペースな夫婦と考えすぎる夫婦

出会って5日で夫婦になった布美枝と茂は、ほぼ他人同然の関係から一緒の生活が始まった。だが、徐々に愛情が芽生えていく様子は、視聴者の心を大いにつかんだ。茂は飄々とした雰囲気で、常に机に向かって漫画を描き続け、布美枝はそんな夫を支えながら、どうにか工夫をしつつ、辛抱強く窮乏生活をしのいでいく。

右腕1本で迷いなく、ひたすら漫画を描いて収入を得ようとする茂に対して、『あんぱん』の嵩は、自分には漫画の才能がないと落ち込み、漫画を描くことから逃げてしまったりする。作詞やテレビ出演、ドラマの脚本など、漫画以外の仕事が次々と舞い込み、お金には困らなくなるも、本当に描きたい漫画になかなか向き合おうとしない。そんな嵩の様子に、のぶは自分が夫を追い詰めているのかもしれないと感じ、家出をしたことも。

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『あんぱん』第18週(C)NHK

あまり細かいことを気にせず、「何とかなる」という考えの布美枝と茂の2人と比べ、のぶと嵩は両方ともいろいろと考えすぎるタイプなのではないだろうか。大好きな漫画を描きたいが、才能がないかもしれないと怯え、代表作の『アンパンマン』を生み出すまでに時間がかかる嵩。嵩に存分に漫画を描いてほしいが、追い詰めたくはないし、本当は収入的に夫を頼るのではなく、自分が働いてでも嵩が漫画を描きやすい環境にしたいのぶ。SNSに「『ゲゲゲの女房』と違って極端な困窮はないものの、夫婦そろって内弁慶&器用貧乏」といったコメントがあったが、非常に共感した。

夫婦二人三脚で代表作を生み出す点は共通

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『あんぱん』第18週(C)NHK

『あんぱん』と『ゲゲゲの女房』は、それぞれの代表作を誕生させ、有名な漫画家夫婦となるまで、二人三脚で頑張るという点は共通しているが、内助の功タイプの布美枝と、「女子も大志を抱け」という父の教えを守ってきたのぶとでは、夫との関係の描き方がどうしても変わってくる。

『ゲゲゲの女房』は、武良布枝による同名の自伝エッセイを基にしているため、より史実の色合いが強いが、『あんぱん』は、実際は新聞社で出会った2人を幼なじみの設定にしたという、大きな脚色が施されている。その点から観ると、夫婦の描き方において、『ゲゲゲの女房』も茂が成功するまで波乱万丈ではあるものの、割と安心感がある一方、『あんぱん』はヤキモキする部分がより多いのだと思う。

出典:『あんぱん』なぜ、やなせさんではなく妻を主人公のモデルに? 幼馴染設定にした理由も脚本家・中園ミホ語る(マイナビニュース)

夫の性格が正反対

また、嵩と茂の性格の違いも興味深い。SNSにも「ド貧乏だけど常にギラギラしていた茂さんと違って、嵩は経済的にはそう困窮しない代わりに自己評価が超ド級に低くて、常に自分に自信がない弱々な感じなのが面白い」というコメントが。夫の性格の違いによって、妻との関係の描かれ方も変わってくるから、見比べるとより面白さが増すのでおすすめだ。

お金の余裕がない中、2人の子どもの親となった布美枝と茂。『ゲゲゲの女房』には貧乏神(片桐仁)が登場したりするのだが、印象的だったのは、貧乏神を退散させたい布美枝が茂に「お父ちゃんは漫画家なんですけん、漫画でガツンとやってください!」と言う場面。布美枝のたくましさと、茂への愛が感じられて、良い夫婦だなと実感した。茂の妻や子への不器用な愛情も、とてもほほ笑ましかった。

『あんぱん』の2人には子どもはいないが、やがて誕生する「アンパンマン」が嵩とのぶにとって子どものような存在になり、2人はおしどり夫婦として、ずっと仲良く連れ添っていくこととなる。考えすぎてしまう傾向があるのぶと嵩は、『ゲゲゲの女房』の布美枝と茂とはまた違う夫婦像だが、それぞれ違うタイプの著名漫画家の夫婦像が観られるこの2本は、どちらも見応えのある朝ドラだ。


NHK 連続テレビ小説『あんぱん』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHKプラスで見逃し配信中

ライター:清水久美子(Kumiko Shimizu)
海外ドラマ・映画・音楽について取材・執筆。日本のドラマ・韓国ドラマも守備範囲。朝ドラは長年見続けています。声優をリスペクトしており、吹替やアニメ作品もできる限りチェック。特撮出身俳優のその後を見守り、松坂桃李さんはデビュー時に取材して以来、応援し続けています。
X(旧Twitter):@KumikoShimizuWP